終わった後の話
今回の戦争は魔王の策略という事で、夜の国は穏便にすませてくれた。
大原の国と夜の国の戦争自体は、指揮官を含め上官全てが植物人間になった所為で、夜の国が勝った。
もし、魔王の所為に出来なければ、かなり無茶な要求が来た事は想像できる。
軍の半分近くを潰された極星の国は、色々文句を言いたそうだったが、それも夜の国のお陰でどうにかなった。
あれから三ヶ月、大原の国は混乱を極めている。
まず最初に、高い地位にいた武将や、文官の殆どが魔王に操られていた様で、植物人間になってしまった。
国王と王妃は更に酷く、人としての原型もとどめていない肉団子になっていた。
その所為で、政治、軍事、どちらの面でも人手不足だ。
エイリンも穴を掘っては埋める様な作業を徹夜でやらされている。お陰で、命令違反、備品窃盗をした罪が軽くなったエイリンとしては文句の一つも言えない。
「ふわぁ、時間か」
エイリンは聖堂の鐘の音が聞こえると、車椅子を動かして書類しかない忌まわしい部屋から出た。
かれこれ一ヶ月近く、エイリンはこの部屋で意味のない書類と格闘している。四肢の内動くところが右手だけでも、書類の整理には支障がない。
どうせなら、利き手も怪我をしたら良かった、とエイリンは少し後悔していた。
あの後、外での戦闘を終えたエイリンの兵達が、死に掛けていたエイリンを見つけ、手当てをしたらしい。
らしい、と言うのは、エイリン自身が目を覚ました時には、ちゃんとした軍医の手で、ちゃんとした応急処置をされ、大原の国の野戦病院のベットで寝ていた所為だ。
本人達から聞いただけで、本当の所は分からない。
「まぁ、どっちでもいいがな」
自分の部下だけで戦ったとはいえ、生存している人数が一ケタだった事を考えると、どうこう言う気にはなれない。
エイリンは、何時も通りのコースをいつも通りのタイムで抜けて、その部屋へと入る。
「入るぞ」
ノックをするが、返事はない。
それを気にした風もなくエイリンは扉を開けた。
部屋にはベットが一つと、昨日、エイリンが入れた花がそのまま入っていた。
誰かが来た形跡はない。
エイリンは、ベットの上で眠っているテイの髪を撫でる。
テイは傷一つなく、綺麗な体のまま眠っていた。邪剣の力のお陰で、怪我が直ぐに治ってしまうのだ。
一度誤って、花瓶をテイの顔の上に落としたが、あざ一つ出来ていなかった。
結局、魔王は勇者の力で倒した事なっている。
実際、止めを刺したのは勇者だろうし、勇者も頑張ったんだとは想う。
それでも、エイリンはやりきれないものがあった。
あれだけ頑張って、あれだけ死ぬような思いをした男の名前が何処にも乗っていない事だ。
別に名声をくれてやれ、とか、報酬をやれ、とか言うつもりはエイリンにもない。
だが、名前ぐらいはあってもいい気がした。
魔王に勝てたのは、たぶん、彼の力もあっただろうから。
もしかしたら、彼の言葉は妄想でしかないのかもしれない。
それでも、あれだけ辛い思いをして、ただ人が笑える世界だけを願った彼の名前が、何処にもない事にも、誰も彼を覚えていようとしない事も納得は出来なかった。
だから、エイリンは決めていた。彼が目を覚ましたら、笑顔と共に、最初はこう言おうと、
お疲れ様頑張ったね、テイ
長々とした作品を読んで下さり、ありがとうございます。
これにて、道化のお話は終了です。
次回作に期待してくれる方が、いたら良いなぁ。