第27話 それ、なんて奇病?
魔人の復活から3日が経って、僕らはギルドの酒場に集まっていた。
というのも、ギルドカードを酒場の店主に見せると『冒険者セット』とかいうメニューが無料で食べられると聞いたので、僕らは発行されたてホヤホヤのギルドカードを片手に、お祝いがてら酒場へと直行したのだった。
そう。僕たちはギルド試験に合格し、正式にギルドの一員となっていた。
まー。まだ見習いだけど。
黄銅採取は失敗したものの、シュナイゼス坑洞でニゲルアラーネアを倒したことや中位精霊であるパステトとの契約、リコがクレイゴーレムに施した細工なんかが評価され、僕たちはどうにか試験に合格することが出来た。
もちろん魔人復活とかいう超ド級のトラブルがなければ、黄銅の採取は問題なく達成できたであろうことも考慮されている。
ま、あんだけ苦労して不合格とか言われたら、さすがの僕でも暴れてるところだ。
ちなみに、ギルドの子らも普通に合格したらしい。
ただ、ちょっとズルいなー、と思うのは、ギルドの子たちって、ものスゴく優遇されてたらしい。
というのも、ギルドの子たちは、あらかじめ試験内容を知らされていたらしく、シュナイゼス坑洞の5階層までとはいえ、幾度となく潜っていたようだし、その上、そこそこ経験を積んだ冒険者を二人も護衛に付けていたのだそうだ。
そのお陰で黄銅採取もサクサク済ませ、僕らが必死こいて瘴気から逃げてる頃には、外でご飯食べてたらしい。
ま、合格したから別にイイんだけどさー。ちょっと不公平すぎない?
あと、二尾狼の連中だけど、こちらはとうに行方を眩ませていて、ギルドお抱えの追跡者達をもってしても、その足取りは全くといっていいほど掴めていないらしい。
二尾狼を雇っていたイクスロード家は、知らぬ存ぜぬを貫き通し、アクーラギルドの追求をのらりくらりとかわし続けているとのことだ。
それにしても、二尾狼みたいなあんな目立つ連中が、煙みたいに消え失せるなんて、いくらなんでもオカシくない? もしかしてイクスロード家が匿ってんじゃないだろうな?
もし、そうだとしたら、何考えてんだろ? 僕ならあんなアブない連中、一瞬だって手元に置いておきたくない。生きた心地しないしねー。
にしても、今回よく分かんないことだらけなんだよねー。
というのも、僕は魔力を枯渇寸前まで消耗していて、シュナイゼス坑洞を出てすぐ昏睡状態に陥り、僕が意識を取り戻したのが昨日の夕方のことだった。
そのせいで、いまいち状況がきちんと掴めていないのだ。
僕が寝コケていた間、僕以外の3人は、シュナイゼス坑洞から帰ってすぐ、息つく暇もなく、ギルドの事情聴取を受けたらしい。
それもリコの印象だと、アクーラギルドの人たち、どういう訳かすごく殺気立ってたそうだ。
その様子は、予想だにしていなかった大問題が発生して、状況の把握すら侭ならず、苛立っているかのようで、そのあまりにも高圧的な態度に、リヴィは終始涙目だったらしいし、しまいにはブチ切れたセリーナがテーブルを粉砕した上、そのムカつくギルド職員をブン殴っちゃったらしい。
むー。あんまり褒められたもんじゃないけど、リコが「あれは仕方ないかな。セリーナがあそこで暴れてなかったら、僕がそうしてたよ」とちょっとお怒りになってたので、よっぽどの事だったのだろう。
でもそれって、変だよねー。
そもそも、セリーナとかリコとかの、言っちゃ悪いけど、子供の証言ってそんなに必要?
ギルドの特殊職員とか言う、仮面の人に報告させればそれで済む話じゃない?
それを子供から無理やり確度の低い証言を聞き出してどうするんだ?
いや、まー確かに、ギルドと一口に言ったって一枚岩じゃないんだろうけど。
それに、アクーラギルドと特殊職員じゃ、情報網も命令系統も別物だろうし。
それでもギルド同士だよ? 最低限の情報交換ぐらい出来そうなものなのに。
もし、それが出来ないのだとしたら、特殊職員の存在そのものが、一般ギルドには伏せられてる可能性がある。
あと、考えたくないけど、あの仮面の人がギルドに何の縁もない、ただの変人って線もあるか。
いやいや、そこまで疑ったらキリないしなー。
ま、僕としてはあんまり深入りするつもりはないんだけど。
ただ、ピクニック気分で「薬草採取だー!」とかしてたら、気付かないうちに『爆心地でしたー』っていう事態は出来るだけ避けたいんだよねー。
んー。どうしたもんかなー。自分なりに情報収集とかした方がいいんかなー?
でも、僕に情報の精査能力なんてないし、引き際ミスッたらヤブヘビになりそうだし。
ここは大人しく父に相談かな?
「あー。またユノが難しい顔してるよ。まだ5歳なのに、何をそんな悩むことがあんのか不思議ー」
僕の向かいに座ったセリーナが身を乗り出し、そんなようなことを言いつつ、僕の鼻を摘んだ。
「あにするんですか、ヘイーナさん!」
思わず抗議の声を上げる僕。
「あはは。ヘイーナって誰よ? 鼻声ってだけで、いつも賢いユノが、頭悪いっぽく感じるー」
面白がって手を離そうとしないセリーナ。
むー。こうなったらアレだ。聞き取りづらいのをいいことに罵詈雑言並べてやる。
「ヘイーナさんのハホー。ハーカハーカ! ウンコたれー」
うん。我ながら5歳児であることにかまけた、素晴らしくアホ丸出しな悪口である。
そして、何故か「ウンコたれー」だけちゃんと言える不思議。
「何その悪口? そりゃウンコぐらいしますよ? 人間だもの。ねー? リヴィ?」
「え? し、しないよー? だってわたし、神に仕える聖少女ですからー。ンコなんてしないよー?」
突然、水を向けられたリヴィが変なこと言い出した。
えーっと? 何? 宗教上の理由とかで、ウンコしない設定? いやいや、恋愛禁止よりムリあるだろー?
「え? ウソでしょ? するよね?」
リヴィのナナメ上な発言に困惑するセリーナ。
もー。何、あからさまなウソを真に受けてるかなこの娘は?
「だから、しないってー。3日に一度、お尻からブルーベリーが3粒出るだけだよー」
何だそのムダ奇跡? どうせなら、水を葡萄酒に変えるとか、もうちょっと建設的な奇跡にしろよー。
つーか。んなキャラ設定したら、後々しんどいぞー?
「ぷっ。お尻からブルーベリーってー! アハハハハ!」
と、突然に笑い出したのは、リコだった。
体をくの字に曲げ、ヒーヒーと笑い転げている。
おおう。リコがツボッたー!
リコはテーブルに突っ伏すと「アハハー! 駄目だーッ! お腹痛い。お腹イタいー」と目尻に涙を溜めて苦しそうだ。
そんなリコの様子を呆然と見やっていたセリーナが、唐突に「ああ!」と、声を上げた。
「なんだ冗談かー! ビックリしたー! クーシー族だけが罹る病気かと思った!」
「お尻からブルーベリーって、どんな奇病ですか?」
「アハハハハー! ヤメてー! ユノ君! 僕、このままだと笑い死ぬー!」
さらにツボッたらしいリコ。何気にシュナイゼス坑洞の時より、ピンチかもしれない。
にしても、遅いなー。冒険者セット。お腹空いたよ僕。




