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LIFE.4 癒える傷、癒えない傷

うっし、今月中に間に合った!


だんだん一次創作の感覚を取り戻せて来たような来てないような気がしなくもないような?


書いてて思うのが、更新もスローだけど物語の進行もスローだなぁ、と。

 

 ……………あれ? 僕、いつの間に眠っていたんだろう?


 不意に浮上する意識の中、僕はその疑問を頭に浮かべる。

 その疑問にぼやけた思考を回しながら、覚醒していく五感に意識を向ける。


 伝わってくるのは、ベッドと枕の柔らかな感触と、春の暖かく心地よい風の感覚。


 この香りはなんだろうか? どこか嗅いだことのあるような、消毒液みたいな匂い…………病院?


 何で僕、病院にいるんだろう?


 そこまで意識が回復したところで、目を開ける。

 すると、目の前に広がったのは、僕の家とは全然違う天井の模様。


「…………知らない天井だ」


 なんか言わなきゃいけない気がした。


「ん………」


 なぜか少し重く感じた体を起こし、辺りを見渡す。

 窓の外には、雲の一つも見当たらない、見事に晴れた碧空と、若草に萌える春の植物たち。散りかけた桜の木々から、申し訳程度に桜吹雪が舞っている。


 次に自分の体を見回す。

 腕に刺さっている針と点滴、胸についた機械、一定のリズムでなる機械。

 どれもテレビで見たことのある機材。どこからどう見ても、病院の一室だった。しかも個室。


「……………なぜ?」


 なぜ自分がここにいるのか。

 体を起こして、辺りを見回して、窓の外の豊かな自然を見ても、それだけが思い出せない。


 何かあったような気はするのだが、思い出そうとすると、理由の解らない恐怖で吐きそうになる。



 どうしたものか、と悩んでいると、不意に病室のスライドドアが静かに開けられる。


「あっ」

「え?」


 ナースさんと目が合い、互いに間の抜けたような声を出す。ちなみに最初が僕。

 暫し僕らの間に沈黙が流れたあと、その若ナースさんは慌てたように部屋を飛び出して行った。





 その少しあと、さっきのナースさんに連れられてきたのは、お医者さんと看護主任って人だった。


「一つ質問だ」


 ナースさんたちが世話しなく動き、僕の回りの機材を片付けたり、体を拭いたり、簡単な栄養食を食べたあと、一息ついてお医者さんがそう言ってきた。


「君の名前はなんだい?」

「? 竹井大介、ですが?」


 質問の意図がわからず、首を傾げる。

 先生は、僕のその反応には何も言わず、次の質問を聞いてくる。


「それじゃあ、君がここに来た理由は?」

「理由………」

「君がここに運ばれたのは二日前だ。その間、君はずっと眠っていた事になる」

「二日…………」


 



「ゆっくりでいい。一度に思い出す必要は無いんだから」


 優しい声音で、先生が言い聞かせる。その眼差しは柔らかく、暖かで、まるで暖炉の火のようで……………――――。






 ――――火。



 その言葉を、脳に浮かべた瞬間だった。



「ッ――――――!?」



 熱。匂い。感触。感情。痛み。

 そのすべてを思い出した。その記憶が、一度に甦る。


「おぇぇぇぇ!!」


 腹の底から込み上げて来るその感覚に耐えきれず、僕は盛大に嘔吐する。さっき食べた簡単なご飯がまだ消化されておらず、吐瀉物として布団を汚す。


 ツンと鼻を突く胃液の臭いが立ち込め、布団越しに生暖かさを感じる。


 まだえずく僕の背をナースさんが撫で、布団と吐瀉物の処理を他の看護師さんが行う。




 

「あ、あぁぁぁ………あぁぁぁ!!」


 脳裏に焼き付く光景が、僕を飲み込む。

 

 燃え盛る火が。

 充満する血の臭いが。

 化け物の作る振動が。

 自分を襲う痛みと恐怖が。


「い、嫌だ! 死にたくない! た、助け……誰かッ、誰か…………あぁぁぁあぁぁ!!」


 今いる場所がどこなのかわからなくなる。

 ここが病院なのか。それともあの場所なのか、


 暴れて、今いる場所から転がり落ちる。そのまま這いつくばり、光が見えた場所まで這いずって行く。


「ここは嫌だ! し、しに、死にたくない! 誰か! 煉夜!」


 光が指した場所、窓の縁に手をかけ、身を乗り出す。

 後ろで騒がしい物音と、誰かの怒鳴り声が聞こえる。

 化け物だろうか? 化け物が僕を追いかけて来たのだろうか?


『……くん! …おち……く……い!』


 何か叫んでいる。だけどそれは、僕には聞き取れない。


『だ…か……か………とめ……』


 後ろから、何体もの化け物が組ついてくる。


「は、離して! 嫌だ! 離せぇぇ!」 


 振り払おうともがくが、僕の力では振り払うことができず、そのまま押さえつけられてしまう。

 化け物が僕の肩を掴み、何事かを叫ぶ。


『……す……ん!………だい……くん!』


 化け物は僕の肩を揺さぶりながら、何度も声をあげる。

 最初は何を言っているのかわからなかった言葉が、段々と明瞭な物となっていき、灰色の肌をしていたその姿が、肌色へと変わっていく。




『……すけくん!……………大介くん!」


「ぁ………あ………?」


 そこでようやく、僕は現状を正しく認識した。


 ここは病院の五階にある病室。

 あのデパートではない。故に危険などなく、ましてやあんな化け物なんか、どこにもいない。


「大丈夫、大丈夫ですから、落ち着いて下さい……………ほら、深呼吸」


 僕の肩を抱き締めたナースさんが、背中を優しく撫でながら耳元で囁く。


「ここは病院です。軍直属の。ですから、危険なんてこれっぽっちもありませんよ。ほら、怖くない、怖くない」


 優しく慰められ、宥められ、その温もりに、心が落ち着いていく。それを自覚すると、眠気が襲ってくる。

 さっき目覚めたばかりだと言うのに、僕の瞼はゆっくりと落ちていった。







◆◇◆◇◆◇◆







 彼が眠ったことを確認した私は、彼を寝かしつけた看護婦から彼を受け取り、新しいシーツを用意したベッドに寝かせる。


「彼、予想以上に取り乱していましたね」


 後ろにいた看護主任が呟く。


「仕方がないさ。大抵の人間は、死を間近にして、深い絶望を味わうと心が壊れてトラウマになってしまう。それなのに彼は、その『死』そのものを経験してしまったんだからね」


 乱れた病衣から見える、ちょうど心臓の真上に刻まれた文字。つまり【文字(キャラクター)】。


「『NoLife(不死)』か…………」

「どうかなさいました?」

「いや、不死は太古の昔から人類が憧れていた物らしいけど、こうして見ると辛いものだな、と」

「そう、ですね…………それも、こんな戦いなど知らない、平和な場所で生まれた少年がそれに目覚め、そして体験してしまうなんて………あまりに酷すぎます」


 看護主任の言葉に、私は頷きを返す。


「この力で体の傷は癒えても、心の傷はどうしようもない、か……………儘ならない物だな」

「ええ、まったく………松岡先生。このあとは?」

「………彼が目覚めたら、メンタルヘルスから始めよう。無理に聞き出しても、彼のトラウマを深刻な物にさせるだけだ」

「わかりました。それと、面会の方は………」

「私が許可する一部だけだ。彼の家族と、私の友人、そしてその部下のみとする」

「わかりました」


 彼が穏やかな寝息を立てたのを見計らい、私と主任は病室をあとにする。

 と、そこで私は振り返り、そこにいた新人の看護婦に声をかける。


「神結。悪いけど、彼を見ていてくれないか? 目覚めたら私を呼んでくれ」

「あ、はい、わかりましたー。まっかせて下さい、飛鳥(アスカ)先生!」


 そんな間の抜けた返事をするのは、肩下までのセミロングを、簡単に紐で縛った新人の女性。

 彼女の名前は神結(かみゆい)遥乃(ハルノ)。看護学校を卒業して間もないと言うのに、その仕事ぶりはベテランに近いものがあり、皆から一目置かれているような存在だ。


 彼女の返事を聞いた私は、ついでに一つ、聞きたかったことを聞く事にした。


「ところで、君なんか手慣れてたな、さっきの」

「え? あぁ、それはですね、私の弟もパニックになるとあんな感じになるので、まぁ、慣れと言いますか癖と言いますか…………… 」

「なるほど」


 答えが聞けた私は、頷きながら「頼んだよ」と彼女に言ってその場を後にした。


「さて、と………まずはアイツと黒神くん、あと家族さんに連絡しなきゃな」


 あー、アイツに電話するのタルいなぁ…………絶対煩いんだもん……………、なんてことをぼやきつつ、私は携帯を手にとるのだった。







◆◇◆◇◆◇◆







 悪夢を見た。

 地獄を経験した。

 死を体験した。


 普通なら精神が壊れてもおかしくないほどの狂気と絶望を体験して尚、僕がこうして、僕自身でいられるのはきっと、沢山の人達のお陰だろう。


 何度も半狂乱になって暴れる僕を、根気よく説得し、ケアし、ちゃんと人と会話できるまでにさせてくれた松岡先生。

 暴れるたびに僕を宥め、慰め、暴れて散らかした物を、仕事とは言えイヤな顔せず片付けてくれた神結さん。


 そして何より、


『大介ぇ、よがっだ……無事で良かっだよぉああ!!』

『だいずげぇぇ!』

『守ると誓ったのに…………ごめんよ、大介…………生きていてくれて、ありがとう…………っ!』


 両親と、親友のお陰だと思う。


 最初の面会の時、両親と共にやって来た彼が、僕の両親と一緒に号泣していた記憶に新しい。


 それから彼や両親が、ほとんど毎日ここに来ては、甲斐甲斐しく僕を看病してくれた。

 お陰で、僕は何とか精神を持ち直し、まだ完全とは言えないけれど、心は着実に治りはじめているそうだ。



 今でも、あの経験には実感が持てずにいる。

 けど、夜になると、時々あの日の全てが蘇ってくる。

 ちゃんとあるはずなのに、両足を砕かれた痛みと衝撃が蘇り、夜中に絶叫したこともあった。

 あるはずのない熱と臭いに怯えて病室を飛び出し、廊下で吐いたこともあった。


 それでも、治療の効果は着々と進んでいき、僕のそういった症状はゆっくりとだが、確実にケアされていった。













 そうして、最初に僕が入院してから、二ヶ月がたった梅雨のある日、僕は彼女に出会うのだった。





実際、戦争でのトラウマとかは何年もかけて治していくそうなのですが、ぶっちゃけそれをやると物語がガチで進まないので、巻きで行きます。


さて、次の戦闘はいつになることやら………(ぇ

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