月下美人
掲載日:2026/04/21
「すごいじゃん!」「さすが〜」気まぐれに向けられる言葉に意味はあるのか。この20年、側から見れば、所謂『良い子』だったはず。褒めてくれる人はたくさんいる。なのに、いつまで経っても満たされない。「何でだろう」1時間に1本しか無い電車を見送りながらボーっとそんなことを考える。それが彼女にとって一種のルーティンのようになっていた。
ポケットが震えた。ハッと我に返りスマホを見る。“残り10%です”気づけば再生リストは最後の曲に入ろうとしていた。ごちゃごちゃした鞄を漁る。こんな日に限ってモバイルバッテリーを忘れた。電源を切り、彼女は再び考えた。考えたところで答えは出ない。そうわかっていても考えてしまう。
ふと、いろんな記憶が一斉に呼び起こされる。何故か今日はその答えが見つかりそうな気がした。肌寒い満月の夜、甲高い急ブレーキの声に合わせて一輪の月下美人が咲いた。




