1.海へ行こう(2)
それは、ペンギンの姿でということだな?
ペンギンと、海。
素晴らしいマッチングだ。きっと絵になるだろう。
それは私にも理解はできる。
だが。
外に出るには、あの黄色いポンチョを着なければならなくなる。
他人には見えないとはいえ、あまり見目かわいい姿ではない。
それに、ペンギンの姿では少しの距離でもかなりの距離となってしまう。あの歩幅なので、移動が大変なのだ。
それを思うと億劫になる。
しかし、お出掛け、だ。
海という魅力的な場所へのお出掛け。
女子高生には、素晴らしく魅力的なお誘いだった。
「同調するのは海にいる間だけでいいんだ。海をバックに佐保の姿を撮りたい。きっと、すごく可愛いと思う」
キタミの声に熱がこもる。
キタミ、あのペンギン疑似体が好きだからなぁ。
海辺でちょっとだけペンギン姿で遊ぶくらいなら、まあいいかな。
電車に乗って、キタミと、海、か。
二人で週末に出かける約束。
何だか、くすぐったいような嬉しさが込み上げた。
「いいよ。いつにする?」
「テストが終わった週末は?」
「わかった」
キタミとお出掛け。
どんな格好で行こうかな。
テストが終わるのが、今から楽しみだった。
そして、テスト終了後の週末。
青空が広がり、天頂の太陽の陽射しはきつく暑いくらいだ。
もう夏はもうすぐそこまで来ているらしい。
ザザーン、ザザーン
繰り返し押し寄せる白波。
風は潮の香りを運んでくる。
ついに、来た。
海に!
私は海原を見つめてしみじみする。
夏以外で海に来ることなんてそうそうあることではない。
しかも男子と二人なのだ。
このシチュエーションには浮かれてしまう。
私がニヤニヤしていると。
「佐保、合図をしたら、波打ち際を走ってみてくれ。ああ、海に向かって歩いていく佐保の後ろ姿も撮るからな! でも、海に入るのは、まだ後にしてくれな」
私以上にテンションの高いキタミの声。
うん、まあ、いいけど。
私はペンギン姿でキタミのカメラチェック待ちだった。
海にいる間だけでいい、という話だったはずなのだが。
実は当日になって彼は色々な(ペンギンの)佐保を撮りたいと言い出した。
海へと向かう電車には乗客が少なかったため、これくらいなら黄色のポンチョを着る必要がないらしい。
どこに線引きがあるのかはわからなかったが追及はしなかった。
きっと彼の説明は複雑怪奇理解不能だろうから。
そして、ここへ来るまでの間にキタミは撮りまくった。
駅で佇む(ペンギンの)私。
電車の椅子に座って窓の外を眺める(ペンギンの)私。
電車の椅子でキタミを見上げる(ペンギンの)私。
撮った端から、キタミは大絶賛である。
私も見せてもらったが、ペンギンの姿が映っているだけだ。
しかしキタミは可愛い、可愛い、を連発。
もう少し語彙を増やそうよと思ったが、興奮している今のキタミには届かないだろう。
それくらい今日のキタミは初めからハイテンションだった。
よほど(ペンギンの)私と海に行けるのが嬉しかったらしい。
電車で可愛いを連発してはしゃぎまくるキタミは、普通なら相当に浮いているはずだが。
彼の発する強力忘れろ電波の威力は、凄まじい。
彼の声に誰一人反応しない。
乗り合わせた乗客たちの視界に入っているはずなのに。
すごい。
これほどの威力があるとは、思わなかった。
電車に乗っているのに、まるでキタミと私だけが異空間にいるかのようだった。
今までは、キタミ一人がそう感じていたのだろう。
今は(ペンギンの)私がいる。
キタミがハイテンションなのは、そういう理由もあるのかもしれないと思った。




