友達
酷い臭いだ。布団もどのように亡くなった状態が分かるように人の形にシミが黄ばんでいた。何故亡くなって何年もこのままの状態で放置できるのだろう。家具は必要なものを探すためか全て半開きで物がはみ出している。
「…桃ちゃん後で来るんだよね?」
「この量ですからね。男手は何人か声かけてます」
今日は一軒家丸々の清掃だ。ここのご主人が亡くなってから何年も放置された家に買い取りでやっとつき、清掃依頼がきた。リォームか取り壊すか清掃してから判断したいとのこと。
「毎回思うけど何で放置できるかね。自分もここで育ったはずだろうに」
玄関にはこの家の前で撮った幼少期の家族写真がいくつも飾られていた。
「まるで泥棒が入ったあとですもんね」
「金目のもんにしか用がないってことね」
「とりあえず桃方さん達くるまでにタンス類からやります?」
「うん。あと布団ね!何か怖いし!」
「はいはい」
大物の家具を運んでもらうためにタンスや本棚から衣類や書類などをゴミ袋に詰めていく川崎と円城。食器や本は売れる物がよくあるので、後ほど業者に丸々引き取ってもらうようにしており、売上は現場に入った人数で山分けというボーナスがある。そうでもしないと、事後清掃を希望するがいないからだ。特殊清掃もだが防臭スーツを着ていても顔や鼻についた臭いが丸一日は取れず、吐き気を催す者もおり最近は決まった男性陣4,5人が担当している。
「おっ、これ初版だ。高いかも」
「マジ?!久々のお宝かな〜」
「これもだ。状態もいいから期待大ですよ」
「…業者さん桃ちゃんより早く来ないかな」
「駄目ですよ抜け駆けは。それでこないだバイト君と揉めちゃって辞めたんだから」
「何でみんな犯罪集団なのに変なとこ真面目なの?バイト君可哀想」
「統率とってるだけでしょ。早く運んで下さい」
「おっも!ちょっと詰めすぎ」
「桃方さん達遅いですね」
「無視しないで」
どうにか玄関までお宝本たちを運ぶと
_「おっ、やってんな」
201cmの大男、CLEANでNO.1の腕っぷし桃方がいた。
「桃ちゃん!!」
川崎はいつもの様に衝動ジャンピングビッグハグをかまそうしたが、
「待て!お客様がいる」
大男のせいで見えなかったが後ろには中学生らしき男の子が1人。
「…大変失礼しました」
「近所の子なんだってよ。ここのおじいちゃんによく本を貸してもらってたんだと」
「そうなんですね」
「あの、清掃の人が出入りしてるのが見えて。色々処分するんですよね?」
「はい、それが依頼なので」
「それで捨てちゃうんだったら、おじいちゃんの形見で本を何冊か譲ってもらえないかなと思って…」
「なるほど…今本をまとめてるところなので、できたら玄関先に置いておくのでご自由にお取りください」
「いいんですか?!」
「えぇ、その方がお祖父様もお喜びなられるかと」
「ありがとうございます!」
「少し今から大きな荷物の運搬が始まって危ないので、1時間くらいしたらまたここに来ていただけますか?」
「分かりました!」
少年を笑顔で見送ると
「っ、円城くーーーん!!」
ドタバタと円城に助けを求めに言った。
「お前のそれ、どこがスイッチになってんの」
彼の切り替えの速さに桃方は呆れていた。
「どうしたんですか?」
「ほん、…本、どれが高いやつ?!」
「いや、そこまで僕も詳しくないんですけど」
「取り敢えず高そうなのはどれっ!」
「どうしたんです?」
「30分後に少年が本を取りに来ちゃうから早くっ!」
「はい?」
「近所の子が形見に何冊か欲しいんだと」
「桃方さん、お疲れ様です。瀬古さんは?」
「トラック取りに行ってくれてるからもう少ししたらくる」
「そうですか。…で?」
「やめて!そのブリーザードの瞳!田中さんだけで充分だから!」
「子供相手に情けない」
「だって今月マジピンチなんだもん!」
「それ毎月いってるよな」
「その子が高価な本を持って行かない方にかけてみては?」
「何でこんなに皆真面目なの!」
「これ読んだら考え変わりますよ」
円城は川崎に1冊の本を手渡した。
「何これ?…日記?」
そこには日記に充たない覚書のようなものが書き連ねており、日付は疎らだがとある少年との出来事が記されていた。
*
3月25日
あの子を見かけた。高校の卒業式以来だ。
4月2日
どうやら家族で引っ越してきたみたいだ。子供が2人。下の子は今日入学式だったようだ。
4月18日
上の子が泥だらけで歩いていたので思わず声をかけてしまった。どうやら下を向いて歩いていたら前方からくる自転車と衝突しかけとっさに回避したが空き地の水溜りに倒れ込んでしまったそうだ。少し抜けているとこがあいつに似ている。
5月5日
子供の日のお祭りで、2人とも子供神輿を担いでいた。
5月7日
今日は下の子と3人でお出かけのようだ。
5月13日
図書館で上の子を見かけた。
5月17日
上の子が公園のベンチで本を読んでいた。どうやら本が好きなのは私に似たらしい。
*
「えっ、これじぃちゃんって」
「ここも読んで見て下さい」
*
6月7日
今日も3人でお出かけのようだ。上の子は図書館で見かけた。
6月8日
今日は町内会の掃除だ。あいつは今回は欠席のようだ。そのためかおばちゃん連中からよくない噂を耳にしてしまった。
どうやら上の子は嫁の連れ子だったらしい。俺とは血の繋がりはなかったようだ。
*
「じゃぁ下の子はあるってこと?」
「そこはもう重要じゃないんで、早く読んで下さい」
「なんだよ!そうだ!少年来ちゃうじゃん!」
「あと少しだけなんで!」
*
7月12日
来週から図書館が改修工事をするそうだ。あの子はこの夏休みどこで過ごすのだろう。
7月26日
ラジオ体操のハンコ当番の日。あの子は弟一緒に毎日来ているようだ。少し肌が焼けているから外で遊んでいるようで安心した。
8月2日
町内会のお祭りの日。あいつは焼きそばを焼いていた。あの子は母親と弟の3人で祭りを楽しんでいた。
8月13日
今日も3人で出かけていた。少し心配になり、炎天下の中近所を散歩してみた。公園の東屋で本を読んでいた。ここだけ別世界かのように涼しく、自分も休憩がてら隣のベンチに腰掛けた。すると「こんにちは」と向こうから声をかけられた。たぶん「こんにちは」と返したが、ぼーとしていてあまり覚えてない。軽く熱中症になった。
8月25日
今日は買い物ついでに隣の図書館に足を運んだ。するとあの子がいた。どうやらこの夏休み居場所に困ってないようだった。目が合うと軽く会釈をしてくれた。
9月1日
お昼で学校が終わったのか、2人で仲良く帰っていた。兄弟仲は良さそうだ。
9月5日
いつもの公園にいた。今日は自分もここで本を読んでみようと腰掛けると「大丈夫ですか?」と声をかけられた。どうやらまた熱中症になったようだ。スポーツドリンクを2本買ってきてもらい、1つをあの子にあげた。なんとも情けない。
9月21日
図書館の改修工事が終わった。あの子の姿は見かけなかった。
9月27日
今日は図書館にいた。この間のお礼を言った。少しお互い読んでいる本の話をした。
10月8日
今日は友達と弟とサッカーをしていた。交友関係が広がっていて良かった。子供達の声をBGMにベンチで本を読んでいたら向こうからわざわざ声をかけてくれた。前に勧めた本をもう読んだらしい。他にお勧めがないか聞かれ、同じ作者のシリーズものを勧めた。
10月22日
図書館で話しかけられた。勧めた本が2巻までしかないとボヤいていた。家に続きがあるからと帰り際に家に寄ってもらい貸した。
10月29日
家まで訪ねて本を返しに来てくれた。他にも何かないかと言うので、書斎に通して好きなものを選ばせた。
11月5日
町内会の掃除で出た落ち葉で公園で焼き芋をした。今日は家族4人で参加していた。目が合うと手を振ってくれた。恥ずかしかったが振り返した。
11月9日
本を返しにやってきたので、また書斎に通した。
11月26日
急に1月並の気温になり外は冬だった。公園で体を縮こませながら本を読んでいたので声をかけた。図書館の本じゃないから公園で読んでいたそうだ。それは自分が貸した本だった。それならうちで読んだらいいと招いた。出した紅茶に微妙な顔したのでハチミツを出してやると美味しいと笑顔になった。
12月18日
あれか週に2,3のペースで家で過ごすようになった。親にはなんと言っているんだと聞くと「友達の家に行ってくる」と伝えているらしい。
12月25日
来るかどうか分からないが、少しいい焼菓子を用意した。ケーキは家で食べるだろうと思ったからだ。しかしあの子は来なかった。
1月4日
新年の挨拶に来てくれた。冬休みは家族で海外旅行に昨日まで行っていたらしくお土産にクッキーをもらった。一緒に紅茶を淹れて食べた。自分がクリスマスに買ったものより美味しかった。
1月10日
手紙が入っていた。新年早々にインフルエンザで学級閉鎖だそうだ。念のために
1週間ほどは来るのを控えるとのことだった。
1月18日
手紙通り来てくれたが、自分が風邪をひいてしまったのでインターフォン越しに何日かしたらまた来てくれと伝えた。
1月19日
玄関先にミカンが入った袋があった。一緒に入っていたメモに「おばあちゃんが作ったミカンです。早く治してね」と書かれていた。またこのミカンが食べれると思ってなかったのでたまらなく涙が出た。
*
「バァちゃん生きてるじゃん?!!」
「早く読んで」
「いやこの超大作展開だよ?!大切に読もうよ!」
「俺も続きが気になる」
*
1月25日
熱は直ぐに引いたが、少し咳が続いたので病院に行ってみた。あまりよくないようで、大きな病院で診てもらうよう紹介状を渡された。もういい歳だ覚悟しよう。
1月27日
肺がんだった。他にも転移しており、あまり永くないようだ。抗がん剤治療を取り敢えず受けることにしたが、あまり気乗りしなかった。これ以上生き続けてなんの意味があるんだ。
2月4日
図書館で久しぶりあった。体調のことを心配された。来週から入院することを伝えるか迷ったが、この子は賢く聡い子だと思い伝えると、凄く悲しいそうな顔をされた。こんな顔をさせて悪かったが、自分の死を悲しんでくれて嬉しかった。
2月11日
入院して3日目。父親と一緒にお見舞いに来た。何故病院を知ってるんだ?何故父親と?と困惑した。入院先は図書館の館長に聞いたらしい。父親からは「息子がいつもお世話になっており、ご挨拶が遅れて申し訳ございません」と随分と丁寧な挨拶をされ笑ってしまった。どうやら家あった本が図書館でも学校から借りてないものが出てきて私との関係を話したそうだ。お見舞いにあの人のミカンをまたもらった。
2月19日
一時帰宅した。生前整理をしたかったが思うように体が動かない。食べ物だけ片付け、遺書を書いた。もう何年も会っていない息子と娘に。それとあの子に。
3月1日
またお見舞いに来てくれた。父親の本棚から何冊かお勧めを持ってきてくれた。あの子の好みが知れて嬉しかった。ミカンの皮を剥いてくれた。
3月6日
今日は卒業式だそうだ。病室から正装した親子達が帰っていくのが見えた。お祝いの言葉をかけたかったな。
*
「ん?続きは?」
「ないです」
「えっ…」
「うちの資料では2年前の3月7日に亡くなったと書かれてます」
「じぃちゃん…」
「でっ、次はこれです」
円城は1冊の本を差し出した。
「次?!次ってなに?!」
「これで最後ですから」
本を開くと手紙が挟まっていた。
*
瀬古真琴くんへ
こんな爺さんと仲良くしてくれてありがとう。この本は次に貸そうと思っていたものです。まだ今はもしかしたら分からないかもしれないけど、大人になってからでも読んでみて下さい。他にも君に読んで欲しい本がたくさんあります。もし良かったらここにある本全部を君に譲りたいと思います。全部は無理かもしれないので、家に置けない分は図書館に寄贈して下さい。館長には君が自由に読めるようにしてくれると約束しているので、この手紙を持って相談してみて下さい。
ほんの短い間だったけど最後の友達になってくれてありがとう。
*
「っ…じぃぢゃんっ」
「泣いちゃった。どうします?これでも売りさばきます?」
「そんな酷いことできるかっっ!!」
「お前本当にこういうの弱いよな」
「こんなハートフル皆弱いでしょうがっ」
「開き治っちゃった」
「じゃぁ本は全部まとめて、大物運ぶぞっ」
だいたいの荷物を庭に運んだ頃、少年はやってきた。
「すいません、もう大丈夫ですか?」
「はい、真琴様お待ちしておりました」
本当にこの時を楽しみにしていた川崎は己のワクワクを笑顔の下に必死に隠していた。
「あいつのアレ、本当どうなってんの?」
「高木さんから特別な訓練を受けたらオートであのようになったと」
「あいつ何したの?」
「さぁ?入った当初は素行が悪かったと聞いたことありますけど」
桃方は川崎より年上だが、円城と共にまだまだ新参者だ。10代の頃から働いている川崎は中々の古参になる。
「あの、何で僕の名前を?」
「大変失礼しました。誠に勝手ながらこちらを拝見してしまいまして」
本と手紙を渡した。
手紙を読み終わると、本に顔を埋めて震えていた。
「見つけてくれてありがとうございます」
「いえ、こちらの本いかがしましょうか?もしよろしければ私達の車で運ぶお手伝いをさせていただきたいのですが」
「えっいいんですか?」
「はい」
「えっと、どうしよ…そだ!館長に聞いてきます!取り敢えず図書館に運んでいいか!」
「畏まりました。では車を準備しますね」
「いえ、すぐそこなので聞いてきます!」
真琴くんは光の速さで翔けていった。
「はっや!!」
「インドアの速さじゃないですね」
「文武両道だな」
真琴くんの足の速さに唖然としていると、家の前に軽トラが停まった。
「お待たせです」
瀬古が到着した。
「あれ?軽トラしかなかったん?」
「引っ越し組に借り出されてましてこれしか」
「じゃぁ分けて運ぶか」
「はい。あっ、業者さんって来ました?」
「まだだけど?何々?瀬古っちもお宝ハンターになったん?」
「いや、本をいくつか置いといてほしくて」
「?どうしてです?」
「息子がここのお爺さんと仲良かったんですよね。本の貸し借りとかしてて」
「……、真琴くんのお父さん?」
「えっ、息子ですけど」
「ジャッ、じゃぁ瀬古っちってじぃちゃんのむブォフっ、ん~~!」
桃方がとっさに川崎の口をふさぎ、円城は日記を鞄にしまった。
「先程息子さんがここを訪ねてまして_」
円城が事のあらましを話した。
「本をこんなに?!何だか悪いなぁ」
「もうすぐ図書館から帰ってくると思いますよ」
「最後に会えなかったから、ここの家を通るたびに気にしてて」
「最後はどんな感じだったんです?」
「僕も近所の方に聞いた話なんでどこまで本当か分からないんですけど_ 」
最後は一時帰宅した日に家の布団で昼寝でもしながら息を引き取ったそうだ。夜になっても帰って来ないと病院側が預かっていた合鍵で確認をして警察に通報した。葬儀も家族葬でお墓も分からない状態で、真琴くんはずっと卒業式の日にお見舞いに行かなかったことを悔いていた。
買い手のつかない空き家の生い茂る雑草が気になり、こっそり入って草抜きしていたこともあったそうだ。
「まごどぐん、いい子」
「なんで川崎さん泣いてるです?」
「ちょっと心がアレなんだ」
「ほっといて大丈夫です」
_「あれ?父さん?」
真琴が光の速さで帰ってきた。
「おかえり」
「今日はホテルじゃないの?」
「ここの清掃依頼が来てたから変わってらったんだ。本、良かったな」
瀬古は普段ホテルでコンシェルジュをしていて、たまにこうして清掃の仕事もこなしている。
「うん!多分父さんの本もあるよ」
「そっかぁ、貸したまんまだったもんな」
「それで図書館はどうでした?」
「館長さんはいつでも持ってきていいって」
「じゃぁ先に本だけ運んじゃいましょうか?」
「そうですね、僕と息子行ってくるんで皆さん清掃の続きお願いしてもいいですか?」
「了解です。本積んじゃいますね」
「僕も手伝います!」
「重いから気をつけね」
「おっ!体力あるな、川崎より役に立つ」
「っ!」
「真琴くん脚も速かったけど、何かスポーツしてるの?」
「サッカーしてます」
「瀬古さんもユースチームに入ってませんでした?」
「昔ね。そのくらいしか教えてあげれるもんがなかったんだけど、ハマってくれて良かったよ。サッカーもこの間地区選抜に選ばれて、頭もいいから高校の推薦もう貰っちゃったんですよ」
「恥ずかしいからやめてよ」
「まだ5月なのに凄いですね」
「自慢の息子です」
ピカピカの瀬古の笑顔に、過去を語らせようとしていた川崎の邪推な考えは消えた。
図書館に向かった2人を見送る。
「…日記どうすんの?」
「どうしましょう…、これ机の鍵がかかった引出しに入ってたんですよね」
鞄から日記を取り出す円城。
「故人が隠したかったことだから最後に閉まったってこと?」
「そっか、死を悟って最後に外出したんじゃないか?」
「なるほど…」
「でもやっぱ瀬古っちに渡すのありじゃない?じぃちゃんだって誰かに見られるかもしれないけど書いた訳だろ」
「えー、何かこのままのがよくないですか?」
「…よし!運に賭けようぜ!元の引出しに入れておいて、瀬古が気がつけば鍵を開けようぜ!」
「そうしよ!空いてなかったら絶対開けるし!」
「それって見つけてくれってみたいなもんじゃ」
「はい、閉まって閉まって!鍵は?」
「…これで開けました」
円城の手には針金が。川崎は円城の肩に手を置く。
「円城くん、しっかりCLEANの人間で僕安心した。」
「だって鍵なかったんですもん!」
円城は真面目にピッキング講習を受けていた。
日記を机に戻し、清掃をだいたい終わらせると瀬古が帰ってきた。
「お待たせしました。運んじゃいますねー」
「おう、反対持つわっ」
「真琴くんは?」
「図書館で欲しいやつ選別してます」
体力のある、瀬古と桃方がどんどん大物家具を運んでいく。
「第一弾はこんなもんですかね?」
「だな」
「、あーちょっと待って。この机後で開けようと思っててぇー。鍵見つからないから円城くん開けてよー」
「(わざとらし過ぎる)はーい」
最速で鍵を開ける。
「速っ?!円城くん、田代さんよりうまいんじゃない?」
「(ヤバっ)いやーたまたまですよ。簡易的な鍵ですし…。えっと本だけかな?これ瀬古さん持って下さい」
「ほい」
「んーー、奥は何もなさそうですね」
「なんだお宝はー?」
「無いですね」
瀬古は渡された本を確認していた。
「なんだよ今日全然ないじゃん」
「そうか?わりと食器はいいのあったぞ」
「!!桃ちゃん!ほんと?!」
パラパラと適当に捲ってゴミ袋に入れた………ゴミ袋にいれた?!
「…本、真琴くんにあげなくていいんですか?」
「いや、ただのメモみたいな日記だったよ?桃方さん2往復しなきゃだし、早く行きましょう」
「おう」
2人を見送ると、日記を拾い上げる川崎。
「パラ読みだったら気づかんかぁ」
「ですかね。あっ、これ」
ゴミ袋には小さな鍵が1つ。
◇
2週間後
「最後に拭き上げたらいい?」
「うん。あと花の水も変えようか」
「じゃぁ綺麗なのに変えてくるね」
今日は去年亡くなった母のお墓参り。血のつながってない真琴を1番可愛がってくれた母。とてもいいおばあちゃんだった。
「ミカン美味しかったってよ母さん」
お線香と共に1枚のメモを燃やした。
返却されなかった本に挟まれていたそのメモには『ミカン美味しかったありがとう』とそれだけ書かれていた。
父親が亡くなった当時はもっと俺にはないのかと日記を読み返したが、真琴のことばかり。2人は自分の情けない愛を補完してくれていたみたいだなと思った。
「もうお線香つけちゃったの?」
「あっ」




