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第12話 シュナイゼス坑洞の噂




誤字脱字修正・加筆[4/14] 内容に変更はありません。

 馬車に揺られること半日、僕たちはお尻の皮がめくれて血が滲む頃になって、ようやくシュナイゼス坑洞近くまで辿り着いていた。


 長かった・・・・。

 お尻、痛てー。

 ヒリヒリする。

 荷台(コンテナ)内から開放された僕は「んあー」と大きく伸びをして、心行くまで新鮮な空気を肺へと送り込む。

 思わず「娑婆の空気はウメー」とか口走りたくなった。

 でもまー。それもそうだろう。

 同行者があんなだったんだから仕方がない。乗ったことないけど、囚人護送車の中ってあんな感じじゃないかな。

 ま、あいつら傭兵だし、並みの快楽殺人者より人殺してそうだし。

 なんか、改めてそう思うと、チョー怖えェな。

 帰りはギルドの子らと一緒の馬車にしよう。

 今朝は早く着き過ぎて、ギルドの馬車に一番乗りしたのが、間違いだった。

 最後にやってきた二尾狼の連中が、二台用意されてた馬車のうち、向こうは6人で狭いからって、こっち乗り込んで来たのだ。


 帰りはギルドの子が乗ったのを確認して、そっちに乗ろう。

 帰りもあの連中と一緒だったら、ストレスでどれだけ毛根が死滅するか判ったもんじゃない。



 とりあえず、僕らは坑洞探索の前に、腹ごしらえをすることにした。

 というのも坑洞内に入ってしまうと、ゆっくり食事をしている時間がないと踏んだからだ。

 なにせ、坑洞内はダンジョンと化している。

 一応、ここシュナイゼス坑洞はもともと、アクーラの所領地だったのが、突如として湧き出た瘴気により、ダンジョン化したことで、ギルドへとその所有権が移った。

 最近では瘴気濃度も随分と下がり、地下深くへと潜らない限り、瘴気に侵されることもなかったが、それでも坑洞の外にまで、魔物が出没することも珍しくはなかった。

 ま、そんな中で悠長に食事をしている暇はないだろう。


 そう考えたのは、どうやら僕達だけじゃないらしい。

 ギルドの子達もテキパキと火を熾し、お茶にしている。


 二尾狼の連中もそうだ。

 とりあえず、奴らの雇い主は元より、坑洞を探索するつもりはないらしく、他の馬車で随行させていたらしい、数人の下男がワラワラと出て来ると、瞬く間に天幕が設営され、そこにエッチな格好したお姉さん共々引き篭もり、出て来る気配はなかった。

 あのお姉さんがクラウディって人なんだろうけど・・・・・・。

 本気でお前何しに来たんだ?

 もしかして、ナニしに来たのか?



 ま、どうでもいっか。

 父カフドには報告とかしなくても、あんな目立つヤツ、もし事前通知もなく、無断でウチの領内に入って来たとしても、すぐさま父の耳にまで届くだろう。




 そんなことよりも、今はご飯だ。

 僕は今日最後になるであろう、まともなご飯を、より豪勢にするため、狩りをすることにした。

 僕らが連れて来られた場所は、意外と標高が高いらしく、周辺に生えている植物は地面を這うようなものばかりで、背の高い木とかもない。

 火を焚くのも、枯れた茨のようなものを集めて使っている。


 獲物になりそうな動物も、魔物も見当たらないけど、だからって動物がいない訳じゃない。

 ネコな僕の身体能力が人間だった頃にくらべ、かなり上昇している。

 その中でもとりわけ、優れていたのは、聴覚だった。

 僕の頭上でピコピコと動くネコミミは、――自分でも若干、驚いているんだけど――、これが伊達ではなかったのだ。

 今もほぼ無意識に音を捉え、ネコミミがピクリと動く。

 何かが、静かに岩場を移動している。

 僕の耳は人の可聴域を超えた音を聞き分け、その音を発する物が、どの方向に、僕からどれぐらい離れた場所にいるのかが、手に取るように分かる。

 耳から得られる情報が人間だった時とは段違いで、時には視覚よりも当てになる場合があるほどだった。


 僕は兵方術(フォルス)で魔力弾を生成すると、素早く撃ち出した。

 岩陰へと逃げ込もうとする標的を追尾させる。

 よしっ! 手応えあり!

 急いで獲物へと近づくと、そこにはクウェイルと呼ばれるウズラみたいな、ずんぐりむっくりした鳥が転がっていた。

 僕の魔力弾を食らい絶命したようだ。


「これで人数分ゲットー!」


 狩りを初めてから、それほど時間も掛からず、4羽のクウェイルを仕留めた僕は、最悪の場合、猟師で食べて行けるかもしれない。

 んー。身体能力だけで言えば、絶対斥候職(スカウト)向けなんだよなー。

 兵方術(フォルス)を使えば、今でも十分にやってけそうだ。

 ま、魔術師と斥候、両方ともやるという手もあるか。

 地球でネコと言えば、魔女の使い魔だったりするし、日本でも霊力高い扱いだしな。

 ま、こっちの世界じゃ、どうだか知らないけど。


 血抜きを済ましたクウェイルを持って帰ると、みんなで羽根をむしむし毟り、細かい産毛は火で焼き落とす。

 内臓を抜き取り、下拵えを済ませると、串に刺すと火で炙る。

 火に掛けた鍋には保存食である、カッチカチに焼き固められたバゲットと、ウチの特産であるハーリングの塩漬けに、水を加え、刻んだ干し肉を投入したものが入っている。

 それだけ聞くと、あんまり美味しそうじゃないが、これがなかなかイケるらしい。

 まぁ、リヴィ曰く、だが。

 というか、彼女の作った料理だけど。

 むー。あんま、期待しないでおこう。

 あと、マズくてもオイシイって言っとこう。

 セリーナとかだと、何も考えずに脊椎反射で反応しそうだけど。



 鍋の中を木の匙でグルグル掻き混ぜて、煮え具合を確認していたリヴィが、誰にという訳でもなく唐突に話し声を上げた。


「そう言えばさぁ。シュナイゼス坑洞って『出る』って噂、聞いたことない?」

「あー、そんな噂あったわねー。何だっけ? ムスッペルの怪人だっけ。落盤事故で死んだ人の怨念が死霊(レイス)になって、夜な夜なアクーラの町を彷徨ってるってヤツ?」

「それなら、僕も聞いたことがあるな。青白い顔で、漆黒のマントを羽織り、処女の生き血を吸うってやつだ」


 その会話にリコが加わる。


「へー。そんな話があるんですか?」


 何か、ドラキュラみたいだな。


「そのムスッペルの怪人は足がスゴく速くてね、100メルテを瞬きする間に駆け抜けちゃうんだって。凄いよねー。狙われたら、わたし捕まっちゃうなー」

「あはは。それだけ足が速いと、みんな捕まっちゃいますよ」

「そうそう。そのムスッペルの怪人に襲われないための呪文があって――、何だっけ?」

「ええーっと? 確か『溶けたチーズをかけちゃうゾー』って3回言うと逃げて行くんじゃなかったか」


 うろ覚えなセリーナに代わり、リコが補足する。

 何だその都市伝説。


「あははー。なんか可愛いですね。僕なら溶けた鉛とか、かけますけどね」

「ユ、ユノのが意外に怖い。――あ、お母さんがあんなだからだ!」

「セリーナさん、さすがに失礼ですよ。―――でも処女が襲われるなら、僕とリコは関係ないですね」

「あ、それなら、わたしも関係ないよー?」


 リヴィが朗らかに言って、リコが盛大に咽た。


 塩焼きにしたクウェイルは美味かった。

 リヴィの手料理も、意外にオイシかった。







もうちょっとペースアップしたいのに、筆が追いつかない。

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