10.ぺんぎん・らいふ終了(2)
「おはよう、北見」
「黒沢、用があるならさっさと済ませよう」
キタミは友人に対して挨拶も返さない。
不機嫌そのものといった態度を露わにしていた。
キタミの友人はそれを咎めたりはしなかった。
だが、どことなく険しい表情に見える。
昨日は二人とも親しくて仲が良さそうに見えたのだが。
「米田佐保さん、だよね? 俺は八組の黒沢だ。よろしく」
この姿で名を呼ばれたことに驚いたが、私はキタミの懐から顔を出し、ぺこりとお辞儀した。
ポンチョ着てるのに黒沢さんには私が見えるのか。
見えなくてもいると思っているのか。
「昨日の怪我は治ったのかな? 痛くはない?」
私は頷いた。
「それは良かった。さすがに同調しているのが人だとは思わなかったから、影響の大きさを計算違いしていたんだ。でも、何ともなさそうでよかった」
同調しているのが、人だと思わなかった?
昨日の時点ではペンギンに同調しているのは、動物か何かだと思っていた?
キタミはカラスと同調させるつもりだったわけだから、そう考えてもおかしくはないのか。
では、どうして私が米田佐保だと?
「米田さんの同調をどうして解かないんだ、北見?」
なぜ同調を解かないと言われても、機械が壊れているから戻れないだけだが。
昨日そう言ってなかった?
「同調解除はできるはずだ。今すぐ解除しろ。翻訳機能を切ったまま彼女を同調させ続ければ、管理局もさすがにおかしいと気付く」
翻訳機能を切ったまま?
同調は解除できる?
キタミの友人は明らかにキタミを責めていた。
まるでキタミが私をわざと喋らせない、元に戻さないでいるかのようだ。
「彼女の自由を奪ってどうする? こんなことが知れたら、下手をすれば死亡処分にされるぞ、お前」
坦々と訴えるキタミの友人。
キタミは何も答えない。
機械が壊れているからだとなぜ答えないのだろう。
キタミは何を考えているのか。
「それだけか?」
「北見」
「俺は、死亡処分になっても構わない」
キタミの声は静かだった。
死亡処分になっても構わない。
それでは、キタミの友人が責めている内容を認めることになる。
同調解除をしない。
翻訳機能を切ってる。
私の自由を奪っている。
意味はわからないのに、何を指すのかはわかってしまう。
なぜ。
死亡処分って何?
その言葉は恐ろしい響きに聞こえるが、キタミは構わないという。
わからない。
わからない。
私はキタミの顔を振り仰いだ。
そこには微笑むキタミの顔が私を見下ろしていた。
「佐保と一緒にいられるのなら、それでいい」




