6.みんなでお茶を(9)
「キタミ-」
隣でコーヒーカップを口に運ぶキタミの肩を、頭で軽く叩いて訴えた。
同調解除したいのだ。
頼むよう。
うるうるとペンギンのつぶらな瞳で訴えてみた。
どうだ、キタミ。
解除したくなっただろう!
「ああ、ごめんな、佐保」
キタミはフォークでケーキを小さく切って、私の顔の前に差し出した。
「ほら、あ-ん」
そうじゃないんだよぅ。
同調解除して欲しいだけなのだ。
なぜわかってくれないんだ、キタミ!
八坂さんの視線が横顔に突き刺さる。
八坂さんだけではなく黒沢も私の方を見ている。
八坂さんの疑惑を解いた後なので、私が同調解除してと言ってキタミが断る場面を見せたくはない。
とすれば、このままキタミに食べさせてもらうしかないのか。
キタミはとても楽しそうだった。
彼等が見ているのをわかっているのだ。
八坂さんに対してではなく、おそらくは黒沢への自慢。
フレンド自慢というやつか。
キタミは生クリーム系が好きではないのに結局一緒に来てくれたわけだから、キタミの黒沢への自慢くらいさせてあげたい。
だが、八坂さんの視線が、痛い。
う-ん。う-ん。
「佐保?」
私はキタミへの恩返しを優先し、口を開いた。
嘴の上に黒い塊がちょこんと乗せられる。
口を閉じると同時に、柔らかなスポンジがつぶれて、濃厚なやや苦みのある甘味が喉を流れた。
ふわんと鼻から抜けるのは、スポンジに含まれていたアルコールか。
そして、スポンジ部分が喉の奥へと送りこまれ、最後は上顎と舌に絡みついていたケーキ表面のチョコレートが、口いっぱいに広がる。
おおっ、何という感動。
さすがはアルトの悪魔チョコ・ケーキ。
バタバタと羽を動かして、興奮の余韻に浸る。
う-ん、満足!
「佐保は、可愛いなぁ」
ん? うっ、マズイ。
あまりの美味しさに、うっかり……。
「あ-、うん。美味しいよね」
私は明るくその場を誤魔化すように言ってみた。
八坂さんの顔は直視できなかったので、ケーキを見つめて。
キタミのフォークが次の一切れを切ってくれる。
「ほんと、ここ悪魔チョコ・ケーキは最高よね」
「……うん……」
八坂さんが笑顔で同意してくれた。
それは嬉しいのだが。
彼女には「あーん」な場面は別に面白くも何ともない場面のようだった。
黒沢も、当然キタミも全く平然とした面持ちで。
私が一人恥ずかしがっていただけらしい。
「あーん」は世間的に普通の行動と認識されていたのか。
知らなかった。




