3.世間の話題にのれません(5)
月曜日、学校へ行くと下駄箱でキタミが待っていた。
といっても、これはいつものこと。
「おはよう、キタミ」
私がポッキーを渡した日から、彼は毎朝こうして下駄箱のところで隠れるようにして立っている。
彼は毎朝、私が彼に声をかけるか、彼を忘れて素通りするかを確認しているようなのだ。
フレンド登録をする前は、私がいつ忘れるかわからないと思っていたらしく、おはようと声をかけるとホッと顔を緩めていた。
そのイケメン顔には、言葉を失うほど威力があった。
今では、そこまで必死な様子はない。
フレンド登録をしたのが大きかったのだろう。
フレンドになったのだから私はキタミの忘れろ電波に影響されないはずだが、彼がこうして待っているのは変わらない。
また私が忘れるかもと心配らしい。
すっぱり忘れすぎた自分の過去が痛い。
「おはよう、佐保」
まあ朝から艶のあるイケメンを拝めるため、私としては全く問題無し。自分にだけ向けられる、この微笑み。朝から味わう満足感たるやいかばかりか。
ああ今日もいい朝だ。
今日から先週のテストが返ってくるだろうから、私の気分もとてもよい。
ペンギンでの暗記効果が出ているはず。
効果絶大で自信満々。
これほどテストが返却されるのが待ち遠しかったことがかつてあっただろうか。いや、ない。
弾みそうなくらい軽い足取りでキタミと三年の教室へ向かって廊下を歩く。
「ね、キタミ。一昨日、私を助けてくれたカラスって、キタミの知り合い?」
「ああ、うん。そうだよ」
「やっぱり? あの時、すごく助かったから、お礼言いたいんだけど」
「俺も佐保を助けてくれたお礼をしようと思ってた。放課後、時間ある?」
「あるよ」
「お礼のプレゼントを買いに行きたいんだ。一緒に行って、選んでくれないか?」
「うん、行く。で、プレゼントって何? もう決まってるの?」
「彼女が一番好きなのは、ダイヤなんだ」
は?
彼女が?
一番好きなのは、ダイヤ?
今、カラスの話だよね?
「ダイヤ? ダイヤモンドのこと?」
「そう」
「買いに行くって、どこに?」
「宝石店だよ」
「カラスへのプレゼントなんだよね?」
「そうだよ」
「ダイヤ? 金とか銀じゃなくて?」
「金や銀は飽きたらしいんだ。ボーイフレンド達に貰ってるから。彼女、モテるんだ。佐保を助けてくれたカラス達がいたろ? あれが多分、彼女のボーイフレンド達なんだろうな」
「そ、そう……」
さらりと普通のことのように話しているので、キタミにとってはおかしなことではないらしい。
おそらく、過去に、金か銀かダイヤモンドか、またはそれら全てをプレゼントしたことがあると思われる。
キタミ、もう貢いでいたのか。
とうに手遅れだったんだな。
カラスがダイヤ……。
お礼は心が大事だと思う。
そうさ、金額じゃない。
ありがとう。大事なのは、その心だ。そうだろう?




