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セカンドライフ  作者: おとなり
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異世界ライフ 2

街に降りてきました

(’-’*)〜♪

「それにしても小さい子供ばかりで、わたしと同じくらいかそれ以上の年頃の子がいないわね…」


昼下がりの明るい日差しが小さな木窓から差し込むとある飲食店。

サラサラと手触りの良さそうな漆黒の髪を少々雑にツインテールに結んだ少女が、小さな頭を傾けて正面の席に座る砂色の髪の青年に話しかける。

よく見ると仕立てのよい、けれど装飾一つない地味な赤土色のジャンバースカートに詰め襟の生成のブラウスを身につけている。

あどけない年齢の少女が左手に顎をのせつつ、もう片方の手で木製のフォークをつまんで魚料理を無意味につついているというどこか大人のアンニュイな色気を漂わた動作は、子供っぽい少女の姿とは全くちぐはぐでその場にいる人間の目を引く。


「アピス様、お行儀が悪いですよ。回りに見られております」

注目されているのはお行儀のせいではないと思うけれど、一応注意しておく。


「あら、失礼しましたわ」

素直に誤り顔をあげて真正面から視線を向けられる。

髪を頭の両サイドの高めに結っているのもそうだが、なぜか前髪も斜めに流して可愛らしいピンで二ヶ所留めている。

どうやら元気な子供らしさを無理矢理演出している感がある。

似合わないとは言わないが、もっと大人っぽい服か、あるいは儚げな文学少女のようなイメージの服の方が真っ直ぐな黒髪のこの少女には似合うと思う。

少女は首を巡らして店の中をチェックする。

「でも見られているのはあなたの方じゃないかしら?ほらカウンターの所にいるお姉さんなんかとても一途な目でこちらを見ているわよ」

ふふ、とからかうように笑うのはここ数日で何度目か。

本当にこの少女といると同年代か、ともすれば年上といるような錯覚を覚える。

ただそれは嫌な風ではなく極めて落ち着くのだが。

今の直接の雇い主であるエメル様の落ち着きも、さすがは領主だけあって何でも判断を委ねたくなるような安定感をお持ちだが、その娘にもまた不思議な安定感を感じてしまう。

今まで王族と直接的な交流はあまりしてこなかったのだが、他の王族達も皆押し並べてこのようなものなんだろうか。

だとすると王族恐るべしである。

いったい王宮の十年間でどんな教育をしているのか。


そしてこの少女と行動を共にしていると、ときどき信じがたいことに気がつく。

驚くことに彼女は、過去読破した書物は全て覚えているようなのである。

自分の読んだ本のタイトルを覚えているという意味ではない。

本の内容を一字も間違うことなく全て思い出すことができるようなのだ。

彼女曰く、ちょっとした「ラッキー」なのだということだが、どういう意味かはわからない。


他にもまあ細々としたことだと、初めて街に降りた時、今まで金など一度も使ったことはなかったと聞いていたのに、なんとまあ早い計算をしてのけ、なるべくお釣りが多くならないよう配慮して支払っていた。

しかも少し値切った。


なぜ?金ならいくらでもあるでしょうと聞いてみたら、

「今度からはしないわ。一度値切りの交渉をしてみたかっただけなの」

とのことだった。


…王宮ではいったい何を教えているんだ。


そんな彼女のお供は想像していたものとは全く違い、すこぶる楽しいものだった。

外の世界に出たこともない10歳の女の子の護衛など、外出すれば世間しらずな我が儘に振り回され、かといって部屋で会話するにしても話を合わせるのもそうとう気を使いそうな、非常に憂鬱な役割だと思っていた。

例え表向きの仕事だと理解していてもだ。


だが今その予想が大いに覆され、この表向きだと分かっているはずの仕事に愛着すら沸いてきているのだ。


しかも何となくではあるが、彼女の毎日の外出の意図が自分の仕事に合致している事のように思えるのだ。

どういう事だろう。



「さあ、そろそろ出ましょうか」

いつの間にやら完食していた彼女が顔を覗きこんできた。

少し考えに耽っていたようだ。

急に視界に入ってきた森の緑の瞳にちょっと驚いてビクリとする。

「あら目を開けたまま眠っていたの?器用なのねサウス」

嫌みを言われるが、何か弟をからかう姉のような柔らかい目で見られると、思わず苦笑してしまう。

いったい自分は彼女にどう見られているのやら。




店を出るとまだまだ日が高かった。

う〜んと伸びをして、

「さて、この後はどこに行こうかしら。街は一通り回ったわね」


「そうですね。果樹園はまだですが、ぱっと見長閑な景色と農夫が数人作業している姿しかありませんでしたね」


「農産物がどんなものなのかは気になるけど。そうねえ、お母様が仰っていたのだけど、子供達が毎日飛び回っていると言う森を見に行こうかしら」

「分かりました、では馬を連れてきます。ここでお待ちを」

「いいえいいわ、一緒にいくわ」

隣に並んで歩き出す。

途中、

「姫様こんにちは、またうちにも寄ってってね」


「姫様、良いのが入ったよ。また見にきてくれ」


「いい話仕入れたよ。時間があったら聞きにおいで」


居酒屋と定食屋を兼ねたお店の看板お姉さんに、勿論よと応え、書物店の店主に、本当?!楽しみ、また寄るわねと約束をし、あやしい情報屋に分かったわとニヤリと返す。

その他通りすがりの人々と挨拶を交わしながら移動する。


この街の人々は非常にフレンドリーだった。

この数日でずいぶんと知り合いも増えた。

ここの住人は貴族だろうが王族だろうが物怖じしないらしい。


馬を一時預けた宿屋に到着し、一言声をかけてから一頭の栗色の馬を連れ出す。

たてがみが金髪だから一目で見分けがつくわたしの愛馬である。

「ミルキーお待たせ、ご飯は食べたかしら?」

ひんっと応えるようにいななき柔らかい鼻面を押し付けてくる。

「そう、もう一服していたのね。うふふふふ」

可愛いすぎて目尻が下がってしまう。

よしよしと首を叩いてやる。


「アピス様は馬の言葉が解るのですか?」

わたしの馬バカっぷりに呆れたように問われる。


「こう思ってるんじゃないかなって思うだけよ。あるでしょ、何となく気持ちが通じることって」


「一鳴きで餌を食べたかどうかまでは分かりかねますが。まぁありますね、何となく通じることは」


「でしょ?」


「食後に悪いわね」

と言いつつ、サウスに持ち上げられ横座りに騎乗する。

それからサウスがわたしの後ろに二人乗りをして出発した。




木で出来た素朴な街の門をくぐって、少し移動するとすぐに森に入ることができた。

森は入ってすぐに深くなり、鬱蒼と生い茂る緑を縫って太陽の光が所々で光の帯を作っていた。


しばらく馬車道を進むが、人の気配は全くない。

こんな所で本当に子供達が遊んでいるのだろうか。

キュイキュイと小動物の鳴き声がしたので見ると、王都からの道中で見たクルルというリスに似てはいるが頭に角のような突起のある動物がいた。


「クルルはね、小動物にしてはとっても頭が良いのよ。帰巣本能もあるから飼育して伝書クルルにしていたこともあるそうよ。鳥のように早さを求めるというより、秘密の伝言を密かに送るためだったようだけど」


「確かにあんなにすばしっこいのに意思をもって移動されたら、まず見つけられませんね。しかしどうやって捕まえるんでしょうね、近くで動いていると目で追うのも難しいですよ、罠でも張るのかな?」


「そうね、捕まえ方まで書いてなかったわね。ふふ、でも可愛いわよね。近くで見たいわ」

確か以前も見たのはこの辺りだったはずなので、もしかしたらクルルの巣があるのかもしれない…。


「ちょっと降りてみましょうか」


私達は馬を降り、少し道をそれた木の下に繋いだ。

生い茂る木々の中に足を踏み入れると、苔が絨毯のように敷き詰められていて、足の裏がフワフワする気持ちのよい歩き心地だった。


相変わらず木々の間をすばしっこく縫って、クルルが走り回っている。

やはりこの辺りはクルルの棲息地帯なんだろう、数が多い。


じっくり見たいが、やはり野性動物なのでそう都合良く止まってはくれない。

「結構な数がいますね、それになんだか見張られているような、不気味な感じがします」


「そこまでは賢くないと思うけれど、警戒はされているかもしれないわね」


自分達が移動する方へクルルもついてきている気は自分も先ほどからしていた。


試しに歩くのをやめて、じっと観察してみた。


じっとする事数分。


まんじりともせずに視界を飛び回るクルル達を眺め続けていると、その内の一匹が木の上で不意にピタリと止まり、くるりと頭を回して振り向いた。


じっとこちらを見つめる茶色の瞳と森の緑の瞳の視線が交わる。


どちらかが目を逸らしたら負け、とでも言うようにお互い睨み合う。


長い睨み合いの末、とうとうクルルの方がくっと先に視線を逸らした。


「勝ったわ!」


「は?いきなりどうしたと言うのですか」


「まあ見てて」


言うとクルルが一匹木の上から降りてきた。

そして少女の足元で止まり、腰を下ろして前足を上げた。

「良いコね、おいで」


中腰になり手を開いて差し出すと、小さな茶色の体がその手に飛び移り、腕を伝って肩に乗る。


肩にクルルを乗せたまま少女は両腕を真横に伸ばし、うふふと笑いながら実に楽しそうにくるくる回り始めた。


「な、なにをしているのですか?アピス様…」


「え、ジ○リごっこよ」

前世で大のお気に入りだったアニメ映画の主人公の真似である。


「ジ○リとはいったい…いやそれよりそのクルルはいったいどうやったのです?」


「簡単な事よ。野性では強い者が支配者になれるの。そしてわたしは今このコに勝ったの、そういう事よ」


「さっぱり分かりませんが…うわっ他のクルルも降りてきた」


「このコはこの群れのボスだったみたいよ」

無数のクルルの群れが、少女の足元をくるくる走り回り跳び跳ねた。

そして道案内をするように、一つの方向へ移動し始める。


「向こうに何かあるみたいよ。行ってみましょうか」

「はい、お供します」

サウスが無表情に返事を返す。

もう深く考えるのを止めたのかもしれない。



動物シリーズ?

可愛いものが大好きな主人公でした( 〃▽〃)。

ついでにサウスのことも可愛いみたいです(前世目線)


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