はじまり
銅田は中学と高校は留学に行ったため離れていたが、同じ大学の工学部で飯田と再開した。
「よっ」
「えっ!アカぢゃっ、ん゛ん~」
「その渾名を辞めろっ!このまま息の根とめるぞ」
入学初日からこんなことで誂われたくない。
コクコク
「っ、はー!久しぶり!」
口元を解放され小言を挟まれるかと思ったが、このピカピカの満天の笑顔。
「…久しぶり」
相変わらずの飯田に懐かしく呆れた。
「ヤバっ、めっちゃカッコいい!」
「脚長っ!スーツ男子最高!」
「スーツに着さされてない!」
相変わらずのギャラリーに飯田も苦笑い。
「いつもながら凄いね」
「はぁー…来週の水曜って学校来てるか?」
「水曜?たぶん」
「授業がなかったら4時くらいに時間を作ってくれないか?」
「うん?ダメだったら連絡する」
「分かった。じゃぁ来週に」
「アカ…銅田はこの後の新歓来ないの?」
「後ろを見ても言えるか」
徐々にギャラリーが増えている。
「…だね」
「高木を待たせてるからもう行く」
「高木さん!懐かしー」
「来週会えるよ。じゃぁなっ」
銅田は逃げるように去って行った。
「ちょっ、君さっきの人の知り合い?」
飯田も逃げるようにその場を去った。
水曜日
銅田から棚田助教授の作業室に来てほしいと連絡があり、午後の授業を終えて向かった。工学部の旧校舎地下にある作業室に続く廊下は古く内装も廃れ、少し怖い雰囲気が漂っており、
(何でこういうとこの蛍光灯ってチカチカしてるの?!めっちゃ怖い…)
飯田は恐怖と戦っていた。
やっと作業室前に着き、ノックをしようとすると
_バンッ
ビクッ(なに?!怖い!!!)
ドアが勢いよく開いた。
「片付けておけといったよなっ!!」
「だって来週までにって言ってた」
「今日がその来週だっ!」
「…そんな馬鹿な」
「はぁー…掃除だ。高木を呼ぶから今から掃除しろっ。あと風呂に入れっ!クサい!」
「ひどい!」
銅田と無精髭の男が言い争いながら出てきた。
「…アカ、銅田」
「おっ、来た。飯田も掃除手伝って」
「えっ、いいけど…」
「高木に連絡するから、この小汚いおっさんを手伝ってやって」
「ひどい!もうそろそろ泣くぞ!」
銅田は席を外した。
「えっと、飯田です」
「棚田です」
「あっ、助教授の?」
「うん。これゴミ袋と軍手ね」
「ありがとうございます」
「でも捨てるもんなんてないんだけど…どうしよこれ」
作業室はどう見てもガラクタの山だった。
「…取り敢えず、道を作りましょうか?一端廊下に全部出してみます?」
「…はい」
ただ道作ろうと安易に言ったが精密な機械の山、2人で丁寧に慎重に運び出していた。
「わっ!結構重いですね」
「あーこの子は重心取りにくいから下に重石入れてるんだよね」
「(この子?)あっ、ロボットなんですか?」
「うん。あれ?僕はロボット工学専門なんだけど君は違うの?」
「僕はシステム工学です」
「何だ。銅田とは?何か脅されてここにきたの?お金とか?」
「いや、ただの友達です(アカちゃんのイメージって…)」
「ん?ごめん聞き間違い?友達って言った?」
「はい」
「………何であんなヤツに友達がいるんだ?!俺なんかゼロだぞ!可笑しいだろ!世の中不公平だ…」
棚田が力なくヘナヘナになっていく。
「ちょっと!!重いです!」
飯田に重さが掛かると
「大丈夫ですか?」
パッと後ろからを支えてくれる人物が現れた。
「!高木さん!」
「お久しぶりでございます。飯田様」
高木は1人で軽々と廊下へ運んだ。
「わー!久しぶりです!ありがとうございます!」
「ふふっ、とんでもございません」
高木は懐かし飯田の笑顔に笑みが溢れた。
「飯田様、坊っちゃんが上の203号室で待っているので行って頂きますか?」
「えっ?ここはいいんですか?」
「はい。ここは我々だけで大丈夫ですので」
「…いや良くない!行かないで飯田くん!」
「えっ」
「大丈夫ですので。さっ」
棚田の涙目に心苦しいが、高木の圧に押され銅田の元に向かった。
上の階も内装が廃れてはいたが、窓から日の光が入るだけで全然違って見えた。
203号室は30人ぐらいが入れる小さな教室用だが、机や椅子が端に寄せられ現在は使われていないようだ。呼び出されたが肝心の銅田がいない。場所を聞き間違いしたかと思いメッセージアプリで確認する。
・着いたけど、203号室であってる?
すると教室の奥のドアが開いた。
「こっちだ」
「わっ!びっくりした…」
どうやら奥の準備室にいたようだ。
「お邪魔しまー…えっ」
準備室だと思って入るとそこは、シンプルだが繊麗されたインテリアで統一されたオシャレ空間が広がっていた。
「どっ、え??何ここ?!」
「俺のオフィス?殆ど居ないから応接室みたいに使おうかと思ってる」
「オフィス?!何?!会社作ったの?!」
「そう」
銅田はゲーム好きが高じてイギリスの留学中にゲーム会社を作っており、ここは学生の間だけ日本での活動拠点するそうだ。
「すごい!社長だ!何のゲーム作ってんの?」
「今はこれとか?スマホゲームを中心に作ってて、資金集めしてる。金と人材が集まればハイグラフィックのRPGを作ろうと思ってる」
スマホの画面を見るとランキング上位に入る人気タイトルが2つ。
「えっ?!2つとも僕もやってる!こっちのパズルは母さんもやってるよ!」
「ははっ!師匠はトップ10に入ってるよ」
師匠こと飯田父は今も銅田と親交があり、実の息子よりマメに連絡を取り合っている。現在は関西に拠点を移して細々とローカル番組に出ており、それ以外はゲーム配信者として名を馳せ本業よりも忙しくしている。
「でっ、本題なんだが」
「うん」
「うちでバイトしないか?」
「ゲームを作るの?」
「いや、それはイギリスのチームでやってて、日本では本体のハードを作ろうかと思ってるんだけど」
「えっ!」
「いきなり大手相手に参入できないし、まだ資金もそこまでないからまずはゲームに特化したスマホを作ろうかと思っている」
「…なるほど?それを開発して企業に売るとか?」
「まぁ今はそんなとこ」
「はへぇーー」
銅田の壮大な夢に脱帽した。好きが高じるとこうなるのかと。
「飯田もシステム工学だったよな?」
「ん?銅田も?全然大学で見かけないけど」
「授業は全部オンラインで受けてる」
「わーとうとう学校に来ない選択をしちゃったかー」
「いい時代になった」
「でも会社には来るんだ」
「水曜だけ駒場教授のゼミがあるからそれだけ出てる。そのついでにここにも顔を出すけどほとんど来るつもりはない」
「えっ!ここせっかく作ったのに」
「対面でどうしても打ち合わせしないとダメな時用に作っただけだ。飯田なら好きに使っていいよ」
こんな部屋があっても自分は持て余すだけだ。
「ってか1年からゼミ入るんだ」
人から遠ざかって生きてきた銅田からは想像できない選択。
「…たから」
「ん?」
「ゲームに負けたから。1年だけゼミでバイトしろって」
「はぁっ?!!アカちゃんが負けたの?!何者?!」
銅田は世界的な様々なタイトルのゲームランキングでどれもトップ50に入っている。ちなみに飯田父はどれもトップ10に入っている。二人ともしっかりとゲーマーであった。
「…さっきの助教の棚田。あいつもここで働いてもらうから」
「棚田さんが?!」
「あいつ駒場教授のとこでクビになったんだけど、代わりの人材宛がわないと大学からも追い出すって言われたらしくて、ゲームで負けたらなんでも一つ言うことを聞くって賭けたらこうなった」
「こうなったって、」
「で、次に俺が勝ったから会社で働けってことになった」
「えー、最初の願いを取下げれば良かったのに」
「それも良かったが、駒場教授が台湾の半導体企業と共同研究しているのが分かったから。今後の人脈作りにちょうどいいと判断した」
「それでも日本の大学をわざわざ受験するって結構な選択じゃない?あっちのが絶対にいいのに」
「…姉さんがこっちに転勤になったから」
銅田は今もしっかりとシスコンだった。
3年後
「アカちゃん、これを消す方法はない?」
「そのあだ名は直す気がないのか?」
「分かった、もう2度呼ばない。だから教えて欲しい」
飯田の高校時代の友達の妹がレイプされ、酷い写真をネット晒され自殺した。削除依頼を繰り返すも完全には難しく、終いにはフリー素材の様に扱われ、雑誌の怪しげな広告にも使われて遺族は心が壊れてしまった。犯罪行為を写したその横には「私を犯して」と書かれていた。
「…何だこのゴミのような出版社は」
「今出版社にも広告の会社にも被害届を出してるけど、もうそういう次元じゃない。根本を正したい」
「………少し時間をくれ」
「じゃぁ、」
「いや期待はするな。出来るとは今断言できない」
「…分かった」
その一月後、ネットから写真が消えた。
「飯田!本当にありがとう!」
「うん…また出てくるようなら言ってね」
銅田はこの3年で念願のスマホ開発に成功していた。ゲームに特化した大容量バッテリと処理性能の高いCPUに冷却機能を当時のスマホの中では群を抜いた技術で完成。弱みとしては若干の重さと価格。それでも世界的な人気アプリを手がけるゲーム会社の開発したスマホはゲーム大国日本ではまずまずのヒットを放った。
しかし1000万以上のゲームユーザーを徐々に自社スマホに移行させる為、ゲームのアップデートを徐々に図ったが思う様に売上は伸びず、次の製品開発を始めようかと言うタイミングで転機が訪れた。アップデート後、他社スマホのゲームユーザーへの対策として処理性能を高めるために、クリーンアップアプリを開発。むしろこちらの方が爆発的ヒットを放ち、1年後にはほとんどのスマホとパソコンに標準搭載される特許技術で大成功してた。
今回、銅田はこのアプリを違法に利用し例の写真を消してみせた。
「銅田、これって」
「何も追求するな。お前は何も知らない。その条件を飲むことが今回の報酬だ」
「…分かった」
これがCLEANの始まりとなる最初の依頼であった。
◇
数カ月後
雑居ビル屋上に銅田と1人の少女がいた。
「やっと見つけた」
「…?」
「飛び降りるのか?」
「っ…」
「きっと無理だな」
「なんで」
「その腕の傷。死にたくても死ねなかったんじゃないか?」
少女は服の袖を伸ばし隠す。
「…」
「…なぁ、生まれ変わりたくないか?」
「?」
「お前の写真は消してやった。その報酬に、名前と顔を変えて生きていくんだ」
少女は慌ててネットを確認した。自分と半年前に亡くなった友達の犯罪写真が消えていた。
「っ、なんで?!」
「条件を飲めば、高校にも大学にも行かせてやる。働き口だって紹介する。お前等を貶めたヤツに復讐だってさせてやる」
「…でも何をすれば」
「この顔に整形してもらう」
銅田は愛してやまない最愛の姉の写真を少女にみせた。
「綺麗だろ?そして名前は…」
スマホで名義のリストを確認する銅田。
「おっ、ちょうどいい。"田中美和"になってもらう。それでその時がきたら僕に協力して欲しい。それは5年後か10年後、もしかしたら20年後かもしれない」
「…」
「まぁ、考えといて。その気になったらここに連絡、」
「やります」
「おっ」
「彼奴等に復讐させてくれるんですよね?」
「もちろん。でも相手が相手だ、時間は少しかかると思うぞ」
「いくらでも待てます。20年後でも」
こうして少女は"田中美和"となった。




