そのさん
やっぱりこの世界はファンタジーな異世界のようです。月が二つあったよ。
そんなわけで3歳になった。
最初はせいぜい固有名詞位しかわからなかったが、もう日常会話は出来るようになった。前世では英語最低だったのに……赤ん坊ってすげえ。
せっかくなので、家族を紹介しよう。
親父はトーマス・デア・マイスターと言う。金髪碧眼で背は高め。引き締まった筋肉の持ち主で、現在23歳だそうな。
お袋はクリスティア・ディ・マイスターという。こげ茶の長い髪と青い目を持つ可愛らしく慎ましやかな女性で――性格だけでなく、体格的にも――現在18歳だそうな。……深いことは気にしない、気にしないぞ。
どちらもとびぬけて整った容貌というわけではないが、平均以上。中の上か、中の上すれすれの中の中といった感じなので、俺としては将来は決して悲観的ではないと思われる。
で、俺はというと、やはりウィルは愛称で、正式にはウィリアム・ディ・マイスターというらしい。このデアとかディってなんだろう?
そして、親父の仕事だが、なんと騎士団に所属する騎士にして士爵らしい。貴族かよ!? 勝ち組万歳! ……デアとかディって、ドイツ語で言うフォンみたいなもんだろうか?
そんなある日、庭で遊んでたら、転んだ。
ひざをすりむいて、超痛い。前世なら涙ぐむこともなかっただろう程度の擦り傷だが、今の俺は自分を抑えることができず、ワンワン大泣きしてしまった。
どうやら、知識や自意識は前世のそれを多く持っているものの、肉体的な性能はもちろん、こういう精神的な点に関しても、今の俺の肉体に大きく引きずられているみたいだ。子供なら泣くような場面で我慢することができないし、この歳になって二十歳前の女の子のおっぱいにむしゃぶりつくとかいっそ殺してくれ! みたいなことも、体が欲してしまう。もちろんおねしょも耐えられない。まだ3歳だから仕方がない、と諦めてなるようにするしかないのだ。
「ウィル君、大丈夫?」
案の定、お袋がやってきた。「いたいいたいね~」などと俺をあやしながら、傷に手をかざす。何をするのだろう?
「生の血、命の器、万物があるべきが如くに。汝、時を回し、力持て、汝の傷を癒せ」
お袋がつぶやくとともに、その手が淡く輝く。見る間に傷はふさがり、痛みも消えてしまった。
すげえ! この世界、魔法が実在するんだ!? 名前は違うかもしれないけど!
さっきの怪我などもはや光の彼方。俺はすでに、この魔法を学びたいという欲求に支配されていた。
「ママ、凄い! 今の何!?」
「ふふふ、凄いでしょう。今のはママの魔法よ。ウィル君の痛いのを飛んで行け~ってしたの」
得意満面で小さな胸を張るお袋。あまりの可愛らしさに、前世の俺なら微笑ましい気持ちでいっぱいになっただろう。だが今はそれどころではない。
「僕も使いたい!」
「あらあら。ウィル君も使いたいの? ママの子供だからできるかもしれないけど、お勉強、大変よ?」
「それでも使いたい! お勉強頑張るから!」
「そうねぇ……。それじゃあ、大学に行って見てもらいましょうか」
「うん!」
こうして、俺は魔法使いへの道を歩むこととなった……なるんだよな?