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第23話 逃げろ。脱兎のごとく。

「―――にしても、びっくりしたッスよユクドー! あの高さから落ちて、よく無事だったッスね?」

「やーねぇ。ビックリしたのは私のほうよー? 目覚めたら落ちてるんだからー」


 いつもの調子で軽口を叩くレインに、ユクドがクネクネしながら言う。

 あー。よくよく考えたら、この理不尽オカマ、殺したって死ぬようなヤツじゃなかったなそう言や。


「それで? ユクドは、なんで獣化したまんまなんだ? いつもなら命の危機を乗り越えた時点で、人間に戻るだろうが?」

「んー? そう言われてもねー? 自分で自在に変身できる訳じゃないしー。獣化したまんまってことはまだ危機的な状況が続いてるってことなんじゃないのー? イヤな魔力の流れも感じるしー」


 俺の質問に、あっけらかんと答えるユクドだが、俺としてはもう少し深刻な気分だ。

 多分、ユクドの言う『イヤな魔力』の発生源こそ、俺達の目的地なんだろう。


「魔力の発生源に向かうぞ」


 フリューゲルもそう判断したようだ。


「ええー!? なんでッスかー? 面倒ッスよー? 黄銅だけ採取して戻りましょーよー」


 案の定ゴネるレインに、フリューゲルは「ちっ!」と舌打ちを一つ。

 黙り込んだフリューゲルに代わり、俺が説明を買って出る。


「レイン、お前はちょっと黙ってろ。俺達の目的はハナっから黄銅採取じゃねーんだよ! ここの最下層にある地下教会から神像を盗み出すのが本来の目的なんだ」

「なんスかソレー? ラーチさん。ウチ、そんな話、カケラも聞いてないッスよ?」

「当たり前だろーが? お前に本来の目的を教えてみろ! 無自覚のまま、ベラベラとくっちゃべった挙句、次の日にゃギルドはおろか、町の子供にまで俺達の目的は知れ渡ってただろうぜ」

「うっ! くやしいケド、そこばっかりは否定できないッス。ウチ、内緒話とか半日たりと黙ってらんねー性質(たち)ッスから」


 おー。そこは自覚あるんだなコイツ。

 なら、直せばいいものを。って、無理だろうな。何せ、レインだしな。


「にしても、神像なんか盗んでどうするんスか? 売るにしたって、盗品売買は盗賊ギルドを通さないと後々、面倒ッスよ?」

「ああ、それなら問題ねぇ。神像を欲しがってんのは、俺達のパトロンだ」

「パトロンって、あのエロガキっすか!」

「違う。その親だ」

「イクスロード公爵!? なおさらオカシイっす。あの脂ギトギトのオッサンが、ウチら使ってまで神像を欲しがるほど敬虔な信徒だとは到底思えねーッスから」


 それは俺も同感だが、神様ったってイロイロだからな。

 こんな地下で、こっそり祀られてた神様だぞ? 曰く付きに決まってんじゃねーか。


「理由はどうだっていい。それに、これは二尾狼(ウチ)の上層部も了解済みのことだ。『パトロンの機嫌を損ねるな』だとよ」


 フリューゲルが吐き捨てるように、そう言う。

 ま、今回の仕事自体、フリューゲルとしては、あんまり乗り気じゃねーからな。

『イクスロード公爵家に取り入って、ジグルディアに騒乱の種を蒔け』ってのが、今回、上層部から下された命令(オーダー)だ。

 とはいえ、そもそもこういった裏工作自体、フリューゲルの"向き"じゃねーんだよな。

 それに腐っても公爵家なだけはある。

 あのオッサン、クラウディの姿態(からだ)と俺の毒で徐々に()けさせる予定が、一向にこっちの思惑通りに動かねぇ。

 情けない話だが、あのオッサンに良い様に使われているのは、俺達の方だ。。

 それでも俺達を手元に置いてるってことは、つまるところ、あのオッサンにも少なからず『野心』があるってことの表れなのだろう。


 とはいえ、フリューゲルにしてみりゃ面白くないってことに違いはない。

 その上『神像盗って来い』とか言う、正真正銘の『使いっ走り』として使われてるのだ。

 相当、腹に据えかねているらしいフリューゲルは、隙を見て、イクスロード公爵を暗殺するつもりでいるようだ。

 で、その後釜に、あのエロガキを据える計画らしい。

 イクスロード公爵とあのガキじゃ、幾らなんでも役者が違うが、現ジグルディア皇帝と多少なりとも揉めてくれれば、二尾狼(オレタチ)も甘い汁を吸えるかもしれない。


 ま、どっちにしろ俺達は、しばらくの間、イクスロード家の飼われ犬を()るより仕方がないのだ。

 俺としても、こんなやっつけ仕事、とっとと終わらせて、エール酒で一杯飲()りたいところだがな。





「どうやら、魔力の出所はここらしいな」


 俺は、自分の背丈より優に3倍はありそうな巨大な扉を前にして、そう言った。

 俺たちはアレから特に何事もなく、地下教会といった風情を残す、建築物の前に立っていた。

 その扉の左右には門番のように佇む真鍮製のガーゴイル像が二体。

 真鍮はその昔『愚者の金』と呼ばれ、錬金術師がアホを騙すのに使っていた。

 邪神崇拝者も似たような手口を使って信徒を獲得してたそうだ。


「何スかココ? 見るからに悪趣味で安っぽいッスねー? この彫刻の意匠もフローレンシア法王国期の聖ダウンゼン派の影響が色濃く出てるッスから、この教会が建てられた時期も、古くてせいぜい4、500年前ってとこッスかね」


 真鍮製のガーゴイルを撫でつつ、


「うーん。造りが雑ッス。売ったところで、金属以上の価値はなさそうッス。とはいえ、入り口の『客寄せ』用の像がこの程度じゃ、中も大したモンなさそうッスねー。掘り出し物は期待薄ッス」


 レインが悲しそうに呟く。


「ほー。さすが元墓荒らしだけあって、そういう目利きは達者だな?」

「む。ラーチさん。失敬ッスよ? どうせならトレジャーハンターって言って欲しいッス!」

「どっちも盗掘屋だろうが。とはいえ、お前の見立ては正しいみたいだな」


 俺は教会の扉に施された重記魔象封印(ヘビー・マギア・シーリング)をつぶさに観察しながら、そう言う。


「この封印術、かなり古いものだぞ? 付与魔術が体系化したのが、大体350年前だとされてるが、ここのはそれよりも古い。

 ただ、その古い封印を補強するかのように、幾重にも封印術を重ね掛けされてるな。こっちは最近の封印術式だ。多分、ギルドの仕業だろうな」


「――で? 解呪にはどれぐらい掛かりそうだ?」

「ああ、それなら、すぐにでも。

 正攻法じゃ難しいが、幾ら補強されてると言っても、もとの封印術式が経年劣化でボロボロだからよ。外部から魔力的な負荷をちょいと掛けてやりゃ、魔術式ごと崩壊するだろうよ」


 フリューゲルは「そういうことなら、話が早ぇ」と呟いて、のそりと扉の前へと立ち塞がったかと思うと、兵方術(フォルス)で右足へと魔力を集中させ、重記魔象封印(ヘビー・マギア・シーリング)へ前蹴りを叩き込んだ。


 魔力そのものをブツけることで、重記魔象封印(ヘビー・マギア・シーリング)を潰したようだが、どうやら相殺し切れなかったらしい。

 バチッと閃光が走り、フリューゲルは「()てっ!」と、声を上げる。


「おおう。バチッと来た」


 フリューゲルがそう呟いて、もう一発を扉にブチ込むと、その衝撃に封印術式だけではなく、蝶番も一緒に弾け飛んだらしく、巨大な扉が「ギギギ」と軋むような音を立てて、傾いで行く。

 程なくして「ドゥン」という少し潜もったような音と共に、倒れ込んだ扉に埃がもうもうと舞い上がった。

 ランタンの灯に照らされ、埃がジラジラと光り、その様子にレインが「クシュン」と意外に可愛らしいクシャミを一つ。



 教会内は当然のように無人で、俺の熱感知に引っ掛かるものもない。

 俺は腰のポーチから使い捨ての照明道具を取り出すと、口火を切り、その断面へと魔力を流し、教会内へと投げ入れた。

 それは火のクズ魔石を一旦、粉末状にし、獣脂で固めて棒状に加工、周囲を紙で巻いただけの代物で、それなりの時間、燃え続けるよう燃焼速度が調整されている。

 蝋燭ほどじゃないが、結構お高い。


 俺は立て続けに5本を投げ込むと、教会内のほとんどが赤い炎へと照らし出された。

 俺達は教会内へと歩を進める。



 この教会は、どうやらその昔、焼き討ちにでもあったらしい。

 剥き出しの岩肌に、煤や焼け焦げた跡があって、神話の一場面を再現したらしい複数の石像は、そのどれもが大きく破損していた。

 打ち壊された祭壇に、床へと転がっているのは見たこともない聖印。


 不思議なことに祭壇の後ろへと安置されている神像のみが無傷で残されていた。

 いや、それを神像と言っていいものか。

 その神像からは神々しさは微塵も感じられず、むしろ邪悪の化身を絵に描いたかのような姿をしていた。

 その神像は雄牛の頭に、人の体、背には蝙蝠羽を備え、全身に炎を纏い、直立している。

 そして、その股間からは鎌首を(もた)げた蛇が生えていた。


「ち○こが蛇ってどんな神様よー?」


 そう声を上げたのはユクドだった。

 その尤もな意見に答えるものは誰もいない。

 かと思ったら、そうでもなかった。


「ちっちっち。甘いッスねーユクド。男根信仰を知らねーんスか?」

「何ソレちょっと詳しく教えなさいよ!」


 くわっ! と目をひん剥き、レインへと詰め寄るユクド。

 おおー、スゲー食い付きだな狼オカマ。


「ちょ、近い、近いッスよ! ユクド!」

「ああ。ゴメンなさい。ちょっと興奮しちゃって」

「もー。一瞬食われるかと思ったッス」

「やーねー。私、オカマよ? 女の子は襲わないわよー?」


 その口調だと、男は襲うのか?


「いや、そういう意味でなく、ガチで食われるかと思ったんスよ」


 レインが「ちょっとチビッたかもッス」と小声で付け加えるが、俺は聞こえなかったフリをする。

 だが、まー。分からないこともない。

 中身はともかく、ユクドの見た目、ただの狼男だからな。


「―――で? そんなことより、男根信仰ってなんなのよ!?」

「えーっとッスねー。まず、500年前に興ったフローレンシア法王国って知ってるッスか?」

「そりゃ、まーね? 勇者アルエットの魔王退治とか、女騎士ローデンシアの英雄譚とか、人形劇なんかで一度は見るからね」


 ユクドが上げた物語は、どれもがフローレンシア法王国を舞台にした話だ。

 突然始まった、レインの歴史講座にユクドは怪訝な顔をしている。

 俺は、二人のムダ話を聞き流しつつ、邪神像へと近づくと、その周囲を調べにかかった。


「大昔、男根は豊穣神のシンボルだったッス。かつては大陸のあっちこっちで色んな形で信仰されていた豊穣神が、フローレンシア法王国の台頭に伴い、やがては『悪』と断じられるようになったッス。

 禁欲的なフローレンシアの観念じゃ、豊穣神の男根信仰は淫欲的で恥知らずな『悪』とされ、弾圧されるようになったッス。それ以来、邪神像と言えば、ち○こなんス。

 しかも、フローレンシアは、そういった神々から加護を授かった人間を『魔人』と呼んで人狩(マンハント)もしてたそうッス」

「むー。その話、長くなる? 私が思ってたのと違うんだけど・・・・・」

「ちっちっち。慌てちゃ駄目ッスよユクド? 本題はこっからッス!

 ―――これは噂に過ぎないんスけどね? 実はとある地方の片田舎で豊穣神信仰は細々と生き続けていたらしく、その町じゃ年に一度、謝肉祭が行われるらしいんス。

 きっと、そのお祭りじゃ、苦みばしった中年のオジサマから、儚げなショタッ子まで、半裸でワッショイっすよ!」

「何ソレ? どこの天国!?」


 じゅるり。と、音すら立てて、ヨダレを拭うユクド。

 こんなのが町のお祭りに紛れ込んだら、阿鼻叫喚の地獄絵図の出来上がりだな。

 ユクド、お前は全人類の半数を占める男の、特に貞操のため、今すぐ人間へ戻れ。


 邪神像を丹念に調べた結果、何てことのない普通の石像であることが判った。

 特に、この神像自体に何らかの封印が施されている訳でもなかったし、見たところ罠とかもない。

 教会の入り口に大仰な封印が施されていた割りに、拍子抜けするほど何もないのだ。

 それこそ、瘴気濃度も大したことないし、イヤな魔力もさっぱり感じなくなった。

 ま、それが逆に不穏っちゃ不穏だが。

 そもそも、ここがダンジョン化したのも、最近のことだと聞くし、重ね掛けされてた封印術も近年のものだ。

 そのことから考えても、ここがダンジョン化の原因だと勝手に思い込んでいたんだが、もしかして違うのか?

 いや、まー。どっちにしろ邪神像は盗み出すんだし、仕事は楽な方がいいんだけどな。

 とはいえ、どうにも腑に落ちねぇ。


「あ、そだ。噂で思い出したんスけど、こんな噂知ってるッスか?

 ―――この坑洞"出る"らしいんスよ。なんでも落盤事故で死んだ作業員の霊が死霊(レイス)になって、夜な夜な処女の生き血を求めて彷徨ってるらしいんス」

「ええっ! 処女が狙われるですって! どうしよう私ヤバイ!」


 オッサンが何言ってやがる。


「フリューゲル様、私怖い!」


 言いつつ、ユクドがフリューゲルへと飛びつこうとして、前蹴りで撃退される。

 俺はお前の精神構造の方が怖ぇ。


「知るか! 血でも脳みそでも何でも吸われて死ね」

「うううー。愛が痛いのー!」


 フリューゲルは横座りで「だうー」と涙を流すユクドを冷ややかな目付きで睥睨している。

 俺は邪神像にロープを掛けながら「その噂なら、俺も聞いたな」と、会話に参加することにした。


「確か、ムスッペルの怪人とか言ったか?」

「そうッス! それッスよ。ウチがアクーラ食べ歩きで集めた情報によると、ムスッペルの怪人は、青白い顔に黒のマントを羽織り、100メルテを一瞬で駆け抜けるんス!」

「あー、俺が拾って来た話しも、そんなだったな。

 そう言えば、確かムスッペルの怪人を追い払う呪文みたいのも聞いたような気がするんだが・・・・・・、あー、忘れちまった」

「それならウチも聞いたッスよ。確か『溶けた何かを掛けちゃうぞー』とか、そんな感じッス」


 うん。肝心の何かは分からないんだな。

 ま、レインらしいっちゃ、レインらしいが。


「もー。『溶けた何か』って何よ? そういうことはハッキリさせてくれないと、私、気になって夜も眠れなくなるー。お肌荒れちゃうー」


 と、ユクドがタワケタことを言い出す。

 お前、毛ボーボーで素肌なんかイッコも見えんだろうが。


「んなこと言われても。ウチだってウロ覚えなんスから、無茶言わないで欲しいッス」


 両手を広げて首を左右に振って見せるレインに、ユクドが縋り付き「そんなこと言わないで、思い出してよー」とか、言っている。


「参考になるかどうか、分からねぇが」


 と、前置きしたのはフリューゲルだ。彼としては珍しいことに俺たちの無駄話に乗って来た。


「何かを掛けるって言や、攻城戦だろ? 俺の経験で言えば、それはもうイロイロなもんが降って来たぞ?

 たとえば、熱した油とか、溶けた鉛とか、味方とか、腐ったブタの臓物とか、それこそイロイロ」

「フリューゲルさん。申し訳ねーッスけど、全く参考になんねーッス。そもそもんな恐ろしいモンじゃねーッスよ。戦場の噂じゃなくて、あくまで町の噂なんスから」


 レインは「フリューゲルさんは駄目駄目ッスねー」と、肩を竦めて見せた。

 相変わらずの怖いもの知らずっぷりに俺の背筋を冷や汗が伝う。

 フリューゲルは「そういうもんか?」と、呟き、良く分かってない顔でアゴの無精髭を撫でていた。


「何を言うのよレイン! せっかくフリューゲル様が参考にって言ってくれてるのに! もうブタの臓物でいいじゃないのよっ!?」

「ユクドがそれでいいならいいッスけど・・・。何でそれ選択したッスか? 溶けたブタの臓物って何スか? ブタの煮込みッスか? ちょっと旨そうッスね?」


 とりあえず、俺は『溶けた何か』がブタの煮込みに落ち着きそうなので、とりあえず黙っておくことにした。

 俺にしてみりゃ『溶けた何か』が何だろうと、どうだっていい。

 邪神像を縛り終えた俺は「よし。こんなもんだろ」と、大して汚れてもいない手を(はた)いて見せると、邪神像の安置されている台座から飛び降りた。


「―――んで、誰が邪神像を運ぶんだ? 最初の予定なら俺とフリューゲルで運ぶつもりだったが、せっかくユクドが獣化したまんまなんだ。ここはユクドに運んで貰うってのはどうだ?」

「え? イヤよ。あの邪神像、なんか気持ち悪いもの」

「いや、あれはユクドが運べ。お前が適任だ。一人で持つのがキビシイようなら、俺も手伝ってやる」

「ええっ!? フリューゲル様! それってまさか、初めての共同作業!?」


 ユクドが「いやーん」と、言いつつ、体をクネらせるのを見て、露骨にイヤな顔をするフリューゲル。


「どうでもいいッスけど、この邪神像、このまま持ってくんスか? せめて、ち○こぐらいは折れないよう保護した方がいいと思うんスけど?」

「あー、レインよぉ。なんでお前ぇは、そんなナニに拘るんだよ?」

「邪神像にとって、ち○こは命なんスよ? あるとないとじゃ、売値に雲泥の差が出るんス。

 収集家って連中は『物語』に金を出すんスよ。

『かつての豊穣神が貶められ、邪神となり、数々の悲劇や惨劇を引き起こす元凶となった』そういう悲哀に金を出すんス。だから、この邪神像も何かの『曰く付き』なハズっす」

「―――で、ナニがその象徴だってか?」


 分かったような、分からんような話である。

 台座へと登ったユクドが「よっ!」と、掛け声一つ。

 邪神像を軽々と持ち上げると同時、ガコンという何かが外れるような音がした。

 その音に、顔を見合わせる俺たち、見る間に血の気が失せて行く。


「ラーチさん。勘弁して欲しいッス。あんた罠とかないって言ってたッスよね!?」


 レインが非難がましい声を上げるのと入れ違うようにして、

 ゴッパーーンッ!!!!

 という爆音じみた音と同時、邪神像が載ってた台座が吹っ飛んだかと思うと、凄まじい量の瘴気が噴出した。

 吹っ飛ばされたユクドは、それでも邪神像を手放さなかった。


「ユクド、邪神像の足を持て、頭は俺が持つ!」


 フリューゲルが手早く、邪神像を横倒しにして、ユクドと二人がかりで持ち上げる。


「よしっ! 手前ぇらズラかるぞ!」


 黒い雪崩れのような瘴気に、フリューゲルはそう言い捨てた。


 




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