7.あの日(8)
「カラスさんは、知ってたの? あの日、私がキタミの疑似体に同調するって」
「どうかな。佐保がいなくなって、抜け殻になった疑似体を見るのが辛くて、でも手離せなかった時、彼女は相性がいい者同士なら何度でも惹かれあうはずだと言ってくれた。だから、もう一度、佐保が同調してくれるのを待ってた。俺を忘れても、佐保に会えるなら……」
私がキタミを忘れた時、キタミは……。
それでも待っていてくれたのか。
忘れてしまって、ごめん。
それは言葉にはしなかった。
「待っててくれてありがとう。キタミ」
「うん」
カラスさん、絶対に普通のカラスじゃないよね。
いやカラスの世界にも私にわからない世界があるに違いない。
あの日、キタミが鞄を持ってカラスさんの後を付いていっていたら、あの疑似体にはカラスさんが同調したような気がする。
カラスさんならできたと思う。
カラスさんが選ばなかったのか、キタミに選ばせたのか、疑似体に選ばせたのか。
それはわからない。
ただ、凄いなと思う。
あの子はどうするだろう。
以前のキタミと似た、あの少年。
私にはキタミを誘拐した危険人物だが、キタミには理解できるところが多いのだろう。
「カラスさん、あの子のワニ、気に入るかな?」
「さあ」
全く気のない返事だった。
何故なんだ。
キタミが紹介したのではないか!
「カラスさんが気に入ってくれたら、何とかプロなんとかが手に入って、一緒に撮れるんでしょ?」
「そうだけど、あれに同調する彼女をみるのは嬉しくないな」
あの子の疑似体を選ぶことへの嫉妬、かな?
それとも、カラスさんがワニになるのは気に入らない?
紹介はしたものの上手くいけばいったで複雑な気分らしい。
カラスさんがワニになるのは私もイメージできなかったが。
うまくいけばいいなと思った。
それから二週間ほど経った頃、キタミのもとに少年から連絡がきた。
何とかプロとかいう機械を使って撮った映像を添えて。
私も見せてもらったのだが。
その映像は、少年の肩に黒い猫が乗っかっていて、少年の顔は引き締めようとして失敗している顔だった。
開け放たれた窓には黒いカラスが数匹。不吉な。
カラスさんの要望で黒猫の疑似体を作成し、他のカラス達用にも疑似体を作成中なのだとか。
ごくたまにワニの疑似体にも同調してくれるらしい。
少年はすっかりカラスさんの下僕になり下がっていた。
まあ、その……よかったな、少年。




