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ぺんぎん・らいふ  作者: 朝野りょう
ぺんぎん・らいふ
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11.ぺんぎん・らいふ(2)

 私は結局、先生の言葉が全く耳に入らない時間を過ごし、家路についた。

 そして引き出しの中から、写真の束を取り出した。

 高校に入ってからの写真だった。

 整理しておらず、束ねただけの乱雑さ。

 そのうち整理するつもりだったそれを、私は一枚一枚めくった。

 

 転んだ時に見た、椅子の迫る様子。

 沸き上がった恐怖。

 そして、一瞬、綺麗な笑顔の男子の顔が浮かんだ。

 一瞬で消えたけど、その顔には見覚えがあると思った。

 

 見覚えがあると思ったが、その顔が誰かはわからなかった。

 そして今は顔も思い出せない。

 どこで見たのだろう。

 

 写真を見れば思い出すだろうと思ったが、繰っても繰ってもイケメンのイの字も出てこない。

 学校の行事の時に撮った写真だから、基本、私といつも一緒にいたクラスメイトが映っている。

 なので、そこに男子がいる写真の数は極端に少ない。

 イケメンどころの話ではなかった。

 

 繰っていく写真の間からヒラリと小さなよれよれの紙が落ちた。

 それはその時の座席表だった。

 去年と一昨年、両方。こんなのを残しておくとは。

 苦笑しながら自分の席を確認してみた。

 ちょっと前のことなのに、懐かしい。

 

 斜め後ろの席に、北見祐。

 キタミ。

 彼の名前を私ははじめて知った。

 

 私は様々な事を思い出していた。

 ペンギンの姿で過ごした奇妙な時間のことや。

 屋上でぼんやりしていた朝のわけ。

 佐保は忘れる、そう言った、彼の声を。

 

 あのルームランナー。

 私が二年の時、従妹が邪魔になったからとルームランナーを家に置いて帰ったことがあった。

 母と一緒に使い始めたけど、母はすぐに飽きてしまった。

 でも私はぼーっと走れるので結構好きだと、学校で話したことがあった。

 彼はそんなクラスメイトとの些細な会話を覚えていたのかもしれない。

 私は忘れていると知っていたのだろうに。

 

 そうして私はまた忘れたのだ。

 ペンギンから同調を解かれた時に、彼のことを。

 彼等の話だとゆっくりフェイドアウトするような感じかと思ったが、まあ見事にあっさりすっぱりと忘れたものだ。

 これでは彼が忘れると断言したのも頷ける。

 

 それが彼等の存在ならば、仕方がない。

 そう言ってしまうのは簡単だったが。

 思い出した以上、忘れてしまうのは罪な気がした。

 

 学校で転びそうになったせいで、私はたまたま記憶の底に眠っていた過去を思い出したのだろうと思う。

 目の前に迫るというシチュエーションのせいだったのかもしれない。

 

 今、思い出しはしても、これを何時まで覚えているかはわからない。

 あれだけあっさりと忘れたのだから、また忘れる可能性は大きいだろう。

 

 それでも。

 散々お世話になったお礼を伝えたいと思う。

 忘れてしまってごめんと伝えたいと思う。

 だが、伝えたとして、私がまたそれを忘れるのは、彼にとって嬉しい事ではない。

 

 彼は忘れない。

 なのに、相手は忘れる。

 それを知りたくはないし、見たくもないに違いない。

 

 彼の友人は、忘れない人もいるし、前に忘れたからといってまた忘れるとは限らないと言っていた。

 

 もしもこの先も忘れずにいられたら、彼に会いに行こう。

 忘れないでいられたら、いいのに。


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