初戦
エディット画面を抜けると、俺は広場のような場所に立っていた。広場は俺と同じくサービス開始と同時にログインした連中でごった返していた。俺は即席パーティーの勧誘や知り合いを呼ぶ声を聞きながら、メール画面を開いて待ち合わせ場所に急ぐ。どうやら妹たちはすでに合流していて、俺が一番最後に入ってきたらしく、ついて早々に妹の不機嫌な顔が出迎えてくれた。
「悪いな、待たせて」
「お兄ちゃん遅ーい!どうせ今日までにスキルの組み合わせとか考えてなかったんでしょ!」
「うぐっ…」
図星である。
俺が妹の罵声を甘んじて受け入れていると、横から控え目な声がした。
「もういいんじゃないかな?彼も反省してるし…」
「もー、カエデさんってばお兄ちゃんに甘すぎるよー」
「うーん、別にそんなことは…」
ないんじゃないか?と続けたかったが、楓の視線が怖くなったのでやめておく。
「あれ、楓は本名プレイか?」
「うん、カタカナだけどね。今回は運よく『カエデ』の名前が被ってなかったの」
「ふーん、あ、俺のキャラ名は『シーザー』だから、よろしく」
「あー、私の名前は『ノープ』だから!ノープロブレムのノープ!」
やかましい、由来なんぞ聞いとらんわ。
そんなわけで三人で騒ぎながら、フレンド登録とパーティー申請を済ませる。
妹のノープは、明るい水色の髪をポニーテールにした青い目の鎧娘で、大剣を背負っている。
一方カエデは、黒い髪を腰辺りまでストレートに伸ばして、着物のような服を着ている。真紅の瞳が印象的だ。薙刀のスキルをとったようで、将来的には巫女さん風のキャラが作りたいらしい。
遠距離の担当はいないが、ノープが壁、カエデが回復(巫女プレイの一環だそうで)、俺が攻撃とバランスのよいパーティーになったのではなかろうか。
「まずは平原エリアで雑魚狩りだね!」
「そうね、スキルのレベル上げと確認を早めに済ませましょうか」
「だな」
ひとまずそういうことになったので、始まりの街の北側からフィールドに出る。しかし、初心者の行動なんてどこも同じなのか、周囲には人があふれていた。俺たちは街からそこそこ離れた草地で狩りを始めることにした。
「アレなんか手ごろじゃないか?」
俺が指を指した先には、数匹のネズミがいる。初心者用の獲物らしく、動きも鈍い。俺たち三人はそれぞれの武器を構えると、ネズミたちに向かって走り出した。
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「せいやっ」
鋭い掛け声とともに、カエデが敵を切り捨てる。流石ゲーマーは動きが違うな。別のゲームでも薙刀を使っていたのだろうか。
「どっせーい!」
また女らしくない掛け声でネズミをずんばらりと一刀両断している家の妹も、危なげなく狩りを楽しんでいるようだ。逞しくて結構。お兄ちゃん嬉しいよ。
さて、見ているだけではつまらないので、俺も戦闘に参加させてもらおうか。俺は手に持った武器を確認する。
***
名称:プロトBハンマー
攻撃力50
発現アーツ:『インパクト』『フルスイング』
説明:初心者用の機械鎚。様々な強化の土台となる。
***
アーツとは、特定のスキルと装備の組み合わせによって発現する技のことで、アクティブな技とパッシブな効果が存在する。今回の例で言うと『インパクト』がダメージ増のパッシブアーツ、『フルスイング』が発声しながら使用するアクティブアーツとなるわけだ。
俺はプロトBハンマーの柄をしっかりと握り、ネズミに向かって振り下ろす。
「でりゃああ!!」
「ヂヂッ!?」
ネズミは慌てて回避を試みるが、抵抗むなしくハンマーのヘッド部分が直撃する。
接触した瞬間、ヘッド部分の前面で激しい衝撃が発生し、ネズミは地面に叩きつけられ、動きを止める。
「今だ!『フルスイング』…ってうぉわあ!?」
チャンスと思いアーツを発動すると、ハンマーのヘッド後部から突然衝撃が放たれ、ものすごい勢いで空振りしてしまう。俺がその場でハンマーにつられて三回転していると、ネズミは距離をとって体勢を立て直してしまった。
「ギヂヂッ!」
ネズミが俺に向かって飛びかかってくる。俺はふらつきながらもハンマーを構えてアーツを叫んだ。
「なめるなよ!『フルスイング』!」
勢いよく飛び出したハンマーは、今度こそ敵のど真ん中を打ち抜き、思う存分衝撃をまき散らす。
ネズミが吹き飛びながらエフェクトとなり消滅し、インベントリにアイテムが入ったことを確認した俺は、すでに戦闘を終えていた二人とハイタッチした。
「「「初勝利キターーー!!!」」」