11.ぺんぎん・らいふ(1)
誰もいない屋上に私はポツンと一人で立っていた。
どうしてこんなところにいるのか。
まあ、いいか。
私は教室へと戻った。
「おはよう、米田さん。今日は早いね」
「あ、おはよう、杉野さん」
右隣の席のクラスメイトと言葉を交わしながら席に着いた。
机の上の鞄を開けて教科書を取りだす。
「あれ?」
「どうかした?」
「うん。なんか、曜日を勘違いしたみたいで、古典の教科書忘れたみたい」
「じゃ、一緒に見る?」
「ごめん、お願いしまーす。後でおかしをプレゼントー」
「ポテチでいいよ」
笑いあいながら、おかしいなと頭を捻った。
教科書を忘れるなんて今まで一度もなかったのだ。
大半の教科書を机に放り込んでいるからというのはあるのだが。
私は隣の杉野さんに教科書を見せてもらって、その日を乗り切った。
言葉を交わすこともあったけど、まだそれほど親しくなかった杉野さんとこれをきっかけに言葉を交わすようになった。
三年になってまだ一カ月程度では、なかなか新しい友達はできない。
部活が同じだったり、前から知っていたりする人同士でお喋りしていると、そこには入り込めない。
積極的に話しかける方でもなければ、難しい。
だから、教科書を忘れたのはラッキーだったと思った。
朝、屋上にいたことは、すっかり忘れていた。
なぜそこにいたのかも考えることなく。
そんなある日。
「あ、あぶないっ」
杉野さんの声は、私の前のめりの態勢に向かってかけられていた。
私は何かにつまずいたのだ。
そして今まさに転ぼうとしている真っ最中。
転んでいる最中にあぶないと言われても既に手遅れで、どうしようもない。
眼前は、机とそこに置かれた私の鞄が迫っていた。
鞄の上ならまだしも、角に当たるのはマズイ。
身が抉れる。絶対、痛い。
何とかしなきゃ。
その時、ふっと恐怖が込み上げた。
目の前に椅子が迫る。
落ちたら死ぬ。
落ちる。
ガタガタッ
私は大きな音を立てて、椅子に倒れ込んでいた。
「大丈夫、米田さん?」
「大丈夫か?」
クラスメイト達が私に声をかけてくる。
私は無様な格好で転んでいた。
呆然としながら、さっきの奇妙な感覚のせいで、私の手は震えていた。
「大丈夫、大丈夫」
私は立ち上がってスカートの埃を払った。
そして自分の席に戻ったが、指の震えはまだ残っている。
死ぬような状況ではなかった。
あの時、脳裏に見たのは何だったのか。
浮かんでくる疑問を押しやり、私は次の授業のために教科書を取り出した。




