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口に含んだ果実酒は、わたしの知る物よりも甘くて強いものでした。
飲みやすいように水分で適度に薄める工程をすっ飛ばしてしまったかのような――にしてもいささか濃いと思わしき果実酒は、既にわたしの口の中。
ちょっと、警戒したいくらいの度数の代物です。ここまで強いって知っていたら、絶対に口を付けたりしませんでした。
参加者の多い夜会のこの場で、吐き出すという選択肢を選ぶ勇気はありません。口に含んだままそそくさと退室して……という選択肢も残念ながら現状では叶える事が難しく、一口分だけだからと飲み込みました。元々、それだけしかグラスに入っていなかったのですけれど。
強いお酒である事は気になりますけれど、特別お酒に弱いわけではありませんし。
苦みとかしびれとか、明らかな異常をこの時感じたら、飲み込まずに吐き出すという選択肢を選んだかもしれません。
けれどもそんな感じはしなかった。
それに、貴族令嬢ではあっても我が家の爵位は子爵と爵位は低い方で、領地の場所柄もあって敵対する様な主だった貴族はいないと聞いています。
わたしは跡継ぎでもないし、男を惑わせる程の美貌の持ち主でもなく、人がうらやむような秀でた才能も特に持ってはいません。
だから、普通よりも度が強くて、味の濃いそのお酒に混ぜ物が入っているなんて、疑いもしなかったのです。
壁の花となって賑わう参加者を眺めていたのはほんの少しの間だけ。
夜会が始まってまだ早々だというのに、わたしの意識はその辺りで途切れてしまったのです――――。