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異世界鉄道株式会社

異世界鉄道株式会社 外伝 妖精たちの年越祭

作者: 白波

 妖精歴1490年シノンの月30日。

 妖精歴においてちょうど1500年目の節目に当たる妖精歴1500年をまもなく迎えようというこの日、セントラル・エリアにはたくさんの妖精たちが集まっていた。

 その目的はセントラル・エリアの中央にそびえる巨木の根元にある広間で催される年越祭(としこしまつり)に参加することだ。


 たくさんいる妖精たちに交じり、会場である広場に到着した緑の長い髪が特徴の妖精マノンもその一人だ。


 彼女は自分の周囲にいる他の妖精たちとあいさつを交わしながら、広場の奥の方にある雪像の方へと向かう。

 会場の入り口周辺は森中から集まった妖精たちが思い思いに談笑していて、そのエリアを通過すると年越祭のメインのイベントである年越しの儀が行われる櫓が組んである広場の中央部に到達する。

 その横を通りぬければ、ようやくこの祭りのもう一つのメインイベントである雪像コンテストの会場に到着した。


 まず、一番最初に視界に入るのは妖精たちの長であるカノンが作った巨大な雪像だ。テーマは“願いの大樹”とある。

 どうやって作ったのかはわからないが、雪像はしっかりと木の枝や葉まで作られていて、それ相応の魔法を使って形を構成し、形状を維持しているのがうかがえる。


 その横にあるのはシノンが作った雪像だ。テーマは“妖精の長老”となっている。モデルは間違いなくカノンだろう。

 少しデフォルメされたカノンはとてもきれいな雪像となっている。若干、シノンの願望が混じっているような気がするのはおそらく、気のせいだろう。


 そんな雪像を横目にマノンは順番に雪像を見ていく。


 年越祭は雪像コンテストと年を越すその瞬間に行われる年越しの儀で構成されているのだが、マノンは年越しの儀に参加しなくてはならないので雪像コンテストの会場を見れる時間というのは限られている。飾られている雪像にかけられている魔法も今夜一杯で切れるので明日の朝になればこれらはただの雪に戻っているのだろう。


 その儚さこそが雪像コンテストのメインだという人は多いが、マノンからすればもう少し維持をして数日間にわたって鑑賞するというのもいいような気がする。何が言いたいかといえば、中途半端に溶けるのが嫌だからといって、年越しの儀が終わると同時に溶ける仕組みにする必要などまったくないということだ。

 実際に作っている人たちがどう思っているかは知らないが、マノンのように当日に鑑賞できる時間が限られているような一部の妖精や大妖精からすれば、もう少しゆっくりとみたいという本音があるのではないだろうか?


 いや、そんなものがあったら、とっくの昔に改正されているような気もするので、おそらく何かしらの意図があってそうなったのだろう。いや、単純にあまりセントラル・エリアに入ってほしくないから、早々に処分しているという可能性が一番高いような気もする。むしろ、そう言ってくれないと納得がいかない。


 思考がそこまで至ったとき、マノンはおおきく息を吐いた。


「まったく、相変わらず他人をここに入れたくないのは変わらないのね」


 普段、このセントラル・エリアは妖精の上位にあたる種族の大妖精しか入れない。元々、妖精は排他的な種族であり、それは大妖精にも当てはまる。そのため、大妖精は基本的に妖精を軽々とは寄せ付けようとしない。雪像コンテストについてはまさにこの事例にぴったりとあてはまる。


 そう考えると、なんだかはめられているような気がしてきて、マノンは今一度、大きくたて息をついた。


「よっ! マノン。どうしたんだよ。こんな日に暗い顔して」


 先のマノンの思考を遮るようにして背後から声がかかる。

 マノンが振り返ると、マノンと同様に妖精であるリノンが赤色の果実を片手に立っていた。


「別に……深い意味なんてないわ」

「そうか? まぁそれならいいが……まぁでも、せっかくの日なんだから楽しまないとな。どうだ? たまには一緒に」

「……そうね。そうしましょうか」


 リノンのその言葉に背中を押されるようにして、マノンはリノンとともに会場を歩き始める。


 そのあとも大妖精が作った雪像以外に普通の妖精たちが作った作品も見て回り、それぞれに点をつけて投票する。その得点の総合計で結果が決まるのだからと、肩を張りそうになるが、横でリノンがおもった通りに適当につけるなどというものだから、すっかりとそれに流される。


 そんな風にしていると、最初ごちゃごちゃと考えていたことがどうでもよくなってきて、気が付けばすっかりと祭りを楽しんでいた。


「なぁマノン。次はあっちの方見てみようぜ!」


 リノンに手を引かれて、マノンは会場の端の方へと向かう。

 会場の端の方はコンテストとは関係なく、祭りを盛り上げるために作られた雪像が多数あり、それらはコンテスト用とはまた違った魅力がある。

 たくさんの妖精の合作だったり、本人曰く適当に作ったような芸術だったりと、自由な分、より個性が強く出ている。


 中には夏の花や風物詩を雪像で作るなどといった冒険心あふれるものもいくつか見受けられた。


「なぁやっぱり暗い顔していない方が楽しいだろ?」


 どこからとってきたのか、新しい果実を手にしたリノンがマノンに話しかける。


「まぁそうね。悪くはないわ」

「……相変わらず可愛げがないな。せめて、もう少し笑顔を浮かべるとかしたらどうなんだ?」

「考えておくわ。そろそろ、年越しの儀の準備だから行くわ」


 マノンはそれだけ言って、立ち去っていく。


「なんだよ。つまんないやつ」


 背後からそんな声が聞こえてきたような気もするが、マノンは気にせずに歩いていく。


 なお、この数百年後リノンのアドバイスに従って行動した結果、死ぬほど後悔するのはまた、別の話。

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