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コメディなのにシリアス傾向強くてごめんなさい。

今回から少しづつポジティブに進む予定です。



なんとか座れそうな場所を探すことができた。


他の樹より明らかに大きく太いその樹はとても貫禄がある。所々コケが生えていたり、穴がポッカリあいていたりしてまさに私の好きな映画の「ト●ロ」にでてきたあの樹みたいだ。


私は「ト●ロ」の親子のように樹に向かって手を合わせ、荒ぶる息を整えながら大きな声で話した。


「大きな樹さん。私はこの森で迷ってしまいました。どうしても家に、元いた場所に帰りたいです。ですが、夜になってしまいました。寝る場所がないので、どうか今日はここに泊めさせてください。お願いします。」


ゆっくり頭を下げ私は目を閉じた。


自分の都合のいい解釈かもしれない。あの時、「いいよ」って頭のどこかでそう語りかけるように響いた気がする。


私は樹の根っこが地面から飛び出した所を背になるように鞄の中から取り出したノートを置くと、その上にお尻をおろした。これで少しは冷えないかもしれない。

季節は春だが、夜は冷えることもある。

女の子に冷えは大敵なのだ。


「フー…。」

少し長めに息を吐いた私は自身を叱咤激励してここまでなんとかたどり着いた。もう身体中が痛くて怠い。

なのにそんな身体が急に愛おしくなってきたのだ。

ここまでこれたのもこの身体のおかげだね…。足が動いてくれたから歩くことが出来た。草をなぎ倒す為に腕と手も頑張ってくれた。

痛さや怠さが全て私を支えてくれた証なのだ。


「ありがとう…。」


労わるように身体をそっと抱きしめた。なんだか少し身体が楽になった気がする。

それに、こうやって休むといろんな事を考える。


いつもなら好きな時に好きなだけ飲むことができた水も、今は我慢して我慢して限界がきたら口にほんの少し含ませる。一気に飲むなんて怖くてできない。いつまでこうやって歩かなくていけないのかが分からないからだ。

今までの生活はとても幸せで、贅沢だったんだな。と感じずにはいられなかった。


家族も友達もここにはいない。


一人だ。


一緒にいてくれたみんなを思い出すとこみ上げてくる。

心配してるかな?仕事も当然無断欠勤だから迷惑かけちゃった。

職場の仲間の顔が次々と浮かんでは消えていく。


…お母さん。

ずっと避けていた母親のことをふと考えた。

私、一人ぼっちだよ。

誰もいない。

私は母親と2人暮らしだった。小さい頃に父は亡くなったらしい。母親にそう聞かされただけであまり覚えていないのだ。

女手ひとつで私をここまで育てあげてくれた母を考えると涙があふれた。

2人だけだったのに、避けたりしてお母さん寂しかったよね…。

ごねんね。

母親の束縛から逃れたい一心だったが、母親なりに愛情をかけてくれたのではなかったのだろうか。

ただそれが微妙だっただけで。

あの束縛のおかげで、反骨精神でおしゃれになれたのだ。むしろ母親には感謝しよう。


「お母さん、ありがとう。」


千春の母を想う柔らかい気持ちと一緒に、ざわざわと葉が風で擦れる音がする。

ふと顔を上げれば、樹の葉の隙間から覗く満天の星空だった。


きらきらと輝く

まるで宝石箱の中みたいだ。

じっと見ているとこぼれ落ちそうなぐらい瞬いている。

ああ。

ここはきっと地球の何処かだ。と私はそう思った。

いつもと同じように太陽が沈み、いつもと同じように夜空に星が現われる。

同じ景色に安堵した。

出勤途中だったのに変な男に出会って時間が止まったような感覚に襲われたと思ってら身体中引っ張られて目を開けたらこの森でした。

最初は夢かと思って楽天的に考えてたけどあまりにも全てがリアルだった。

だんだんと映画とか小説であるトリップってやつ?と思い出したがあまりにもメルヘンでしょ。非現実的、それは。と思い至った。


そしてこの夜空をみて、これはドッキリか何かだ。と結論づけた。以前テレビで素人相手にものすごくお金と時間を掛けて凝ったドッキリをする企画を見たのだ。まさか自分がその餌食になるとは思わなかった。


そう考えるとふと心が軽くなったのだ。

今までの泣きたい気持ちも開放され、だったら最後までこのドッキリに付き合って、思いっきりたんのしんでプロデューサーの期待をいい意味で裏切ちゃおう!


「よーし!明日も乗り越えてみせるぞーっ」


拳を振りかざしながらどこかで隠れているだろうカメラマンに向かってアピールしてみせた。

私はやはりコレと決めたら突っ走る性格は何が起こっても健在のようだ。

しかも、拳を挙げるとどうしてか、顔も一緒に上がる。両方上がると気持ちも前向きになるから不思議だ。

大丈夫。明日になったら熊の格好でもしてドッキリでした~ってネタばらしになる。

どこからそんな自身がでてくるのか…そう決めて私はもう一度身体中をさすり労る。明日も宜しくねと呟いて。

前向きになると今更何も食べていなかったことに気づいた。いつも持参しているお弁当があることに感謝し、森にきて初めての食事をした。胃に染み渡る、身体中が栄養だ!と喜び歓喜を上げているようだ。


「美味しい!」


ごはんを食べられる幸せを思い存分噛み締め、ご馳走様と手を合わせお弁当箱を片付けた。

安心感とお腹が膨れると眠くなる。人間の心理に従い朦朧とする意識に抗うことなくそのまま眠りについた。



千春は何となく気付いていたが認めたくなかった。受け入れることがまだ出来なかった。

ここにカメラマンがいないことも

、人の気配すらしないことも。

だけど、気持ちをプラスにもっていかなきゃ次に進めないのだ。

前に進みたいから気力だけは持ちたかった。

生きて帰る!これが千春に中に小さな灯火となって前にすすむ勇気を与えているのだ。


今日この森に落ちて、彷徨い服も靴も泥だらけ。

いつもなら帰ってすぐに靴を磨く。大切なものはキチンと感謝の気持ちを込めて磨くのだ。だが今は足を守るという役目だけをこの可愛い靴に期待している。

ストッキングの上から何時の間にか虫にも刺され所々赤くなっている。

髪は埃っぽく、蜘蛛の巣がからまっている。

顔は汗でメイクがとれてパンダ目になっている。

鏡を見ないでここまできて良かったかもしれない。…見たらちょっと立ち直れないかも。


最後まで読んでくださってありがとうございました。

ようやく森にきて1日目が終わりました。長かったー。

次回2日目!千春ちゃんどんどん汚れていきますよ~。

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