日常
よろしくお願いします。
個人的にホームルーム前の十何分間ある時間は俺にとっては嫌いなものだ。
どんどん現れるクラスメイトが友達であろう奴に挨拶しては自分の席に鞄を下ろす。
そんな光景がただ理由も分からず嫌いで、基本この時間は寝たフリをして過ごそうとしているのだけれど、毎回邪魔者が叩き起してくるのだ。
「冬葉ん、おはよん~!」
とりあえずこの声の主がかけてくる言葉を無視して一貫する。
「冬っち、おはよう~!」
とりあえず無視。
「フンガー、おはよう~!」
「なんだよその呼び名!?」
体が勝手に反応して突っ込んでしまった。
すると目の前にはどアップされた見慣れた顔があり、反射的に後ろに下がろうとして椅子によるひざカックン。バランスを崩した僕はそのまま椅子とともに背中から床へとダイブ。
「いてて……」
「どうしたの冬葉ん、そんな大道芸なんかしちゃって」
「していない! 元はといえばお前が原因だ!!」
普通、目の前にお互いの息が感じられるぐらいに顔があったら反射的に後ろに動いてしまうだろ。
「それよりもなんだよあのフンガーって!? 某アニメの序盤に出てくるセリフだろ!?」
「いやあ冬葉から連想しちゃってつい……?」
「なぜ疑問形でしかも冬葉のふしか同じじゃないの!?」
「私の頭がビビッと来たんだよね……まさにこれが革命だと!」
「そんな革命なんて滅んでしまえ!」
はあと溜息をつく。どうにもコイツのテンションの高さにはかなわない。おかげで疲労が朝からフルマックスだよ。もうホームルーム始まる前に帰ろうかな……
でも至って普通の日本人である俺は赤信号みんなで渡れば怖くないみたいな集団心理を抱えちゃっているもので、帰るにも怯えちゃって帰れないけど。
それからも雪鳴は同じテンションで話しかけてきて、最初は無視していた。だが俺の黒歴史などをばらそうとしたからしょうがなく話を合わせることになった。相槌を打つだけでも本人は喜んでくれるのでこれは単なるバカか素直すぎるおバカか。
どちらにせよ、僕の人生にはあまり深く関わることは無いだろう。それに小さいころからこのような感じだ。対応には毎回疲れるとはいえ、慣れてしまった。
……慣れてしまったことも嫌だけどな。
なんとなくぼんやりと窓の外を見てみる。相変わらず広い校庭だ。
この高校に入学してから早一ヶ月。特に面白いことなんて起きず、太陽は退屈そうにゆっくりと昇り、沈む。
少し環境が変わっただけでそうそう突発的なイベントなんて起こるはずが無い。ギャルゲーでは無いし。
……二年前はそうでも無かったけど。
「それでねそれでね――ふーぽん?」
俺が聞き流していることを今知ったようだ。窓に視線を送っている時点で普通分かるものじゃないか、と思ったけどこいつのことだからしょうがない。
……って。
「……あのさ、ふーぽんも普通じゃあ無いと思うんだけど」
「いいじゃんいいじゃん、幼馴染という名の腐れ縁ということで~」
「良くない! お前のネーミングセンス疑うわ!!」
「ええ~? 可愛いじゃんふーぽん」
「それは言い方がだよな!?」
主語どっちだよ。
だけど彼女が意味不明言語を操っている時点で理解力も理解しようとする心意気もあるはずもなく、机にぷっつぷした。
容赦なくさっきのあだ名を使って背中を叩いてくる存在がいるけど、気にせずホームルームまで寝ようと目を閉じた。