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ぺんぎん・らいふ  作者: 朝野りょう
ぺんぎん・らいふ
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1.ぺんぎん・らいふ開始(1)

 夕方、学校にほど近いバス停に向かって歩いていると、道路脇の植木に寄りかかるように鞄が置かれていた。

 鞄は私の高校のものだけど、周囲に持ち主に当たる学生はいない。

 寄りかかられた植木は背の低いもので、鞄はよりによって支える枝の少ない部分に立てかけられていて、枝は窮屈そうにしなっていた。

 

 もっと大きな木があるのだから、そこに置けばいいだろうに。

 私は誰か知らない持ち主に怒りを覚えながら、鞄に手を伸ばした。

 

「触るな!」

 

 大声にびっくりして振り返った。

 歩道にしゃがみこみ、鞄に手をかけたまま。

 

 血相を変えて走ってくるのは私と同じ高校の制服姿の男子。

 さっきの声は彼らしい。

 驚くほど整った顔をしている。

 こんな生徒がいたとは知らなかった。

 

「クソッ」

 

 彼は悪態を吐くと、私の方へと手を伸ばしてきた。

 その際、上からのしかかられる様な態勢になっているわけで。

 

 うあぁぁイケメン超アップなんですが!

 な、何っ?

 

 と思っていると、彼の手は鞄の取っ手を狙っていた。

 

 ああ、鞄ね、鞄。

 はははと自分の勘違いというか余計なドキドキを笑って誤魔化しながら、私は鞄から身体を離した。彼の手を避けるために。

 

 彼の右手は鞄を持ち上げる。

 だが、彼の左手は私の腹部を掴んだ。

 

 え?

 腹部に手をって、え?

 

 状況が飲み込めないまま私の身体は彼の手によって持ち上げられ、地面が遠ざかっていく。

 あまりの高さにクラクラした。

 

 地面が遠く感じる。

 何かが、おかしい。

 

 それに、ぷらぷら揺れているのは何だろう。

 毛におおわれた何かだ。

 その下にも……黄色い足?

 

 どう見ても私の手足ではない。

 制服姿の女子高生を抱えている様子ではなかった。

 

 この状況を、私を運んでいる人物はわかっているのだろうか。

 一応、私の鞄も手に持っているようだから、事態が全く理解できていないわけではないに違いない。

 

 私は首を捻って、彼に声をかけようとした。

 

「ウアァッ」

 

 が、漏れたのは変な音だった。

 何か動物の鳴き声のようだ。

 

「ゥアッ、アッ」

 

 頑張ってみたが言葉にはならない。

 この状況は、かなり不味いのではないだろうか。

 そう思う私に。

 

「悪い。しばらく黙っててくれるか? ペンギンが生きてると思われると困るから」

 

 結構、薄情な言葉が返された。

 冷たい人物だ。

 この状況に驚いている私を宥めようとか思わないのか。

 思わないな。

 そりゃそうだ。通りすがりの人物なのだから。

 とりあえず、私は黙って状況把握に努めることにした。


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