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ぺんぎん・らいふ  作者: 朝野りょう
ぺんぎん・らいふ

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8.運動をしよう(3)

 別にルームランナーを使うのが嫌だと言っているわけではない。

 実はぼーっと走るだけというのは好きだったりする。

 しかし、今はペンギンである。

 

 このルームランナーは、ペットの犬用だろう。

 製造メーカーも、これをペンギンが使用することを想定しているとは考えられない。

 ペンギンは水中を泳ぐ動物であって、陸上を走る動物ではないのだ。

 足も短い。

 この絨毯の上を歩くのですらモタモタするくらいである。

 

 それなのに、なぜ走らせようと思った?

 疑問が私の頭の中を支配する。

 

 だが。

 目の前にドーンと据えられたルームランナーは、人用ではないので彼に使用できるはずもない。

 私が使用せねば、置かれただけの邪魔な飾りとなってしまうだろう。

 これは意外に場所を取るのだ。

 キタミの部屋は広いが、小さくはない邪魔モノを置いておくには綺麗すぎた。

 

 そして頭上では、期待の籠った眼差しが爛々と輝いている。

 やるしかあるまい。

 

 私はルームランナーへと恐る恐る踏み出した。

 

 

 段差は、乗り越えられる高さだ。

 ドムッドムッと私はランニングベルトの上にあがった。

 

 足を踏み出す。

 じわりとベルトが動いた。

 

 しかし、まだまだ、だ。

 

 ドムッ

 ドムッ

 右、左と足を交わす。

 水掻きのついた足がべろんとベルトを押し流す。

 

 さあ、流れが、来る!

 ドムッ

 ドムッ

 ダムッ、ダムッ、ダムッ

 

 速度が上がる。

 交わす足も早くなる。

 

 ダムダムダムダムダーーーーー

 

 私の身体はランニングベルトから流れ落ちた。

 予想通りに。

 

「すごいぞ、佐保っ。よくがんばったな! えらいぞー」

 

 キタミの声は興奮に弾んでいた。

 喜んでもらえて嬉しいよ。

 

 だが、立ち上がるのが大変なんだがな。

 

 私は流れ落ちた状態で思った。

 ペンギンって意外に走れるんだな、と。

 

 この態勢の私を見て、キタミは何をしているのかと首を上げてキョロキョロする。

 彼はいそいそとルームランナーの回りを移動し、カメラのアングルに頭を悩ませていた。

 

 ペンギンの短い足で必死に走る姿はとても可愛いかもしれない。

 だが、それは、自分自身の姿でさえなければ、の話だ。

 不貞腐れる。

 やさぐれる。

 

 キタミは放っておこう。

 私はルームランナーの側面に手をついた。

 その勾配にあわせて徐々に高い方へと動けば、立ち上がれるのではないかと考えたのだ。

 その考えは正しかった。

 ルームランナーの勾配が緩やか過ぎではあるが、立てないわけではない。

 これがその役目を終えたとしても、他にも利用価値ある。

 これは存在意義に大きく影響するだろう。

 

 立ち上がった私は、再度、ルームランナーに立ち向かう。

 

「がんばれっ、佐保!」

 

 応援はあり難いが。

 彼の目は真剣にカメラのレンズに固定されていた。

 

 ふっとそれを流し見て、私は足を踏み出した。

 

 ドムッ、ドムッ

 ドムッドムッ

 

 ここまではいいんだ。

 ここまでは。

 

 ダムッダムッダムッダムッ

 

 こっから足を!

 

 ダムダムダムダムダーーーーーーー

 

 開始からおよそ1分。

 これって運動になっているのだろうか。

 私は素朴な疑問を抱いた。


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