この世で最も美しい女は
多少文章が歪んでおります。
「鏡よ鏡、この世で最も美しい女は誰?」
『それは白雪姫にございます』
女王様は驚きました。なぜなら、彼女が一年前に同じ質問をしたときは、鏡は『女王様です』と答えていたからです。大変怒った女王様は家来に白雪姫を殺すように命令したが、家来は白雪姫の美しさに見とれて、森へ逃がしてしまいました。当然、次の日になっても女王様は世界一美しい女にはなれませんでした。
「鏡よ鏡、この世で最も美しい女は誰?」
『それは白雪姫にございます』
「どうして?白雪姫は昨日家来に殺されておるはずよ」
『いいえ、それは違います。家来は女王の命令に背き、白雪姫を森へ逃がしました』
「何と愚かな、裏切り者め。おい、召使はおるか、直ちに昨日白雪姫の処刑を任せた家来をここに呼べ」
女王様は家来を自室へ招き入れると、家来に目隠しをして鏡の前に座らせました。そして、部屋の装飾用として置かれていた槍を使い、家来の背中を後ろから突き殺しました。家来はしばらく呻いていましたが、女王様がもう一度刺すと、全くと動かなくなりました。女王様はまた召使を呼び出し、死体の処理と槍の手入れ、そして汚れた床を清掃するよう命じました。
「鏡よ鏡、白雪姫は今どこにおる」
女王様は鏡に問いかけました。
『白雪姫は、ここから西方へ二万歩進んだ森にある、7人の小人たちの家にかくまわれております』
「そうか、ならば今日中に殺すことは可能だ」
女王様は小さなバスケットと、人一人包めるほどの大きな黒いシルクを持って、城を飛び出しました。これも召使に任せてもよかったのですが、自分でやらなければ怒りがおさまりそうになかったので、自ら実行することにしました。女王様は途中の森に毒林檎の実る木があることを知っていたので、そこから毒林檎を5つ頂戴してバスケットに放り込み、少しずると小人の家に近づいてきました。
ついに目的の家の前に着くと、女王様はシルクをかぶり、白雪姫に誰か悟られないよう顔を隠しました。
コンコン。女王様はドアを叩きました。
『はい、どちらさまでしょうか』
女王様にとっては聞いたこともない声でした。しかし、すぐに彼女は小人の声だと気付きました。
「私は林檎を配っている者です。あまりにもたくさんできてしまったもので、近所に少し分けているのです」
『そうですか、ならば少しお待ちください』
ガチャ、とドアが開きました。中からは女王様の身丈の半分ほどしかない、ひげの蓄えたお爺さんが出てきました。
「全部で5つあります。どうぞお食べになってください」
女王様は小人にバスケットを手渡しました。
『ありがとうございます』
小人はそれだけ言うと、また家の中へ戻って行きました。女王様もホッとため息をつき、急いで城へ戻りました。
3日の時が経ちました。
「鏡よ鏡、この世で最も美しい女は誰?」
『それは白雪姫にございます』
鏡の返事は相変わらずでした。
「いつになったら白雪姫は毒林檎を食べるのだ」
『白雪姫はもうあの林檎は食べません』
「どういうことだ」
女王様は鏡を睨みつけて鏡に訊ねました。
『白雪姫が林檎を手に取る前に、小人がさきに一つ食べてしまったのです。その小人はあっという間に倒れ、紫色の泡を吐きながら死にました。それで白雪姫と他の小人はこの林檎が毒林檎であることを気付き、それに火をつけて燃やしてしまいました』
「何という事だ、毒林檎が駄目ならどのように殺せばいいのだ」
女王様は自分のベットの上に座り、しばらく考え込みました。
「そうだ。鏡よ、槍で白雪姫をつき殺すのはどうか。そうすれば私はこの世で最も美しい女になれるか?」
『はい、なれます。今女王様より美しい者は、白雪姫様以外におりません』
女王様はその言葉を聞くと、装飾用の槍を手に取り、再び小人の家に向かいました。今回は顔隠し用のシルクは持たず、堂々と殺すことにしました。西方に目を向け、ひたすら走り続けます。
女王は再び小人の家に着きました。
ドアを二回叩くと、以前聞いた事のある声が返ってきました。
『どちらさまでしょうか』
「この森で迷ってしまった者です。二日物を食べておりません。どうか何かめぐんでくれないでしょうか」
『いいでしょう、どうぞ中に入ってください』
女王様はニヤリと笑い、ドアを開けて中に入りました。しかし中には誰もいませんでした。首をかしげる女王様。
すると、後ろから女性の声が聞こえてきました。
『お久しぶりにございます、お母様』
* * *
「鏡よ鏡、この世で最も美しい女は誰?」
この城に新しく君臨した女王様は訊ねました。
『それは、白雪姫様です』
女王様は小さく微笑み、無毒な林檎をかじりつきました。