赤い不在票。
帰宅した私を待っていたのは、一枚の不気味な不在票でした。
日常のすぐ隣にある、逃げ場のない違和感についての掌編です。
夜、駅から自宅への帰り道。
あと数分でアパートという街灯の下で、背後から乾いた排気音が迫った。
奇妙なほど真っ赤な軽バンが、不自然な加速で私を追い抜いていく。
赤いテールランプが闇に溶けるのを見送りながら、私は「急いでるな」とだけ思った。
コーポ◯◯。
カッ、カッ、、、錆びついた鉄の階段を登る。
その先の1番奥の部屋、203号室。
自室のドアのポストを覗くと、赤い紙の端が「ペロリ」とはみ出していた。
それを指先でつまみ、引き抜いた。
不在票だった。パタン、と投函口が虚しく音を立てて揺れる。
その直後、バンッ。キュルル、、ブォォォォン――。
階下の道路から、ドアの閉まる音、キーが捻られ再びあの音が響いた。
驚いて手すりから身を乗り出すと、さっき自分を追い抜いていったはずの、あの真っ赤な軽バンが、今まさにアパートの前から走り去っていく。
「え? いまさっき投函された……?」
追い抜かれたのは数分前なのに。
私のすぐ先を走り、私が到着するその直前に、これを差し込んで去ったというのか。
不気味さを振り払うように部屋に入り、不在票をテーブルに放り投げ、汚れを落とすためにシャワーを浴びた。
湯気の中で「ただの効率的な配達員だ」と自分に言い聞かせたが、指先に残った不在票の「湿り気」が生々しく不気味だった。
バスタオルを巻き、改めてテーブルの上の紙を確認する。購入した覚えは一切ない。
私はスマホを手に取り、検索窓に指を滑らせた。
『不在票 身に覚えがない 赤い軽バン』
ヒットしたのは、数年前で更新が止まった個人の日記サイトだった。
『赤い軽バンが追い抜いていったら、もう逃げられない。もし、引き抜いた伝票番号の下二桁が「42」だったら……』
そこから先の記述は、不自然に途切れていた。
私はスマホを置き、ゆっくりと、テーブルの上の不在票に手を伸ばした。
これを裏返して、末尾の二桁を確認する。
ただ、それだけのことだ。それだけ。
そう言い聞かせて湿った赤い紙に指をかけ、私はそれを、ゆっくりと、めくった。
(了)
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
少しでも「不気味だ」と思っていただければ幸いです。
まだまだホラーは勉強中ですが、ご感想頂けますと、作話モチベーションになります、お気軽にコメント頂けますと嬉しいです。
次作も構想中ですので、引き続き応援よろしくお願いいたします。




