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第14話 休憩

累計PVが10000突破。

有り難いです。

 坑洞に入って、どれぐらいの時間が過ぎたのか、正確なところは判らなかったものの、セリーナとリコの二人は相当、参っているようだった。

 基本的に暗闇を何とも思わない僕やリヴィと違い、『ライティング』の範囲内しか見通しが利かないとなると、僕がどれだけ「大丈夫だから」と言ったって、そう簡単に緊張は解けないだろう。


 ところどころに配置されていた魔力灯も、次第に、その間隔が広くなり、長年放置されていたせいか壊れているものも少なくない。

 そうなると、必然的に完全な暗闇の中を、ライティングの光だけを頼みに歩くことも多くなる。


 僕が人間だった頃の経験を踏まえても、ただの暗闇に長時間いるだけで、結構なストレスを感じるのに、それが、いつ魔物に襲われるとも判らないダンジョン内で、しかも、自分がしくじれば全員を危険に晒すことになるという状況下で、緊張せずに歩けって方が無理だろう。


 特にセリーナの疲労は無視できないところまで来ている。

 というのも、単純に戦闘での負担が大きいのだ。

 しかも、敵がライティングの有効範囲まで、近づかないことには視認すらままならない。

 どんな魔物がこちらに向かって来ているのか、自分の目で確かめられないというのも、さらなる精神的な負担になっているのは間違いないだろう。

 最初のゴブリン戦でオーバーキルになったのも、そのせいだ。


 どうにかしてセリーナとリコの心的負担だけでも緩和してあげたいんだけどなー。

 うーん。なんか、あったっけ?

 僕が光の精霊魔術でも使えれば話は早いんだけど。

 いや、どっちにしろ無理か。

 ここは土と闇のマナ濃度が高く、辺りに光の精霊は全く見られない。

 場所が場所だけに、土の原始精霊(アダマス)や闇の原始精霊(ニュクス)は山盛り居るんだよなー。

 ちなみに、空中をふよふよ漂う、真っ黒いクリオネみたいなのが闇の原始精霊(ニュクス)で、茶色いマリモみたいに、そこらで沈殿してるのが土の原始精霊(アダマス)だ。


 あっ。そうだ。

 あの、いまいち使えない魔術なら、もしかすると、もしかするかもしれない。

 あることを思い付いた僕は「そろそろ、休憩にしませんか?」と、そう提案してみた。

 よほど疲れていたのだろう。

 僕の提案はあっさりと受け入れらることになった。




 僕は魔力察知を発動したまま、辺りの警戒を続けている。

 まだ生きていた魔力灯の近くに座り込み、すでにぐったりしているのはセリーナだ。

 リヴィは、そんなセリーナに、水を飲ませたり、濡らした布で汗を拭いてやったりと、甲斐甲斐しく世話を焼いている。


 リコはというと、拾った石に何か細工をしていた。

 4つの石に、何かの付与魔術(エンチャント)を施し、適当な間隔を開けて、その石を四隅へと配置する。

 そうしてから、リコは口早に呪文を唱えた。


「悪しき者から我が身を隠せ![認識阻害(レーブトラオム)]!」


 術式の発動と共に、4つの石へと施された、略式魔法陣が起動したかと思うと、それぞれの石へと経路(パス)を伸ばし、やおらして、僕らを囲うように正方形へと光が走る。


「これでよし。一応、簡単にだけど結界を張っておいたよ。といっても、モンスターに認識されにくくなるって程度だけどね」

「おおー。リコさん。すごいです。こんなことまで出来るんですね」

「いや、まーね。っていうか、結界張ったりするのって、付与魔術じゃ結構、簡単な方だよ? 対象が生き物か、そうじゃないかってだけで」

「いやいや、そんことないですって、リコさん。多分、僕の精霊魔術とリコさんの付与魔術は、物凄く相性が良いってことを、今のを見て確信しました!」

「んー? どういうことだいユノ君?」

「まぁ。まずは、僕が今使える精霊魔術の中で、いまいち使い勝手の悪い術があるので、それを見てもらえませんか?」

「うん。別に構わないよ」

「じゃ、いきますね」


 そう言うと、僕は手早く呪文を唱える。

 その詠唱に応え、土の原始精霊(アダマス)が反応する。


「土くれに生の息吹を! [土人形召喚(サモン・クレイゴーレム)]!」


 僕の言霊に応え、土がモコモコと動き出したかと思うと、ずんぐりむっくりした、人型が現れる。

 その泥人形は、まるで雨に濡れた犬がそうするように、ブルブルと体を揺すって、余分な泥を振り落としていた。


「おおー。なんだいコレ? ちょっと可愛らしいね?」

「ええーっと・・・。土くれを依り代に、土の原始精霊(アダマス)を憑依させたものです」

「へー、スゴイじゃないか! これの大きいヤツを幾つか作れば、何かと役に立ちそうじゃないか? どこが全然使えないんだい?」

「えーっと。今の僕じゃ、この大きさが限界なんです。量は作れるんですけどね」


 僕が造り出したクレイゴーレムは、体長20セクト(1セクト≒1センチ)ほど。

 残念ながら小さ過ぎて、戦闘の役には立たない。

 その上、元々が土の精霊なので、あんまり動きたがらないという困った欠点があり、放っておくと、勝手に隅っこの方で丸まってたりする。

 しかも、ゴーレムの宿命か、全く融通が利かないのだ。

 ただ、魔力察知の範囲内だと、兵方術(フォルス)で操作できることが分かった。

 まー、言ってみれば自立行動する二足歩行ロボットではなく、有線のラジコンみたいな感じなのだ。


 もう少し、大きければ、それこそ、イロイロな使い方が出来るんだろうけど、今はせいぜい庭の土弄りぐらいにしか使い道がなかったんだよねー。


「あ、なるほど! そういうことか! 僕がそのゴーレムに付与魔術を施せばいいんだね?」

「ええ。そうです。そうです! あのクレイゴーレムにライティングの付与魔術を掛けて、僕らの前後を歩かせれば、見通しも良くなるでしょう? それに、この認識阻害(レーブトラオム)を掛けることが出来たら、無用な戦闘は避けて、サクサク進めそうじゃないですか!」


 僕らが今、いるのは地下2階だ。正直、今のペースだと、タイムリミットである明日の日没までに、地下5階にまで行って戻って来るのは無理だと思う。

 もし、僕の提案が実行に移せれば、かなりのペースアップが見込めるはずだ。


「うん。やってみる価値はありそうだね。ただあんまり、期待しないでくれよ?」


 そう言いながらもリコは、自分の荷物からアレコレと引っ張り出すと、クレイゴーレムを「ワシッ!」と鷲掴みにする。

 術者以外にいきなり、引っ捕まえられ、ジタバタと暴れるクレイゴーレムを見て、どこか楽しそうに笑みを浮かべるリコだった。



 


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