2.家の中を歩いてみよう(3)
「いつの間に部屋から出てたんだ? 心配したんだぞ。腹でも減ったか? 気が利かなくて悪いな」
本当に気が利かないよ。
私はうんうんと頷いた。
その彼はベッドの横で立ち上がった。
「飯、買ってくる。怪我はないようだから痛みがおさまるまで留守番しててくれな」
だから、仰向けだとね。
人間じゃないから、困るわけよ。
見てわからないかな?
私はバンバンと腕(羽)でシーツを叩いて訴えた。
しかし。
「待ってろよ。すぐ戻るから」
机に置いてあった財布をお尻のポケットに押し込むと部屋を出ていった。
だーかーらー。
気の利かない奴。
私は横にコロンと転がった。
すると簡単にうつ伏せ状態になった。
解決。
なんだ。そうだよね。
腹筋使って起きようとすること自体が間違いだった。
ペンギンなんだし。
縦じゃなくて、横ならいいんだよ。横なら。
私ったらモリモリ進化中―。
ペンギンとしてだが。
腹這いのまま方向を転換する。
シーツがくしゅくしゅ。
だが、気にしない。
気の利かない彼が悪いのだから。
私は手と足を使って前に進んだ。
皺になったシーツの上では滑りは悪い。
だが、立てないのだから滑るしかなかった。
立てない?
いや、ペンギンは立って歩く。
ならば私に立てないはずはない。
では、どうすれば立てるのか。
手だけで立とうとするから駄目なのだ。
手では長さが足りないのだから。
横転がりは、立つための動作にはつながらないだろう。
そんなことを考えながらも、私はベッドの上を円を描くようにスイスイと腹で滑っていた。
次第に馴れてくる。
このシーツ、足で踏ん張って蹴れば進みがよいとわかってきた。
方向を円ではなく直線に変えた。
そして速度を上げてみる。
イケる。
足の蹴りは力強い。
シーツはシルクなのか、なめらかで滑りが良く、上手くすればかなりの加速が生み出せる。
これなら。
Uターンして、再度。
ダダダダダダッ。
イケる。
私はまたUターンした。
枕のところまで戻った私は、静かに意識を集中させる。
前方にはローテーブルがあるのが見え、その横に二人掛けのローソファーが見える。
ベッドからテーブルまではかなりの距離があるだろう。
だが、イメージはそれに向けて跳ぶ、感じだ。
集中だ。
集中するんだ。
私は鳥だ。鳥になれ!
イメージを固めると、一気に足を踏み出した。
ダダダダダダダダダッ
猛スピードで弾丸ダッシュ。
勢いに乗ったところで手を下に付いて身体を浮かせ……るばずだったが。
ずるりん。
予想以上にシーツの皺の山が手の踏ん張りをきかせる邪魔となってしまった。
だが、可能性を見た!
僅かながら浮いた時間はあったのだ。
成功は近い。
私は方向を転換し、枕の方へと戻りながら、シーツの皺をせっせと伸ばした。




