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「…………ちけん?」
「効果判定の為のテストのようなものですね」
「それって先程聞かれた体調の事でしょうか?」
―誰かを強く思わないか?
―動悸はしないか?
―熱っぽさや、発汗はないか?
―他に、何か体調の変化はないか?
目覚め一番にこの部屋へと連れてこられて尋ねられた事です。
昨夜のお酒が残っている所為か、少し頭が重く感じましたけれど、それだけです。
それを素直に答えたら、なんだか変な顔されたんですよね。
-ハイザークご子息様に。
「改めて確認しますが、体調は」
「どちらかと言えば良好かと」
熟睡だったのはなかなか味わう事の出来ない程に肌触りの良い寝具に包まれて眠っていたからでしょう。
見慣れない部屋に思考は混乱を極めていましたけれど。
まったく見慣れない人達ばかりならここまで混乱は…多少したでしょうけれど。
しがない子爵家の者を公爵家の跡継ぎが起こしに来るなんてこと、本来はありえませんよ。
寝間着のまま応対してしまったのは、もはやわたしの中では黒歴史となっています。こちらの方で用意された寝間着は真っ白で清楚なデザインのネグリジェで、質疑応答とは別にご子息様が気まずくなされたのが居たたまれませんでした。
あ、今は勿論着替えております。と言っても私物のものではなく用意されたものですけれど。
「昨夜、貴女様が摂取されたのは強い睡眠薬と惚れ薬でして」
「…」
「今の所惚れ薬の方の症状は出ていらっしゃらないようですね」
「惚れ薬は先程お聞きしましたが、睡眠薬も、ですか?」
「ええ。惚れ薬が効いたところで最初に自分を見せて惚れこませるには夜会の場は少々具合が悪かったのではないでしょうか」
好意を抱いた相手に惚れ薬を盛るのは確かに簡単な事ではないかもしれません。相手との面識が薄いほどに尚更でしょう。けれど夜会ならばほんの少しその難易度が下がるのかもしれません。
ただ、惚れ薬を飲ませたところで自分以外の人を意中の相手が見てしまっては意味がない――それゆえの睡眠薬ですか。ぐっすり眠れたのは高級寝具のおかげではなくて睡眠薬の所為だったのですね。少し頭が重く感じるのも、お酒が残っているからじゃなくて睡眠薬のせいかもしれませんね。
「惚れ薬…睡眠薬」
「ええ」
強制的に心を捕らえるその計略に
「わたし……とんだとばっちりを食ったわけですね」
わたしは巻き込まれてしまったというわけです。
頭痛がしてきましたが、二日酔いの所為ではありません。そして惚れ薬の薬効でもおそらくないでしょう。ただ惚れ薬が頭痛の原因である事は間違いありませんけれど。
――ローディウス・エス・ハイザーク様に盛られるはずだった惚れ薬入りの果実酒。
それが、わたしが口にしてしまったものの正体でした。
わたしを恋い慕うどなたかが強引に我が物にするための愚行―――ではなく間違い…。
誤って惚れ薬を盛られたなんて…ちょっと酷すぎません?
とりあえずここまで。以降更新はゆっくりで。
ご閲覧ありがとうございました。