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第19話 4階層





誤字脱字修正・加筆4/21

 僕らはシュナイゼス坑洞の探索を、スピード重視に切り替え、そのついでにパーティの隊列も変更することにした。

 セリーナには、そのまま先頭を務めて貰うとして、その横を併走するのはリコである。

 二人が前に出たのに合わせて、サーチライトゴーレム二体も前方へと移動させた。


 背後は僕の魔力察知と、パステトが僕の頭上に後ろ向きに乗っかることで、警戒してくれている。

 僕とパステトは常に精神感応状態にあるため、パステトが見る光景が僕にも鮮明に知覚することが出来た。

 なので、僕はリヴィの背中に揺られながらも、背後の様子が手に取るように分かる。

 魔力察知に反応する魔物の内、かならずといっていい頻度で襲い掛かって来るのは、ゴブリンと洞窟蝙蝠(ケイブバット)ぐらいのもので、僕はすでに、その魔力波形を覚えてしまっていた。


 洞窟蝙蝠(ケイブバット)は天井にブラ下がっていることが多いので、頭上から襲撃されることが多く、しかも一度に数十匹単位で襲って来るので、まともに相手をするには少々、面倒な相手だった。

 そういう場合はパステトに頼んで一網打尽にしてもらう。


 天井付近に固まっている無数の魔力を察知し、僕は洞窟蝙蝠(ケイブバット)がいることを報告する。

 僕らは、ケイブバットを無視して、その下を通り過ぎる。

 それに反応した洞窟蝙蝠(ケイブバット)が、案の定、僕らの後を追って来た。

 ヤツらの照射する超音波が、耳障りだ。

 僕は、自分の耳ではなく、リヴィの耳を塞いであげる。

 前を走るリコとセリーナには聞こえないみたいだけど、僕とリヴィにとっては苦痛を感じるほどだった。

 それはパステトも同じらしい。というよりは精神感応を通じて、僕の苦痛がパステトに伝わったからかもしれない。

 パステトは僕の頭上で、口を大きく開くと、背筋を反らせ、深呼吸をするように、息を吸い込むような動作をした。

 その途端、洞窟蝙蝠(ケイブバット)が次々と、墜落していく。


 パステトが、ソウルイーターのスキルを使い、ケイブバットの魂を食らったのだ。

 それは相手の実力が、かなりの格下の場合にのみ使用できるスキルらしく、その効果は対象の魂を強制的に抜き取り、捕食するというものらしい。

 まるで『吸引力の変わらない唯一の家電製品』みたいだった。


 なんか、もうイロイロと規格外だな。

 パステトがいたら、この程度のダンジョン、余裕シャクシャクなんじゃないかなー。と、思わなくもない。

 とはいえ、もちろん、油断は禁物だ。

 さっきの今で、油断してたら、ただのアホである。


 僕は魔力察知に反応がある度、それがどんなに弱い反応でも、皆に注意を促すとサーチライトゴーレムを操作して、魔物へと光を当てる。

 だいたい、そこには虫系のモンスターがいて、いきなり投射された光を嫌い、ワタワタと逃げて行くのが見えるだけだ。

 僕が懸念している闇蜘蛛(ニゲルアラーネア)は、最初の一匹以外、今のところ遭遇していない。

 だからって、当然、警戒を怠るつもりはないんだけど、正直なところ、僕としては、あんまり出くわしたくない相手なので、内心でホッとしていた。

 とはいえ、セリーナはリベンジに燃えているらしく「闇蜘蛛出てこい!」と、呪文のように繰り返している。


 もー、ヤメてー。本当に出てきたら、どうするんだよー!

 


 ―――と、魔力を感知、この波形はゴブリンのものだ。

 どうでもいいけど、この坑洞、ゴブリンまみれだな。


 前方に3匹。

 移動強化のお陰で、接敵が無闇に早いので、すぐさま皆へと警告をする。

 それと同時に、サーチライトゴーレムの光を当てた。

 いち早く反応したのはリコだ。腰の機工杖を素早く抜くと、魔道具を起動させ、魔術式を射出した。

 装填している球状魔法陣(スフィア)はポイズンブロウだ。


 立て続けに3発が撃ちだされ、狙い違わず、3匹へと命中すると、途端に苦しみだすゴブリン。

 僕らが、その脇を通りすぎる頃には、ゴブリン共は絶命していた。


 リコの活躍により、セリーナの出る幕がなくなった。

 そのせいで、セリーナのフラストレーションはどんどん溜まっていく。

 目に見えて不機嫌になって行くセリーナは、足を「だん!」と、踏み鳴らすと、


闇蜘蛛(ニゲルアラーネア)今すぐ出て来い!」


 と、口走るのだった。

 だーかーらー! ヤメれって。ホントに出て来たらどーすんだよ。泣くよ?





 そんなリコの予想外な活躍もあって、思いの外、早く、4階層へと辿り着いていた。


 僕は体力が回復したこともあって、リヴィの背中から降りると自分の足で歩くことにする。

 僕とリヴィを結んでいたロープが解かれると、リコがちょっと残念そうな顔をした。


 4階層に降りると、僕はそこに立ち込める空気に不穏なものを感じ取っていた。

 どこか、冷んやりとした、何となく淀むような重苦しい気配。

 なんか『出そう』な、気配である。


 僕のその予感は的中する。

 出て来るモンスターがガラリと変わったのだ。

 ゴブリンの代わりに出てきたのは、スケルトンだった。

 キャー、出たー。お化けー。

 ―――って、こっちの世界じゃ、ゾンビ共々、割とポピュラーなモンスターです。


 そして、ここに出て来るスケルトンは、人間よりも、ゴブリンが元になったヤツの方が多かった。

 後、アシッドスラッグもウヨウヨいる。

 ちなみにアシッドスラッグとは、大人の二の腕ぐらいはある、巨大ナメクジだ。肉食性で強力な酸とか吐く。

 たまにゾンビなんかも出て来るけど、その場合は結構な数のアシッドスラッグが張り付いていて、どうやらアシッドスラッグは、ゾンビの肉を酸で溶かして食べているようだった。

 ああ、それでスケルトン率高いんだ。

 妙なところで納得する僕。




 出て来るモンスターがアンデット中心になったため、付与魔術師であるリコは攻撃の面で役立たずとなり、ちょっとだけ残念そうにしている。

 それとは対照的に、ニコニコと満面の笑みを浮かべているのはセリーナだ。


「はいはーい。リコは危ないから下がってようね」

「くっ。短い天下だった・・・」


 からかうような口調のセリーナに、リコが悔しそうに呟くと、僕の脇を通りすぎてトボトボと最後尾へと移動して行った。



 アンデット相手に、認識阻害はほとんど役に立たないので、代わりにライティングを付与する。

 4階層はこれまでに比べて、広く、天井も高かったため、サーチライトゴーレム2体だけでは、視界を確保できなかったためだ。


 セリーナはさっきまでの鬱憤を晴らすべく、嬉々としてスケルトンを蹴散らしていた。

 スケルトンはボロボロの服や掘削用のツルハシなどを身につけており、中には生前、冒険者をしていたのだろう、結構、重装備なスケルトンもいたが、所詮はタキシムやスケルトンウォーリアなどの上級種でも何でもない、ただのカルシウム。

 セリーナのバカ力で振るわれるメイスの前に、敢え無く砕け散って行く。


 この階層に来て、ようやく活躍の場を得たのはリヴィである。

 セリーナが討ち漏らしたスケルトンを浄化魔法で、元の骸へと返して行く。



 二人の活躍のお陰で、リコも僕もパステトもすることが、あんまりない。

 アンデットの動きは遅いうえ、こちらの存在に気付く頃にはセリーナの一撃に容赦なく粉砕された後か、リヴィの浄化を受け、ただのホネに戻っているかのどちらかで、戦闘はいつも始まる前に終わっていた。


 パステトはアンデットに興味はないらしく、僕の頭上で欠伸を噛み殺していた。

 僕にしても、魔力察知ぐらいしかすることもなく、思い出したように兵方術(フォルス)で魔力弾を撃ち込んでみたり、土や闇の精霊魔術を使ったりする。

 パステトと契約したお陰か、闇の精霊魔術は威力が数段アップしていたし、兵方術(フォルス)で作った魔力弾に闇を乗せることが出来た。

 これは意外に使えそうだ。

 闇の精霊魔術は、物質的な破壊よりも、むしろ精神や魂にダメージを与える類のものが多い。

 その特性が魔力弾にも備わったら、強力な外骨格を備えるモンスターにも効果的にダメージを与えられるかもしれない。


 うーん。可能性は広がるなー。

 とか、思ってたら、パステトのシッポがペタンと僕の顔に張り付いた。

 まるで『感謝してよねー?』と言わんばかりの態度。

 してますよー。してますともー。『有り難やー』と僕はパステトに感謝の思念を送っておく。


 ―――と、僕は何かの気配を感じ取って、後ろを振り向いた。


「むっ?」


 思わず声が漏れる。

 何だ? 今のカンジ? 誰かいた? でも、後ろはパステトが警戒してくれてたし。何より魔力察知に反応がない。 

 いや、闇蜘蛛の件もあるし、何より僕のケットシーとしての感覚が、何かがいると教えてくれている。


「何かいる!」


 僕は静かに、周囲へと声を上げていた。


「何かってなによ?」


 僕の声に滲む不穏な色を敏感に感じ取ったか、セリーナが多少の緊張交じりに声を上げると、素早く周囲へと視線を走らせた。


「ユノ君。魔力察知に反応は?」


 リコが機工杖を構えつつ、僕へと質問する。


「ありません」


 端的に応える僕へと、不安げに瞳を揺らしたリヴィは一つの可能性を提示する。


「まさか、さっきの蜘蛛?」

「多分、違います。それよりも、もっと狡猾で、凶悪な何かです。気を付けて」


 シッポの毛が逆立ち、僕の本能が警鐘を鳴らす。


「よし。みんな。もう少し固まろう。背中合わせになって、死角を潰すんだ」


 そう提案するリコに皆が頷くのと、バサバサッと、マントが翻るような音が鳴ったのとが同時だった。

 その音につられ、そちらへと目を向けると、人影が凄まじい勢いで行き過ぎるのが見えた。


 その姿が一瞬、闇へと浮かび上がる。

 僕はあっけに取られていた。

 それは伝承通りの姿をしていた。

 そんな、まさか!

 アレは、あの姿は!


「「「ムスッペルの怪人だーーーー!!!!!!!」」」


 僕以外の3人が、揃って声を上げていた。




伏線にもなってない伏線を回収する時が来た。

とはいえ、次回、持ち越しですが・・・・・。

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