10.ぺんぎん・らいふ終了(1)
翌日の早朝。
私は再び黄色いポンチョと蝶ネクタイを身につけて、キタミの懐の中にいた。
学校へ向かうためだ。
昨晩、友人からの電話にキタミは相当に抵抗していた。
言い争っていたわけではないが、意見が食い違っているようだった。
しかし相手の説得に渋々応じた結果となったらしい。
電話の後、彼は私に明日学校へ一緒に行って欲しいと頼んだ。
朝、友人に会ったらすぐに帰る。
今度は絶対に私を離したり、怪我をさせたりはしない。
だから一緒に行ってくれないか、と。
そう言いながらも。
行きたくないなら止めよう。
恐い思いをした後だから、まだ家にいた方がいいよな。
と、彼は行かなくていい理由を並べた。
私を心配してくれての言葉なのだろうが。
私に学校へ行って欲しいのか、行って欲しくないのか。
キタミが行きたくない、のか。
私は行くという方に声を出して同意した。
キタミの友人にお礼を伝えるチャンスなのだ。
こういうのは早い方がいい。
それに、キタミの友人はぐったりした状態の私しか見ていないのだから、元気な様子を確認したいのかもしれない。
昨日の今日で一緒に学校へというのを、キタミとしては渋るのもわかる。
私は机から落ちる時、絶対に死ぬと思ったし、キタミの慌てた様子は相当だったと思う。
あれこれと私の面倒を見ていた彼だ。
精神的ダメージは私よりキタミの方が大きかったのかもしれない。
だが、同じ失敗は繰り返さなければいい。
他人には見えないのだと自覚して、私は私で気を付ける。
そうすることで昨日のような危険は回避できると思う。
私はそう考えて行くことにしたのだが。
彼はその晩、もう嬉しそうな顔を浮かべることはなかった。
今日のことを不安に思っていたのだろう。
せっかく仲直りしたというのに重い空気のままの夜となった。
学校に行くことに同意したのを少しだけ後悔した。
友人と会うのをさっさと済ませて、早く元のように戻って欲しい。
そう思って、ふとおかしなことに気づいた。
私はペンギンから高校生の私に戻ることを望むべきだ。
なのに、ペンギンの姿に笑み崩れているキタミがいる状況、そこに戻って欲しいと私は望んだ。
ペンギンが好きなキタミとの空間を、結構気に入っているらしい。
もちろん女子高校生に戻りたいとは思う。
だけど、それは、おそらくはこの特殊な環境の終わりであり、キタミとの関係も終わる時。
それを残念に思っている。
他人にこれほど喜んでもらえる機会も、人生の内でそうはない。
だから私は本当の自分に戻るという現実に目をつぶった。
それがいいことか悪いことかは別にして。
そんな時があってもいいと思う。
今だけなのだから。
そして今朝。
昨晩の重い空気のままキタミは学校の階段を上る。
屋上で待っていたのは、思った通り、キタミの友人だった。




