4.ペンギンでも空を飛ぶ(4)
とにかく辺りが薄暗くてよく見えない。
「キタミ? いるの? どこ?」
「ここだよ、佐保」
キョロキョロしているとひょいと脇を掴まれ持ち上げられた。
キタミの顔のあたりまで。
「どうしたんだ?」
キタミの顔はよく見えないが、そこにいるのはわかる。
目が慣れてきた。
声は普通に聞こえる。
キタミの声は、普通すぎた。
大変なことになっているわけではないのだろうか。
私が騒ぎすぎてしまったのか?
「キタミが朝から連絡とれなくて……黒沢に訊いても、わからないって……」
昼間の学校で同調してしまったことに、私の口は言い訳のようなものを並べていた。
黒沢だけならまだしも一緒にいた女生徒にもばっちり見られた。
見られたらどうなるのだろう。
管理局発信で忘れろ電波が活躍するのだろうか。
そして黒沢は彼女に忘れられる、と。
気の毒に。
そんなことを考えていると。
「心配してくれたのか。ありがとう、佐保」
「ここ、どこ?」
「船、UFOの中だよ。この前、海で見たろ?」
そうか。
キタミも宇宙人だからUFOを持っているのか。
あの部屋だけじゃなくて、こっちで過ごすこともあるのだろう。
キタミの生活は私が知っているものばかりではないのだ。
少し寂しく思った。
「時間がよくわからなかったけど、もう朝になってたのか」
「うん。メールしても電話しても返事ないから」
「ごめん。スマホを取られてしまって、連絡できなかったんだ」
「え?」
スマホを取られて?
誰に?
どうしてスマホを取られたの?
そういえば、どうしてここは薄暗いの?
連絡できなかった?
ここは、キタミのUFOじゃない?
疑問が山のように頭に浮かんだ。
それに応えるようにキタミは言葉を続ける。
「佐保の言った通り、俺の作った疑似体が欲しくて、俺をここに連れてきたみたいだ」
キタミの声が落ち着いてるので、何でもないような事に聞こえた。
だが、何者かがキタミをここに連れてきて、外部と連絡できないようにしているのだ。
それは、誘拐、というではないだろうか。
「ここから出られない? 誰かに攫われて閉じ込められてるの?」
「出られなかったけど。佐保がいるから、もう出られるよ」
相変わらずキタミの説明はよくわからない。
でも、出られるのなら、こんなところにいる必要はないだろう。
「じゃあ、帰ろうよ」
「そうだな」
キタミは私を抱えて歩き出した。
一応、今、キタミは誘拐されているんだよ、ね?




