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ぺんぎん・らいふ  作者: 朝野りょう
ぺんぎん・らいふ
3/318

1.ぺんぎん・らいふ開始(3)

「おいっ、起きろ!」

 

 近くで男性の声が降ってきて驚いて目を開けると、私の鞄がアップで迫っていた。

 あ、机に突っ伏して眠ってたのか。

 私は身体を起こそうと腕に力を入れたのだが、腹がつっかえて起き上がれない。

 

 腹?

 そして目線を下ろすと、手は、手ではない何か。

 

 毛でおおわれているそれは、私が動かしたように机を押して身体を支えようとしている。

 ただ、人の腕ではないだけで。

 

 忘れていた。

 私は今ペンギンになってるのだった。

 

 しかも座ってないし、寝そべってるし。

 どうして机に突っ伏してると思ったかな、私。

 いや、そもそも、ここはどこなのか。

 

 私は腹ばいの状態から、ジタバタと足を動かし、腕をつっかえ棒のようにして、起き上がろうとした。

 だが、前に滑って鞄に突っ込んだだけだった。

 

 頭から突っ込んだ拍子に、鞄が揺れる。

 そして。

 

 鞄が、壁が、倒れてくる。

 

 お、おっ、おおおっ。

 重いっ、重いぞ。これは死ぬ!

 

 自分の鞄に潰されて死ぬ?

 憐れすぎる。

 

 

「遊んでんなよ、お前。可愛いすぎるだろうが!」

 

 私の上にあった鞄が取り除かれ、私は声の主に救出された。

 ひょいと私の身体が持ち上げられた。

 

「ウアッ」

 

 可愛い?何言ってるんだ!という抗議の声をあげた。

 遊んでいたわけではない。

 私は生命の危機に遭遇していたのだ。

 そう主張する。

 

 が、たぶん通じていない。

 無念。

 

 

 ぶらんぶらんと垂れてるペンギンの腕が宙に揺れる。

 まだ馴れないが、これが私の手、か。

 

 そして私の鞄が遠のいていく。

 私がさっきいたのはこの部屋に置かれたローテーブルの上だったらしい。

 そこから彼の勉強机?の方へと運ばれる。

 

「じっとしてろよ」

 

 私は彼の膝の上に降ろされた。

 彼は制服からグレーのTシャツにジーンズというシンプルな格好に着替えていた。

 そして彼のアップがすぐそこに。

 アップに耐えうる。

 それがイケメン。

 

 私は視線をそらすため横を向いた。

 この部屋は私の部屋の倍以上はあるだろう広さだが、何となくがらんとした部屋だった。

 彼の部屋なのだろうに高校生男子にしてはグチャグチャしておらず片付けられている。

 いや、高校生男子の一般的な部屋を知っているわけではない。

 単なる一般的にぐちゃぐちゃだと聞いたことがあり、そう思ったにすぎない。

 偏見というやつだろう。

 

 私の部屋の方がよほどマンガ本が散らかっているような気がするので、彼は綺麗好きなのかもしれない。

 

 そんなことを考えているうちに、彼は私の首に蝶ネクタイのようなものを取り付けていた。

 

 ペンギンに、蝶ネクタイ?

 バカなの?

 アホなの?

 マニアなの?

 首を捻ったら、この身体の首は異様に首の曲がりがよかった。

 すごいな、これ。

 

「これで喋れるはずだ」

「ウアッ」

「え?」

「ゥアァッ」

「喋れ、ない、のか?」

 

 喋れないとまずいらしい。

 私はぶんっと大きく首を縦に振った。

 

 横の振りも見事な可動領域だったけれど、縦方向もすごい。

 真後ろまでいけるんじゃないかという角度から真下まで。

 この首は自由度が違う。

 

「悪いと思ったけど、お前が寝てる間にお前の鞄の中を見させてもらった。身元を確認しておきたかったんだ。吉井高校三年の米田佐保さん、だよな?」

「ゥアッ」

「実は……」

 

 彼にはこの状況が理解できているらしい。

 よかった、よかった。

 さきほどバカアホマニアと罵ったことを心の中で反省し、私は彼の言葉に耳を傾けた。


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