表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ぺんぎん・らいふ  作者: 朝野りょう
ぺんぎん・らいふ+(プラス)
95/318

7.あの日(5)

「鞄を離したくはなかったけど、そうすれば彼女が同調してくれるかもしれないと、鞄を置いた」

 

 私が同調したあの日。

 歩道の木に持たせかけられた鞄は、そういうことだったのか。

 

 キタミの鞄の中にあった疑似体は、カラスさん同調してもらうために持ってきていたもの。

 あの少年はキタミの疑似体を狙っていた。

 鞄を持ったままキタミが移動していれば、カラスさんが疑似体に同調していたはず……。

 

「公園までついていって、そこで彼女に言われたんだ。自分には合わない、だから同調はできないだろうってね。それでも試してみてくれと言ったら、今頃は同調できる相手が近付いているはずだって言われて。慌てて鞄の所に走ったら、佐保がいたんだ」

 

「そう、だったんだ……」

「驚いたよ。目の前で同調するのを見たのは、はじめてだった。人が同調するのは例が少なくて、同調できても佐保がどういう状態でいるのかわからなかった。知っててそれでも、俺はその場で同調解除はしなかった。勝手に同調されたことや彼女に断られた腹いせもあったかもしれない。今更だけど、ごめん、佐保」

「ううん」

 

 最初、無愛想だとは思った。

 あの時、キタミは怒ってたのだ。

 最初の対応は私もピリピリしてて態度が悪かっただろうから人のことは言えない。

 キタミはいろいろと世話をしてくれたのだし、キタミにも事情があった。

 最終的には私を解除してくれて、私はこうしているのだから、結果オーライというやつなのだろう。

 

「動けないだろうと思ってたのに、キョロキョロして、喋ろうとして、電車の中ではウトウト寝始めるから、おかしかったよ」

 

 疑似体で眠るのは珍しいというから、おかしくもあるだろう。

 まあ、その、あれだ。

 電車の揺れというのは心地よいものなのだ。例えペンギンの姿であっても。

 

「佐保が歩いたり、首を傾げたり、何をする姿も、もう可愛くて……。それを見て、やっとわかったんだ。彼女の言ったことが」

 

 彼女の言ったこと? 同調できないだろうって?

 カラスさんなら同調できた気がする。

 あの時、鞄のそばにいたのがカラスさんだったら。

 

「彼女には合わない。だから同調もできない。でも佐保には合う。同調もできる。俺には現地生物が同調するってことが全然わかってなかった。同調した佐保を見るまで」

 

 キタミは私を見ていた。夕陽に照らされ目を細めて笑っていた。

 

「佐保は違ってた。渡航者が同調するのとは全く違うんだ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誤字などありましたらぜひ拍手ボタンでお知らせくださいませ。m(_ _)m
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ