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LIFE.2 僕の親友とハジマリ

 翌朝。


「……………」

「おい見ろよ母さん。大介の奴、飯食いながら寝てるぞ」

「あらま。………全く、また夜更かししたのね」

「んぁ? ……あ」


 両親の言葉に反応して顔をあげると、その拍子に卵焼きを落としてしまう。


「大丈夫、3秒ルール適用内。夜更かしは、ちょっとね」


 あのあと、興奮が全く冷めず、結局夜更かしをしてしまった。

 と言うか、眠れる訳がない。本当ならあのあと、すぐにでも試して見たかったくらいだ。

 

 けど、【文字付き(キャラクターズ)】が戦闘などの活動をする場合、国の許可が必要で、そもそも、個人的なツテが無い限り武器の入手は国に申請しなければ不可能だ。


 さて、国への申請はおろか、まず両親に知らせなきゃなんない訳だけど……………ま、夜でいいか。面倒だし、それにすぐ同行なるわけでもなし。


 それに何より、正体を隠して皆を救ったりとか、ちょっと憧れない?


「大介、今日は煉夜くんと遊びに行くんだよね?」

「うん。ちょっと街の方まで。そろそろ来ると思うけど」


 と、そこで噂をすればなんとやら、タイミングよくインターホンが鳴る。


「やぁ、大介」


 ドアを開けると、爽やかな笑顔を浮かべるイケメンが一人。


「久しぶりだね、煉夜」


 そのイケメンの名は刀神(とうがみ)煉夜(れんや)。我が町が誇る最強の【文字付き(キャラクターズ)】と呼ばれている。


 【文字(キャラクター)】は【SwordMaster】。つまり【剣聖】と呼ばれる、刀剣の扱いに長けた役職(ジョブ)で、近接戦闘において彼に敵うのは、この国において最高最強と謳われる【Braver(勇者)】くらい、と言われるほどの物。


 かつて彼の戦いを見たときは、鳥肌が収まらなかったのを覚えてる。

 圧倒的な戦闘力、素人目にも美しいと思える太刀筋。

 憧れた。強く強く、恐らく誰よりも強く憧れた。


 幼い頃からよく見てきた相手だからこそ、その憧れは強かった。


「悪いね、俺の買い物に付き合わせちゃって」

「気にしなくていいよ、別に。特に予定も無いし、基本僕は暇だからね」


 彼とは幼い頃、それこそ、幼稚園の頃からの付き合いだ。

 なぜか馬の合った僕らは、基本的にいつも一緒にいて、時折兄弟や双子に間違えられたことがあるくらいだ。


 尤も、小学校の高学年辺りから徐々に、そして中学に上がってからは大きく、僕らの差は開いていった。


 何をするにもそつなくこなせる煉夜と、何をするにも大抵失敗する僕。

 人格者で顔もよく、皆から好かれる煉夜と、地味で人見知りな、存在感の薄い僕。

 成績優秀で先生からの期待も厚かった煉夜と、期待もされず警戒もされなかった、一般生徒な僕。


 見事なまでに正反対で、回りからはなぜ一緒にいられるのかが不思議名くらいだ、と言われたまでだ。


「それで、何を買うんだい? 貴重な日曜日を費やしてまで」

「ちょっと部隊の子にね」

「…………スケコマシが」

「誤解だ!」


 正直、僕は彼に劣等感を抱いていた。

 何でもできる彼と、共に育ったはずなのに何もできない僕。劣等感を抱くなと言う方が難しい。


 でも、今では尊敬や憧れの方が強い。


 彼は僕を見捨てなかった。

 どれ程僕より優れた人材に出会おうとも、良い出会いに恵まれようとも、彼は僕を友達と、親友と言ってくれた。


 無論、嫉妬や劣等感の感情は未だ持っている。


 でも、煉夜が僕のために怒ってくれたから。

 煉夜が、謂れの無い誹謗中傷を受けた僕の代わりに激怒してくれたから、だから僕は彼に憧れて、彼の親友であろうとする。


 昔と変わらず、バカな話をして、猥談をして、たまに叱られる。


 彼は現在、【文字付き(キャラクターズ)】として戦場に立ち、魔法人たちと戦っている。

 だから僕は嬉しかった。【文字(キャラクター)】を手にいれて、僕の憧れの隣に立てると思い、嬉しかった。


「ま、煉夜が天然ジゴロなのは子供の頃からだし、もう慣れたよ」

「いや、だからそんなんじゃないし……………そもそも相手男だし」 

「今日限りで僕らは赤の他人です、ホモめが」

「違うから! 違うからまって距離取らないで! 大ちゃんカムバーック!!」


 笑いながら道を走る。

 あいつの事だから、運動音痴な僕の走りなんか、スキップでも捕まえられるだろう。

 むしろ先回りしてくるレベル。



 まあ、なんにせよ、久しぶりに親友と過ごす休日も悪くはないって事だ。







◆◆◆◆◆◆






「それでホモ夜、どんなオモチャ(意味深)を買うんだい?」

「まだ引っ張るか貴様ぁ!」

「え? 違うの?」

「違うわ! ………漫画だよ漫画。部隊の購買に置いてないから、帰省ついでに頼むとの事だ」

「……………それなら僕いらなくね?」

「いいんだよ、久し振りの休日なんだから、ダチと遊んだっていいだろ」


 久し振りの休日。

 一般人(僕ら)にとっては毎週の事でも、彼ら【文字付き(キャラクターズ)】ではそうもいかない。

 【文字付き(キャラクターズ)】は優秀で貴重な戦力であり、それが発現した時から基本は軍属となり、軍事訓練を受けることとなる。そして最悪、即戦力としてすぐさま戦場送りとなる。

 煉夜もその例に漏れず、二年前のとある一件で発現して以来、今では【文字付き(キャラクターズ)】の特殊部隊第3班の班長として、第一線で敵を退けていると言う。


「久し振りなら仕方ないな。どこいくんだよ」

「駅前の繁華街かな。あそこなら大抵揃ってるし」

「あいよ」


 そうして、僕らは繁華街へと歩みを進める。





 ―――その先の未来など、一切予想しないままに。






◆◆◆◆◆◆







「おのれ大介許すまじ」

「えー」

「えー、じゃないわ! ちょっと手加減って物をなぁ!」

「格ゲーは初心者を苛めるゲーム」

「うわカスだ」


 繁華街に到着した僕らがまず真っ先に向かったのは、ゲームセンターだった。


 そこで、遊ぶ内に時間も経ち、時刻は既に昼過ぎ、昼食の時間から少し過ぎた時間帯となっていた。


「結構時間経ったなー」

「煉夜昼飯どうする?」

「軽くバーガーとかでいいんじゃない?」


 バーガーか。なら、そこのフードコートだな。


 そう思い至り、その場所へと足を向けると、思い出したように煉夜が言う。


「あ、悪い大介。先に行っててくれ」

「どうした?」

「いや、漫画の事忘れてたわ。忘れない内に買ってくる」

「おー、行ってらー」


 そうして僕らは、一時的に距離を取ることになった。







 ――――もし、ここで煉夜に着いていけば、多少は未来が変わったのかもしれない。

 僕は今でも、そう思う。







◆◆◆◆◆◆





 


 始まり(終わり)って物は、いつも唐突で、突拍子が無くて、誰の都合も考えない物だ。


 だから、誰もこんな出来事を、想像すら出来なかっただろう。

 もしかしたら誰かはしていたのかもしれない。けど、少なくとも僕らはしていなかった。




 煉夜を待ってる間に、少し催した為、念のため彼に連絡を送った後、僕はトイレに来ていた。

 用を済ませ、手を洗っている時だった。



 爆音。震動。悲鳴。破壊音。



 普通に日常を過ごしていれば、画面の向こうでしか聞くことの出来ないそれらが、僕の鼓膜を揺さぶる。


「な、なに!?」


 余りに異常なそれに、慌てて廊下へ出ると、そこは先程まで見ていた景色とは、まるで正反対の光景だった。


「…………え?」


 壊れた壁、立ち上る黒煙、聞こえてくる悲鳴、獣のような咆哮。


 そして………充満する、生臭い血の臭い。


「これは、いったい……………」


 余りに現実離れした現実に、僕は一瞬呆け、その後、すぐに思い立つ。


「そ、そうだ、煉夜、煉夜のところなら!」


 そこなら、下手なシェルターよりも安全だ。だって彼は、【剣聖】なのだから。


 彼が向かった書店へ向かって、僕は一歩を踏み出す。

 その一歩が、なぜか重く感じた。遅れて、恐怖で体が上手くいかないのだと理解する。



 それでも懸命に足を動かして、しばらく歩き続けた時、そいつはいた。




『ギュルルゥ………』

「ひっ!」


 緑の小柄な体躯に、小さな尖った牙、鋭い爪をもった化け物。


 小鬼魔(ゴブリン)

 物語では最初に倒される、スライムと並ぶ雑魚モンスター。


 だがそれは、物語、あるいはある程度戦える力を持つ者のみが言えることだ。

 小柄なくせに、並の男子高校生以上の腕力を持つ彼らは、戦う手段を持たない一般人にとって、大いに驚異となりうる存在だ。


『ギェァァア!!』

「う、うわぁぁぁあ!!」


 ゴブリンが飛びかかって来る。

 非力な僕では、太刀打出来ないまま終わるのだろう。


 目を瞑り、来るはずの痛みを待つ。少しでも楽に終われるようにと。



 だが、






「はぁぁぁぁあ!! せい!」



 そんな声と、くぐもったゴブリンの声、そして金属に柔らかい物と固い物がぶつかる微かな音。

 

「え?」


 恐る恐る、目を開ける。





 するとそこには、美しい黒銀がいた。


 その手に刃先を紅く染めた白銀の剣と白銀の盾を持ち、その体は黒衣で覆い、長い黒髪が、体の動きに合わせて揺れ動く。



「……………」



 場違いなほどに、僕はその人を美しいと思った。

 若干煤で汚れていても損なわれることのない、白磁のように滑らかな肌が、背を向けられた僕の場所からでもよく見える。


「君、大丈夫?」


 振り向きかけられた声は、凛としていながらも優しく、僕はその声音に、一瞬で聞き入ってしまい、返答が少し遅れる。


「は、はい、なんとか……………」


 そう答えると、彼女は良かった、とそう笑い、僕の後ろを見る。


「君は早くシェルターに行きなさい。ここは私に任せて」


 振り向くと、味方がやられたのを察知したのか、数匹のゴブリンが集まってこちらに向かって来ていた。


「で、でも、あの数は!」

「大丈夫、お姉さんを信じなさいな。この【守護士(ガーディアン)】の、神凪(かんなぎ)咲月(さつき)さんをね」


 自信満々にそう名乗る彼女。どうやら【文字付き(キャラクターズ)】のようだ。


「わかりました…………が、頑張って下さい」

「はいな!」


 そのやり取りを交わした後、僕らは別々の場所へと走り出した。

 彼女は目の前の敵を殲滅するために。

 僕は最強の幼馴染みの元へ向かうために。








 僕がしっかりと動けたのはそこまでだった。





 その道を走り抜けて、書店へ繋がる広場へ抜けたとき、そいつはいた。



 科学文明地球の民では、爆撃か【文字付き(キャラクターズ)】でしか対抗できないと言われた化け物。

 圧倒的な腕力と生命力を持つ、鬼。



 巨鬼魔(トロール)



 そしてその鬼が作り出したであろう、惨劇。


 あちこちに血が飛び散り、肉が壁に張り付き、人間だった物が、折り重なり床を染める、そんな地獄。



「なに…………これ……………」




 そして思い出す。

 夢の光景を。


 何度も何度も死を繰り返したあの夢の、その一つの死に様を。





 ――――ああ、なんて酷い正夢なのだろうか。













 そうしてその日、僕は無様に死んだ。


 泣き喚きながら、せっかく助けてもらった命を永らえさせる事もできず、自分の胸に刻まれた【文字(キャラクター)】を告げることもなく、僕はその日、死んだ―――――――。




昨日の雪で人生初の雪遊び……………堪能した。


そしてまだ上手く書けてない感じのするこの頃。



※神凪咲月の【文字(キャラクター)】を【守護士(ガーディアン)】に変更しました

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