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一度殻を破って野生児と化した26歳女は恥らうこと、躊躇することを棄てることに成功したようだ。

さらに森を歩く上で重要となる冷静になることも学んだようだ。26歳にもなって小っ恥ずかしいかな千春は窮地に立たされるとパニックに陥る落ち着かない態度をとってしまう癖があった。

仕事でも時折そういう姿をみせてしまうので、よく先輩には「落ち着こうか」と何度真面目な顔をして言われたことか。

だが今の千春はどうだろうか。

森の中で迷子→彷徨う→サバイバルと見事に窮地に陥っている。仕事のそれとは比べ物にならない。なんせ生命の危機が関わっているのだから。頼れるのは自分しかいない。冷静に今自分の中にある知識をフル活用して最善の策をひねり出そう!


まず、目標は集落を探すこと。もしくは人と会うこと。

とにかく人に会わなければ今ここがどこなのかも分からない。


さらに付け加えると水や食料の確保。お弁当も水筒も空っぽとなった今、お昼までお腹がもつとは考えられない。

(食い意地の張った、お腹が空くと力がでない私としてはかなり重要な問題だ!)この事に関して千春は鼻息を荒くするほど必死だった。


目的を食料と人と会うこの2点に絞ることが出来た。


次に歩く方角だが、山ならまず山頂を目指すところ。しかしこの森は歩けど平地ばかりが続くのだ。登山というよりはハイキングコース?と言ったほうがしっくりくる。

この大きな樹に登って辺りの様子を見てから考えよう。

ありの目で見ていては全体が見えないものである。今回は鷹の目を持ってこの状況を打破したい。


私はそう考えるや否や靴とストッキングを脱いだ。


「よーっ!」


意気込むと千春は樹の穴や割れ目、枝に手と足をかけ、ゆっくり確実にそあいて安全に登れるルートを考えながら上へ上へと進む。途中何度かヒヤッとすることもあった。手も痺れて下を見ればあまりの高さに、さーっと血の気が引き汗が風によって冷やされる。

これは自己暗示に頼る。


「私は出来る子…私は出来る子…」


あまりにも不気味で森の愛らしい動物たちもドン引き起こす勢いだ。


あと右足をあの枝に乗せれば見渡せる!というところまでたどり着いた。最後まで頑張った自分を褒め称ええ、右足を枝にそっと乗せた。千春の体重をかけてもビクともしないその樹は本当に貫禄があり頼もしい限りだ。だが千春の腰はかなり引けていた。

ゆっくり顔をあげ360度見渡す。視力には自信があったのが幸いだ。


ゆっくり時計回りをするように頭を動かしていくと、ある一点でキラッと光に反射する何かが目が止まった。

そこはよーく見ると川のような形をしている。木と木の間だからじっくり観察しないと見過ごすほどにしか見えない。光の反射がなかったらキレイさっぱりスルーしていたことだろう。


(やった!これで喉の渇きを潤すことが出来る!)


あまりにも嬉しくて高い樹の枝の上という現実も楽しいアトラクションのように思えてくる。なんとか無事に樹から降りて地面に到達した後の千春の行動は素早かった。

樹の上から発見した川の方角に足を向けるや否や、物凄い勢いで腕を左右に降り膝丈の草をなぎ倒していく。

ビュンビュンと唸るその枝はもはや凶器だ。千春の行方を妨げるモノは容赦しない。


川までの距離はおよそ2、3キロはあっただろうか。驚異的な早さで川にたどり着いた千春は歓喜で人踊り踊りたくなるぐらいだ!

いや。まぁ、嬉しさを表現する時に踊るような習慣の民族ではないけど。それぐらい嬉しかったってことだ。


「川だ~っ!水だ~っ!」


千春のこの発言は山育ちの人間が生まれて初めて海を見た時の感動に似ている。


兎に角、もう喉がひっついて唾液も十分に出ない。その川は巨大な運河とかそんなものではなく、田舎のおばあちゃん家の畑の近くを流れていた小さな川に似ている。

人の手が入っていない良き日本を彷彿させるそれは、日の光を受け水面や時折岩や石に当たってできた水しぶきをキラキラと輝かせていた。

まるで水同士で遊んでいるみたいに。

千春は心で感動していたが頭の中では現実問題に悩んでいた。

川の水をそのまま飲んでしまったらお腹を壊すかもしれないのだ。

しかしそんなことを気にして飲まないことを選択するほど余裕もなかった。

頭の角で危ないと警告する自分を知りながらも、しゃがんで両手をまず綺麗にこすり合わせ洗い川の水をすくった。臭いをかいでみたが、無臭だ。もう、限界な千春は石橋を叩く行為を颯爽と放棄しゴクゴクと喉を唸らせながら水を一気に飲み干した。


「ぷは~っ!」




「…なにこれ美味しい!」


結論を言うとお腹なんて壊さなかった。本当に美味しくて今まで飲んだ日本の名水なんて比じゃないくらいだ!


水なのに甘みがあるのだ。舌触りは円やかで余韻を残す。


なんて、なんて罪な水なのだ!

この水を味わったが最後他の水なんて飲めないくらいである。


いそいそと川の水をペットボトルに入れてフタをしようとしたその時。



「ジャリ」


その石を踏みしめた音の方の振り返ると、そこには一人の人間、男が突っ立ってこちらを呆然と見ている。

その男の腕が徐々に上がり、手が、主に人差し指が此方に向けている。要は千春は指を差されているのだ。


男は千春とそう変わらない年齢か年下のようだ、だがワナワナと震え驚愕の表情をしている。

次に震えている男の口から出た言葉に千春の方が驚愕するのであった。


「…まっ!…魔女だぁーっ!!」


……は!?



この世に生を受けて26年。

生まれ初めて私は魔女呼ばわりされた。













最後までお付き合いありがとうございます。


もしよろしければ、感想なぢございましたらよろしくお願いします。

でも、小心者なのでお手柔らかにお願いしますf^_^;)

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