LIFE.3 不死の力
はい、すんません! 遅くなりましたぁ!
というか、こんなペースで進めていく……………かも知れません。
出来ることなら月2、3位で更新できるよう頑張ります。
「な、なにごと!?」
それが起きたのは、本屋で目的の本を買い、本屋を出た直後だった。
突然の爆音と震動、そして悲鳴。
初めは何が起きたのか理解することが出来なかった。
だがすぐに、戦場で培ってきた経験から理解する。襲撃だと。
ただ一つ理解できないのは、なぜこんな、最前線から離れた町で起きるのか、だ。
今の戦争の最前線はアメリカ東部。しかしここは日本で、それも首都圏だ。戦争の影響は少ないはずなのに。
「っ! 大介!」
なぜ襲撃が起こったのか、敵の目的はなんなのか、今は情報が全く無いためわからないが、それでも成すべき事は真っ先に思い浮かぶ。
「無事でいてくれ………っ!」
自分のたった一人の親友。誰よりも守りたい友人を守る。
俺はその意思を果たすために走り出す。
途中、小鬼魔の群れ襲われたが、腰に忍ばせていたナイフで応戦する。
「どけ、雑魚ども! お前らに構っている暇はない!」
ナイフで6体のゴブリンの首、心臓、脛椎を的確に切り裂いていく。
「くそ、ナイフじゃ心許ないか」
一応念のためとして、軍から支給されたサバイバルナイフは携行していたものの、それは量産ものであり、【鍛冶師】が鍛え上げた業物とは比べるのも烏滸がましい性能だ。
故に、いくら俺が刀剣の扱いに長けた【剣聖】といえども、これで敵を仕留め続けるのはかなり無理があると言うもの。
「でも、行かなくちゃ!」
なるべく戦闘を避けながら、最短ルートで広場を目指す。
所々、瓦礫で道が塞がれているのがもどかしい。自分の班にいる爆弾魔(自称芸術家)がいれば近道できると言うのに。
もう少しで到着する、と言うところで、俺を呼ぶ声がする。
「班長!!」
俺を班長と呼ぶのは、俺の率いる第3班の班員のみ。
振り向けば、そこには盾と剣を携えた美少女、【守護士】の『神凪咲月』の姿が。
「咲月さん!? どうしてここに?」
「あら、私がいちゃいけないかしら? 私だって休暇なのよ?」
いや、俺が聞きたいのはそう言うことじゃなくて。
そう言おうとして、口を開こうとするが、彼女によってそれは遮られてしまう。
「まあ、嘘なんだけどね。それと、はい」
そう言って手渡されたのは、一本の両刃の両手剣。一見、何の装飾もなく、変哲もない鋼の剣だが、その実【鍛冶師】によって属性付与がなされた名剣だ。
付与された属性は《不壊》。そして剣の銘はその属性からとった、《不壊聖剣》
本来なら精鋭と言えども、軍曹級の自分には回ってこない代物だが、まぁ、個人的なツテで手に入れた俺の相棒だ。
「ありがとう………ってか嘘かよ!」
「それより、こんなところで立ち止まっている暇はないわ。取り残された人達を助けないと」
「わかってます!」
互いに、同時に走り出す。精鋭と言われる俺の班で、俺含む三人しかいない前衛の一人だ。実力はかなりの物でゴブリン相手なら盾を使うまでもなく、片手まで薙ぎ払っていく。
「もうすぐ、援軍が到着するはずよ」
「援軍? なんでそんなことが………いや、そもそも咲月さんは、どうしてここに?」
「彼女が『視た』のよ」
「朱音が?」
朱音。フルネームを赤神朱音。どこの班にも所属していないが、咲月さんとは個人的な付き合いのある少女で、【文字】は未来に起こる可能性のある出来事を視る能力【夢見】。
当たる確率は100%では無いにしろ、警戒する価値は大いにあるため、軍から重宝されている。
「ここもかクソッタレ!」
再び瓦礫で閉ざされた道に行き当たってしまう。
イライラ混じりに言葉を吐き捨て踵を返す。
「……どうしたの、班長?」
「…………いえ、すみません」
「ほら、お姉さんに話してご覧なさい?」
隣を走る咲月さんを見やれば、彼女は俺の顔を見つめ、言葉を待っている。
「……………俺は今、市民の安全よりも、たった一人の命のために動いています」
「友達?」
「はい、俺の一番大切な友達です」
俺はそう言うと、走る速度を上げる。
「なら、急いだ方が良いわね。さっき、トロールの声も聞こえたから」
咲月さんも速度を上げる。
「彼はどこにいるの?」
「シェルターにいれば万々歳ですが、なにぶん、あいつは運動音痴ですからね………もしかしたら取り残されているのかも……………まずはフードコートにいきます」
「了解!」
◆◆◆◆◆◆
エレベーターが止まり、階段や廊下があちこち潰れているデパートはかなり複雑で、まさに迷路と言える状態だった。
お陰で、三階の書店から一階のフードコートまで降りてくるのにかなりの時間が掛かってしまった。
一階から上がってきた咲月さんに案内された道も塞がっていたりなどもあった。
そして、俺たちはようやく、フードコートへと到着したのだった。
「大介!」
入った瞬間に大声で大介の名を呼ぶ。
もしここに隠れているなら、すぐに出てきてくれるはずだ……………
「っ!?」
そこで俺は、目の前の惨劇に気が付く。
折り重なった死体。四肢をもがれた死体。四肢しか残っていない死体。上下の別れた死体。
ありとあらゆる死が、そこにはあった。
「なに、これ………」
戦場で死というものに慣れてしまった俺達でさえも、この現状に吐き気を覚える。
ここに大介はいない。いるはずがない。
大介ならきっと逃げたはずだ。あいつならきっと。
「行きましょう、咲月さん。ここに大介はいませ……………」
コツン、と、爪先に固いものが当たる。
下を見れば、そこには肘から上がない誰かの左腕。
トロールに殺された誰かの腕なのだろう。知らないとはいえそれを蹴ってしまった事に罪悪感が湧き、せめて遺体のそばへ持っていこうと持ち上げたその時だった。
「これは………」
その左腕に巻き付いている腕時計。
某メーカーの、象に踏まれたりホッケーで飛ばされたりしても大丈夫と銘打たれた頑丈で武骨なデザインのそれは、俺の親友が愛用していた物で……………
「嘘だ………」
あり得ない。そんなのは嘘だ。たまたま他の人が付けていただけかもしれない。
俺の心を埋め尽くすのは恐怖だ。その恐怖に飲まれながら、ゆっくりと左を振り向く。
そこには、足と上半身を潰された死体。顔はわからない。
でも―――――、
「班長?」
「あ、ああ………ああぁぁ」
靴、ズボン、上着、荷物。
それらのすべてに見覚えがある。
ほんの数十分前まで見ていたのだから。
横には飛び散った荷物の中から溢れたのか、バラバラに成った財布が落ちていて、そこから生徒手帳が落ちていた。
そこに書かれている名前は………………………。
「―――――――」
その名前を見た瞬間、俺は世界が足元から消えていくような感覚にとらわれ、その場に膝を付く。
「班長!」
なんで。どうして。大介が死んだ。嘘だ。これは夢だ。大介が死んだ。きっとドッキリなんだ。他人の空似だ。大介が死んだ。服や持ち物が似ているだけだ。大介は手帳を落としただけ。大介が死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。
「あぁぁあぁあああ!!」
涙と絶叫が溢れた。
喪失感、無力感、怒り、嘆き。
そういった感情が身の内を支配する。
そこに、声が聞こえた。
「アー? ィギノゴリイ………マダイダァ……………」
醜悪な笑みを浮かべた見にくい化け物。手に持つ棍棒からは、血が滴っている。
「お前か………」
この惨劇を生んだのは。
大介を殺したのは。
「ァー?」
「お前かぁあぁぁあ!!」
そして俺は、怒りに任せて剣を振りかざして走り出したのだった。
◆◆◆◆◆◆
気がつけば俺は、動かない肉塊にただただ剣を突き刺し続けていた。
体は血塗れで、ずっと叫んでいたのか、喉はヒリヒリと痛む。
「大介…………」
死んでしまった、友人の名を呼ぶ。
引っ越してきたばかりで、友達のいなかった俺と遊んでくれた、最初の友達。
臆病で、何もできなかった俺を引っ張って、それでも何かポカをやらかすドジな友人。
俺がなんでもできるようになっても、側にいてくれた親友。
いつのまにか臆病で、追い越してしまった友人。
それなのに、俺を親友だと、兄弟のような相手だと言ってくれた、大切な友人。
「守れなかった………守れなかった! 誓ったのに………守るって、この剣に誓ったのに!」
この剣は、大介のお陰で手に入れたも同然の品だ。妬まれ、疎まれ、立ち竦んだ俺のケツを蹴りあげて、前に歩み出させてくれた大介のお陰で。
泣き叫ぶ。物言わぬ彼の亡骸の前で。もはや原型などほとんど残っていない肉塊に謝りながら。
「は、班長………班長!」
咲月さんの俺を呼ぶ声がする。
どこか慌てのあるその声に、顔を上げる。
「こ、これを見てください」
彼女が指差す先には先程と変わらない肉塊が……………
「っ!?」
いや、変化はあった。
塊の中心部。恐らく心臓があったであろう位置が、仄かな光を放っていた。
「この、光は………」
知っている。この光は、俺達【文字付き】にとって、余りに慣れ親しんだ物だ。
「まさか、そんな……………」
咲月さんの驚愕が聞こえる。
俺だって驚いてる。まさか、大介に【文字】が出るなんて……………いや、そもそも死んでも発動、或いは死を条件に発動する能力なんて、聞いたことがない。
その光を覗き込むと、そこには一つの英単語が書かれていた。
掠れた声で、その文字を読み上げる。
「ノー……ライフ」
不死、不死者。死なない者。死ねない者。
その文字があるということは、つまり……………
その時だった。
動かぬはずの物が動き始める。飛び散った肉片が、広がった血が、砕けた骨が、1ヶ所を目指して。
まるでビデオを逆再生で見ているような気分だった。
砕けた骨の欠片と欠片がくっつき、そこに血管、内臓、筋肉などが集まっていく。
人が、組み立てられていく。
「大、介………」
変化が始まって数秒後、そこには一人の少年がいた。
傷一つ無く、一糸纏わぬまま眠りにつく、死んだはずの少年が。
急いでその胸に耳を当てると、聞こえてくるのは静かな呼吸音と鼓動。
「生きてる……………生きてる! 大介が生きて……………っ!」
ジャケットを脱ぎ、大介に被せながら彼を抱き締める。
不死の【文字】。ただ死なないという能力なのだろうが、今は感謝しよう。その能力のお陰で、俺は大介にまた会えた。また、恩返しができる。
泣き叫びながら、俺は抱き締め続けた。
ただ、咲月さんが持ってきてくれた毛布にくるまれた彼は、それでも目を覚ますことは無かったが。
そんなわけで第3話にして早速他人パート。主人公今だ目覚めず。
それではまた次回、よろしくお願いいたします。
ps.感想くれると、フリムンが狂喜乱舞からの鬼神乱舞致します。なんならリアルの方でエイサー踊ります。多分。