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第33話 ラケルタ②

 そのリザードマンは、水音を立てながら、川岸へズンズンと近づいて来る。

 僕は、それに気圧されるようにして、少しずつ後退さるものの、膝の後ろまで下ろしたかぼちゃパンツが邪魔して歩幅が取れず、思うように後ろへと下がれないでいた。

 その間にも、オシッコはずっと出続けていて、リザードマンの顔から胸へと打点が下がって行き、やがて水面から現れたもう一つの顔へと掛かる。

 え。なんだ? リザードマンの下にケルピーがいる?

 いや。違う。 どうやら、このリザードマンがケルピーの背中に乗ってるらしい。

 良くみると、ケルピーの口には轡が咬まされていて、どうやら鞍も鐙もきちんと装備されているようだった。

 いやいや。そんなことより、このリザードマン、どんだけデカいんだよ。それにケルピーも。

 川岸へと上陸を果たしたリザードマンを見上げ、僕は思わず、身震いした。

 世紀○覇者のラ○ウと黒○ぐらいデカい!

 威圧感もハンパないし、そのうえ、背中に巨大な戦斧を担いでいた。


 ようやくオシッコの止まった僕は、かぼちゃパンツを引き上げるとリザードマンから目を離さないようにしつつ、できるだけ刺激しないよう、ゆっくりと後退していた。

 リザードマンが、そんな僕へ「ギロリ」と視線を向けた。

 どことなく理知的な眼。

 とはいえ、友好的にも、ましてや温厚そうにも見えなかったが。

 爬虫類そのものの眼に、見紛うことなき怒りの色が浮かんでいる。

 どうやら、僕がオシッコを引っ掛けたことに、怒りを感じているらしい。


「あははー」


 僕は思わず、愛想笑いをしていた。


 ギオオオオオオン!!!!


 リザードマンが突然の雄叫びを上げる。

 腹の奥底がビリビリと震え、濃密な殺気に、僕は覚悟を決める。

 ああ。どうやら見逃がしてくれるつもりはないらしい。


 僕は気を引き締めると、兵法術(フォルス)で身体強化し、地面を蹴って一気に跳躍した。

 低く長く後ろへと。

 僕は自分の背後に群生する葦原の中へとエスケープしようとして、それよりも早く、リザードマンが僕の横へと音もなく肉薄していた。


「なっ! 早っ!」


 思わず、声を上げる僕。

 とはいえ、リザードマンが疾いのではない。リザードマンの乗るケルピーが捷いのだ。

 クソー! このウマガエルーッ! お前なんか、ツボカビに感染して死んじゃえー!!!

 内心で悪態を吐く僕の喉元へとリザードマンの腕が伸びた。


 ガキッと喉笛を鷲掴みにされ、僕の喉から「クフッ」と、空気が漏れ出た。

 咄嗟に抜いたダガーナイフをリザードマンの手へと突き立てたものの、ザリザリと表面を少し削るだけで、刺さらない。


 くっ、苦しい!


 凄まじい力でギリギリと締め上げられ、呼吸が出来ない。

 遠のく意識の中、僕はパステトへと干渉すると、自分の意思で影を操る。

 イメージは大鎌(サイス)

 鋭く、早く、僕の影がウネる。

 瞬く間に形状を大鎌へと変えた影が、僕の喉笛を掴むリザードマンの手首を刎ねた。


 開放された僕は、地面へと落ち、喉からリザードマンの手首を外すと投げ捨てる。

 僕は肩で大きく息をつき、肺へと思う存分酸素を送る。

 投げ捨てた手首はビクビクと痙攣を繰り返していた。

 切断された手首から噴水のように噴き出す血飛沫に、リザードマンは不思議そうな視線を僕の影へと向ける。

 僕が影で作った鎌は太陽に照らされ、早くもボソボソと形を失いつつあった。

 ―――って言うか、何だよ。このリザードマン! 手首刎ねられたのに、ほぼノーリアクションって……?

 痛みとか、感じないのか?


 噴き出る血が見る間にその量を減じると、すぐさま出血が止まり、その傷口を肉が盛り上がったかと思うと、ググッと、手首が生えて行く。


 本気で何だ、このリザードマン!? ギルドから貰ったモンスター図鑑で、リザードマンのページ、3回は目を通したけど、再生能力のことなんか書いてなかったぞ!?

 ―――って、もしかしてコイツ! カナル大堰にいたオッチャンの言う。リザードマンの上級種! ラケルタとか言うヤツ!!


 今さらながら、そのことに気付いた僕。

 リザードマン改め、ラケルタの手首は、ものの5秒もしない内に完全再生していた。

 し、しまったー! 手首が再生するのをボンヤリ眺めてないで、攻撃するなり、逃げるなりすれば良かったーっ!

 つーか、ペトラショットでいいから、詠唱ぐらいしとけよ僕、精霊魔術師だろー!

 内心で焦る僕。


 僕は気を落ち着けるため、深呼吸を一つ。

 再度、魔力察知を張りなおし、兵法術(フォルス)で魔力弾を12個ほど浮遊させる。

 よし。ここから仕切り直しだ。集中しろ僕。


 ラケルタは再生した手首の調子を確かめるように、手をグッパと握ったり開いたりしている。

 臨戦態勢にある僕を、ラケルタは一顧だにせず、再度、咆哮した。


 グガオオオオオオオオオ!!!


 うわっ! また吠える! もーそれヤメてーっ!! 怖くてビクッてなるー。

 肉食獣を思わせる大音声に僕の体が竦み上がる。

 なんか泣きたくなって来た。でも、さっきオシッコ済ましてて良かったよ。さもなきゃ盛大にチビッてるとこだ。

 それにしてもコイツ、魔力量こそ、そんなだけど、さっきから威圧感が凄い。シュナイゼス坑洞の『堕ちた』魔物並みじゃないかーっ!!

 ―――って、僕一人でこんな怪物の相手なんてムリだよーっ!!


 とはいえ、ラケルタの目に攻撃の色はない。

 んー? オシッコひっかけられて、ブチ切れたはいいけど、手首刎ねられて、ちょっと冷静になったってカンジか?

 ともかく、すぐさま攻撃を仕掛けてくる素振りはないみたいで、僕はジリジリと後退しつつ、そのことにちょっとだけ、安堵する。

 でも、そうなるとさっきの咆哮って何? 威嚇じゃないとしたら、その意図は?

 そう不思議に思った矢先、カナル大河から、バシャバシャと水音が連続して上がった。

 僕の魔力察知に新たな反応が次々と現れる。初めての反応だけど、目の前のラケルタと似たような、それでいて別の反応。これは多分、リザードマン?

 まさか、このラケルタ。仲間呼んだ?

 うっはー。何だよもー。何だよもー。シュナイゼス坑洞に引き続き、またもやジリ貧ー!

 何なんだ僕の人生! バイオレンス過ぎー!




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