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第7話 ネコ襲われる。

ちょっとエロスな展開?

 僕はセリーナに担がれて、行きしなと同じか、それ以上のスピードでアクーラ城塞へと戻って来ていた。

 セリーナは町から丘の上まで僕を抱えて、一気に走ったというのに、やっぱり息一つ切らせていなかった。


 行きしなと違って、上り坂なのになー。

 こうなるともー、戦神テュレオスの加護って反則レベルだな。


 鬼軍曹とかに追い立てられるようにして、考える間もなく、地獄のような鍛錬を課せられる軍隊とかならともかく、学校の部活レベルでこんなのがいたら、まともに練習するのがアホらしくなってくるだろう。




 セリーナは開け放たれたままの城門を、僕を担いだままで、一切のスピードを落とすことなく、通り抜けて行く。

 門の前に立っていた衛兵とは顔見知りなのだろう、呼び止められることもなく、その脇を当たり前のように通り過ぎて行く。

 無用心にもほどがあるが、父カフドの意向により、アクーラ城塞は領民へと開放されており、実は入るだけなら誰でもフリーパスだったりする。


 とはいえ、それでも衛兵さん達ー?

 一応、僕ってここン家の坊ちゃんなんですけどー?

 こんな扱い受けてる僕を見て『微笑ましいもん見た』って顔してるお前らって何なのー?



 城門を潜ると、すぐ左手には兵舎があって、兵舎と向かい合った反対側には厩舎がある。

 そこの繋がれているのは当然、軍馬だ。

 馬とはいっても、地球のソレとは少し違う。

 フォルムこそ、ほぼ馬だったが、その顔はどっちかと言うと、マレー獏みたいだ。

 鼻と上唇が一体になっていて、鼻をヒクヒク動かす度、上唇もめくれ上がり、健康そうなピンク色した歯茎やら白い歯が覗く。


「ノヒヒーン」と、(いなな)くその姿は、お世辞にも勇壮とは言い難く、ちょっと間抜けたように見えるのは僕だけだろうか?


 その厩舎に併設されているのが、ジオ爺やセリーナの暮らす家である。

 その家は赤レンガ造りで、アーチ型の屋根をしていた。


「たっだいまー!」


 と、元気良く、家へと突撃していくセリーナは僕を肩に担いだままだった。

 土足のまま、山賊でも、もうちょっと遠慮するんじゃないかと思わせるほどの、乱雑さだ。

 いや、こっちにはそもそも、家に上がるのに靴を脱ぐ習慣はないんだけど。

 それにしたって、靴の裏に付いているであろう、砂埃を落とすとか、そういう考えすら微塵もないのが凄いな。

 知らない間に変なもん踏んでたらどうするんだろ?


 そんな疑問はさておき、家に入ってまず僕の目に入ったのは暖炉だった。

 煮炊き用の鍋が吊るされている。

 床は木の板を張ったフローリングで、ダイニングテーブルと5脚のイスがある。

 窓は大きく開け放たれていて、そこから差し込む陽光のお陰で室内は十分に明るい。

 セリーナの目でも少し、薄暗い程度だろう。

 どうやらジオ爺もまだ帰っていないらしく家の中はガランとしていた。


 セリーナは迷うことなくダイニングを横切ると、自分の部屋なのだろう、一枚のドアの前に立つと、蹴破らんばかりの勢いで「ドバンッ!」と、乱暴に開けるや、粗末なベッドの上に僕をポンと放り出した。

 室内は荒れ放題で、床の上には脱ぎ散らかされた服に、練習用なのだろう、木剣やら金具の壊れた鎧の一部なんかが転がっている。


 ―――と、セリーナは僕が見ているのも構わず、堂々と服を脱いでいく。

 おおふ。何ですか、いきなり?

 戸惑う僕を尻目に、セリーナはあっという間にインナー姿になっていた。


 ふーん。谷間形成までは程遠いなー。

 でも、セリーナってこうして見ると身長もあるし、手足も長いし、なんか外国のモデルみたいなのなー。


 薄手のコットンシャツとズロースという格好で、セリーナは着替えでも探しているのだろ。

 部屋のあちこちに視線をさ迷わせ―――、

 やおらベッドの上に転がる僕を発見した。


「あ、ユノのこと忘れてた」


 と、呟いた。



 うん。そうだろうね。

 放ったらかしにされて、どうしようかと思ったよー。

 突然ストリップ始めるしー。

 襲われるかと思ったよー。

 というのは、冗談にしても。

 つーか、セリーナさん? どの段階で僕のこと忘れたんですかねー?



 そんなことを思っていると、突然にセリーナが声を上げた。


「あんまジロジロ見ないでよ」


 僕の無遠慮な視線に、少し怒ったような声を上げるセリーナ。

 ま、まさか?! あのセリーナが頬を赤らめ恥らっているだと?!


「へー。セリーナさんにも羞恥心ってあったんですねー? 意外だー」


 思わず正直な感想を抱いた僕に、セリーナが無言で、にっこりと笑みを浮かべて見せた。

 僕も負けじと、極上の笑みを浮かべてやる。

 僕はセリーナの家から叩き出された。

 ですよねー。



 外へとポイと投げ捨てられた僕は、空中で態勢を整えると、難無く地面へと着地した。

 体操選手のようにポーズを決める。


 周りに誰もいないので、もちろん何のリアクションもない。

 少し寂しいような、ホッとしたような、複雑な気分。


 でも、あれだなー。

 セリーナに追い出された所だけ、誰かに見られてたとしたら、年上のお姉さんにイタズラして追い出されたエロガキにしか見えないんだろうなー。

 それはそれで凹むわー。

 まぁいいや。とりあえず、自分の部屋へ戻ろう。



 セリーナの家から叩き出されてから、しばらくして、僕は自分の部屋へと続く廊下を、急ぐでもなく歩いていた。


 うーん。セリーナは今日にでもギルドに登録するつもりでいるようだけど、リコって店番なんだよねー?

 つーか、ファベルさんが帰って来るまで店番なのかなー?

 リコの他にファベルさんの弟子っていなさそうだし。


 それにギルド登録って全員揃ってでないと出来ないみたいなんだよねー。

 それに登録したらしたで、すぐさま試験に突入ってことはないのかな?

 セリーナのあの様子なら、すぐにでも試験を受けるって言い出しそうだけど。

 もし、そうなったら困るな。

 こっちにもイロイロ準備ってもんがあるし。

 一応、武装しとくか? 姉さんのくれたガラクタから大人し目なの選び出して。


 いや、そもそも、試験の内容ってどんなだろ? 実技って言われてもな。まさか筆記テストとか出ないよね? あったらちょっとなー。

 読み書き計算はともかくとして、この国の歴史とかモンスターの生態とか、獲物の解体手順とか出題されても答えられないぞ。僕。

 多分、アホの子セリーナも。



 無骨な石造りの廊下には赤いフカフカな絨毯が敷かれていて、壁にはグランドール家の紋章が刺繍されたタペストリーやどっかの風景画、戦槍斧(ハバドール)戦斧(バトルアクス)なんかが、交差して飾られている。


 そういうのを見るたび、ウチ貧乏なんだから売っ払っちゃえばいいのになー。とか思う。

 でもまー、ああいうのが父の趣味なのだろう。

 金ピカ、ゴテゴテの成金趣味よりマシだが。


 にしても、壁に掛かってる武器とかいらないよなー。

 使い道ったって、真夜中に突然、暗殺者(アサシン)に襲われて、丸腰でピーンチ! とっさに壁に掛かってた武器でズバーッ! ピンチ脱出ー! ぐらいしか思い付かん。


「って、んなこと、そうそう、あってたまるかっての!」


 そんなことを呟きつつ、僕は自分の部屋の前まで辿り付いていた。

 部屋と廊下を隔てる重厚なドアを押し開く。

 けっこう重い。

 自分の部屋に入るだけでも一苦労だ。


 ふー。と、一息付く僕。

 後ろ手にガチャリと扉が閉まり、僕は思わず声を上げていた。


「え?」


 僕の部屋に先客がいたからだ。

 そこには何者かが立っていた。

 全身黒ずくめで、目だけが覗いているという、いわゆる暗殺者(アサシン)スタイルの何者かが。


 おおう。前言撤回、そうそう、あってたまった。


「斧ー! 誰かー! 壁の斧取ってー!」


 僕が絶叫したのは言うまでもない。





暗殺者に襲われました。

警備がザルですねー。

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