表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/36

第11話 二尾狼

遅ればせながら、読んで下さってる方、お気に入り登録してくれてる方、有難うございます。

励みになります。

 僕らはギルドの用意した馬車にフン詰まり、悪路を揺られていた。

 丈夫なだけが取り柄の馬車は、乗る人間への配慮はカケラもされていない。

 それだけに乗り心地は最悪だ。

 ついでに言えば、同乗者も最悪だ。

 薄暗い荷台(コンテナ)内に僕ら4人と差し向かいに座っているのは、二尾狼(クー・フルシェ・ヴォルフ)の面々である。

 ちなみに彼らの雇い主である坊ちゃんは、自前の馬車で後ろを付いて来ている。

 ―――で、その貴族の素性だが、僕は馬車の側面に飾られていた紋章を見て、思い出していた。


 イクスロード公爵家だ。

 イクスロード家の現当主はジグルディア皇帝の叔父に当たる。

 先の大戦のおり、王位継承権を返上していたものの、それでもなお、かなりの権力を有していた。


 しかも父カフドが準貴族になって、領地を拝領する前の、領地のほんの一部に過ぎなかったが、それでも一応、アクーラを治めていたのもイクスロード家だったはずだ。


 うーん。トラブルの予感?

 イクスロードの坊ちゃんが、なんでわざわざアクーラのギルドで登録?

 よく判らんな。

 まー。今の段階じゃ考えるだけ無駄か。



 どちらにしろ、今は心を無にして、この地獄のような一時をどう乗り越えるかの方が問題だ。

 僕の真向かいに座るのは青い髪の女。

 その女の隣りに座るのが、フリューゲルとかいう隻眼の男。

 そして、その隣に小太り、痩せと続く。

 青髪以外は全員男で、みんなコワイ。

 前世の電車とかで、こんなのと向かい合わせになったら、ヤバ過ぎて顔を上げられないどころか、目立たないよう隣の車両とかに移ってるところだ。


 つーか。なんでこんなのと、一緒の馬車に乗らねばならんのだ。

 子供の情操教育上全く好ましくない。

 特に隻眼のフリューゲルさんなんか、馬車移動にイライラしているのか、不機嫌丸出しだったし、殺気がだだ漏れてて、超怖い。

 さっきから何か睨まれてるし。こっちは三十路だけど5歳だぞ! オネショとか再発したらどうしてくれる!


 んで、青い髪の女、やたらと躁状態でさっきからペチャクチャ喋ってるけど、さっきからその内容が不穏すぎるんだよ!

 で、この状況でなんでウチのリヴィさんは熟睡できるかなぁ?


 しかも、小太りの男、その顔には瘡蓋のように、顔のところどころに鱗が張り付いていて、僕と眼が合うと、チロと舌を覗かせるのだ。

 その舌は異様に長く、紫色をしており、先端が二股に割れているのだ。

 僕が思わず「ギョッ」とした表情をすると、小太りが「ニイ」とイヤらしく嗤うのだ。

 その笑みは蛇や蜥蜴というよりも、もう少しネバついた蛭を思わせるものだった。

 で、その小太りよりも、判りやすくヤバいのは、痩せた男だ。

 黒髪黒目で肌の色は前世でいうアジア人を思わせるが、何も無い虚空を眺めやり、何やらブツブツと呟いているようだったし、時折、泣き出したかと思うと、今度は急に笑い出したりと気持ち悪い。

 二尾狼の連中はいつものことなのか、特に気に留める様子も無い。

 さすが戦場を渡り歩いているだけに、いい具合に煮詰まった連中だ。


 ううう。早くシュナイゼス坑洞に着かないかな?

 それにしてもこいつら、4人しかいないけど、残りの1人はどうしたんだろ?

 昨日ギルドのエントランスホールにはちゃんと坊ちゃん含め、6人いたんだけどなー?

 あれか? もう1人は坊ちゃんと一緒なのか?


 とか、思ってたら、青髪の女が勝手にペラペラと喋ってくれた。


「にしても、クラウディアはいいッスよねー。今頃、後ろのやたら豪華な馬車でお姫様気分ッスよ?」

「そんなに羨ましいなら、レイン。お前も混ざりゃいい」


 フリューゲルが、うんざりしたような顔して言う。

 青い髪の人、どうやらレインとかいう名前らしい。

 まぁ、本名かどうかは怪しいが。


「ええーっ! 冗談キツいッスよ。フリューゲルさん。娼婦のマネゴトはごめんッス!」

「なら黙って、座ってろ」

「それは無理ッス。喋ってないとウチ死ぬッスから」


 なははー。と笑う。


「にしても、ほら。フリューゲルさん。あのケットシーの子。スゲー可愛くないですか? 発情期もまだだろうし。拉致って好事家に売ったら、いい値が付くんじゃないッスか?」


 何だこの女? 本人目の前にして売る算段かよー?

 それに僕は男だぞ? それともアレか? こっちの世界は童貞でも高く売れるのか?


「ヤメろ。ネコに関わるな」

「ぶー。なんなんスかねー、その意味不明な団律」


 少し強い口調で諌めるフリューゲルに、頬を膨らませるレイン。


「ヒヒ。レインは知らなくても無理ねぇな。なんせまだ、お前さんが親父のキ○タマにもいねぇ頃の話だからよぉ」

「ラーチさんには聞いてねぇッス。息がこっちまで匂って来るんで、黙ってて欲しいッス」


 小太りがそう言って、レインが毒舌で応酬する。


「手前ぇら、どうでもいいから、少し黙ってろ」

「それは無理ッス。あ、そだ。ケットシーに手、出しちゃダメな理由、教えてくれたら黙るッス」


 いや、それ絶対ウソだよね? 理由聞いたところで、喋り続けるよ。この青い人。

 でも、僕も気になるかなー。


 フリューゲルは、盛大なタメ息を吐いてから「気が進まねぇが、しょうがねぇ」と呟いて、口を開く。


「だいたい20年ほど前の話だ。その頃、デカイ戦があったのは知ってるな?

 俺はまだ、駆け出しだったんだが、そん時に参加したのが、ベクトル・ロー城塞の攻略戦だ。その時に対峙したのが、ケットシーの女だったんだよ。

 黒猫姫(コクビョウキ)とか呼ばれてる、闇の精霊魔術師だ。そのケットシーの女1人にウチの精鋭1500が仲良く討ち死にした。

 その時の俺がどうやって命拾いしたのか知らねぇが、まぁ運が良かったんだろうよ。

 ―――で、今の団長も、そこにいてな。あんなヒデェ負け戦、後にも先にも経験したこたぁねぇ。それ以来、ネコに関わるなってのが、暗黙の了解になったって訳だ」


 ま、まさかとは思うケド、その黒猫姫ってうちのお母さんじゃないよねー。

 うん。絶対、別ネコ人だ。



「へー。そんなことがあったんスねー。じゃあじゃあ、アレは? あのクーシーの娘はどうッス? あの娘なら売っ払っていいッスよね?」

「阿呆。教会と揉めたら、死んだ後、地獄行きになるだろうが」

「うっ。そりゃ困るッス」

「そんなに小遣い稼ぎがしたけりゃ、あのエロガキに懐いて小銭でもせびってろ」

「嫌ッス。男は買われるよりも買う方が断然いいんス。

 ―――もういっそのこと、あのガキ、事故に見せかけて殺して、有り金巻き上げるってどうッスか?」

「底抜けの阿呆か、お前は? 何のために、あのエロガキにクラウディを宛がってると思ってんだ?」


 あー。陰謀の予感。ウチにとばっちりが来ませんように。


 とか、思ってたら、いきなり「ドンッ!」と、尻を突き上げるような衝撃があった。

 どうやら、僕らが座っている方の車輪だけ凹凸に乗り上げたせいだ。

 お尻を強打して、ううう。と呻く僕ら。リヴィも今の衝撃で目を覚ましたみたいだ。


 クー・フルシェ・ヴォルフの面々がその様子を見て、ニヤリと嗤う。

 黒髪黒目のアブナイ奴まで、嗤っている。

 うー。何、コイツらのノリ?

 ちょっとウザイよ。


 と、思ったら、今度は二尾狼側の車輪が跳ね上がって、向こうの4人が尻を押さえる番だった。

 当然、嗤い返してやる僕ら。






 シュナイゼス坑洞までは、まだ遠い。




ろくな人間がいない。

リコとリコの師匠だけが、この話の良心。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ