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CLEAN  作者: 東 守


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掃除①


_『掃除に料理、毎日大変ですよね〜毎日お疲れ様です。たまの自分へのご褒美にCLEANはいかがでしょうか?もちろん大切な人へのプレゼントにも!愛犬の散歩や、お子さんの習い事などの送迎も承っております!

あなたの大切な時間のために「CLEAN」

病院や企業の方は「CLEAN BUSINESS」をよろしく!』




「これ、うちの新しいCM?ウッチー出てなかった?」

 急な来客対応で、ノビノビのカップラーメンを電子レンジで温め直す川崎。

「ですね。後ろ姿ですけど田中さんも出てますよ」

 そんな可哀相な川崎にお茶を入れる円城。

「マジ?!大丈夫かよ」

「さぁー、まぁ内田君と田中さんは指名率ナンバー1・2ですし、認知度的にもう手遅れでは?」

「勝さんもこの間情報番組出てたもんな…手遅れか。上はマジのリスク知らずってことね。もう受け入れる」

「ここの社員になっちゃった時点で、人生終わってますからね」



 3月、高校を卒業して大学進学のため上京してきた山緑俊。

 大学近くのアパート争奪戦に負け、家賃は安いが通学時間が少しかかる上に交通費がかさむアパートに契約しようか家族会議の末、1人の救世主が現れた。

「叔父さんが海外出張で部屋が空くから代わりに住むか?って、どうする?」

 大学から徒歩5分のマンションで、家賃と光熱費で月5万でいいとのこと。叔父は独身なので、つまり…俺の城!となり即興即決。こんな破格な好条件はない。出張は3年程で、年に何回か帰っては来るらしいが、叔父の寝室とは別に空いてる部屋が2つもあり、基本は1つを自由に使っていいそうだ。リビングと水回りは最低限綺麗に使うことを条件に契約成立。晴れて夢の一人暮らし、夢の大学生活がおくれるわけだ。


 今日は引っ越しの日、とは言え服以外はマンションに揃ってるので、スーツケース1つで引っ越し完了。スーツケースのコロコロに導かれるようにルンルンの足取りでマンションに向かう。

(ここかな?着いたら連絡してって言ってたっけ)

 4階建ての低層マンション。エントランスの自動ドアをくぐると…

(…えっ!いや、えっ?!ホテル?間違えた?)

 外観からは想像出来ないモダンで繊麗されたエントランスにはコーヒーのいい香りが漂っていた。

(あっ、受付の人いるじゃん。やっぱホテルなんだ。早く出よ)

 スーツケースで旅行客に見えなくはないが、数日前まで高校生のガキが来ていいとこではないのは分かる。場違い過ぎるので早々に退散しようと行きしより重く感じるスーツケースをコロコロすると

「俊!来てたのか!連絡来てたっけ?」

 スマホを確認する叔父が現れた。

「…いま来たとこ。久しぶり」

「久しぶり!大きくなったな!」

 いつもの大声がエントランスに響き渡る。

「ここって俺が住むマンションなの?」

「ん?そうだけど?」

「ホテルかと思った」

「ダハハハ!!あっちじゃそうそう見んよな!」

 叔父の場違いな笑い声に少し恥ずかしくなるころ、

「山緑さん、何かいいことでもあったの?」

 コーヒー片手に新聞を読む紳士が叔父に尋ねた。

「朝からすいません。今日から甥っ子がここに住むことになりまして」

「おや、新人さん?よろしくね」

「あっはい、よろしくお願いします。ご迷惑かけないようにしますので」

「叔父さんよりしっかりしてる」

「自慢の甥っ子です!」

 叔父に皮肉は伝わらない。幸せ者だ。


「じゃっ、手続き済まそっか」

「手続き?」

「セキュリティが厳重だから指紋とか取らないと入れないんだ」

「えっ」

 驚く俺を置いて、受付に向う叔父。追いかけるようにコロコロしようとすると

「山緑様の甥っ子さんでよろしいでしょうか?」

 スーツのよく似合う長身の男に声をかけられた。

「えっと、」

「失礼いたしました。私ここのコンシェルジュの髙木と申します」

「あっ、すいません。山緑俊です。よろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いいたします。早速ではございますが当マンションをご利用するにあったって、指紋とお顔、網膜、声帯認証をスキャンしますのでこちらの部屋に来ていただけますか?お荷物はお預かりいたします」

「えっ、はい…叔父さん行ってくるね!」

 少し不安になり、叔父に一声かけておいた。

「おう!」

 大丈夫そうだ。


「では、手はこちらにかざして頂き、こちらのマイクに向かってこちらの文章を読み上げて下さい。」

「はい…おはよう、こんにちは、ありがとう____________すみませんでした 」

 簡単な挨拶文などを1分くらい読み上げた。

「はい、ありがとうございます。以上になります」

「あの顔と網膜は?」

「もうあちらのカメラで撮影済みです」

(!いつのまに…)

「ではお部屋にご案内させていただきます」

「あの、叔父は?」

「先にお部屋に戻られました」

「そうですか」

 もとのエントランスに戻ると、受付で鍵をもらった。

「こちらが山緑様のデータが登録されキーになります。ラウンジとエレベーター、お部屋は生体認証とこちらのキーがないと開かないのでお気をつけください」

「はい」

「では実際に使ってみましょうか」

 ラウンジを通りエレベーターに案内された。エレベーターは各部屋ごとについており、お隣さんがない作りになっているようだ。

「手をこちらにかざして下さい」

ピッ

 専用エレベーターが開き、扉横の液晶パネルに3階と表示された。

「基本はお住まいの階にしかご案内出来ないことになっております。違うお部屋の方との交友は1階にカフェとラウンジ、トレーニング施設があり、皆さんはそこでお話されてることが多いです」

「あの、階段は?」

「はい、ございます。こちらも各階に手をかざして頂く形になります。停電などに備えて非常用蓄電があり、それでも使用不可の場合は臨機応変に解除しますのでご安心下さい」

「そうですか」

 3階に着き、エレベーターを降りると思い出す。

「あっ!荷物!」

「先程お運びさせていただいたので大丈夫ですよ」

(流石だ…)

「、ありがとうございます」

「では山緑様のお部屋はこちらですね、304号室になります」

 部屋の前にも手をかざすシステムが使われていた。

ピッ

「では簡単なご案内ではありましたが、お付き合いありがとうございました。何かご不明な点など、お困りごとなどありましたらコンシェルジュにお申し付け下さい」

「いえ、こちらこそご丁寧にありがとうございました」

「ではこちらで失礼させていただきます」

コンシェルジュは階段を使って去っていった。

(シュッとしてるなぁ。)

ピピッ、ピピッ

「えっ!」

「_おい!早く入りなさい。長時間ドアが開けっ放しだと、またあのコンシェルジュさんが来ちゃうぞ」

「えっそうなの?!お邪魔します!!」

 慌てて中に入りドアを閉めた。

「いや、どんなセキュリティよっ!怖いわっ!」

「だははっ!だよなっ!まぁすぐ慣れるさ」

 こんなに豪快に笑う叔父がまさかこんな豪華なマンションに住んでるなんて。

「荷物はお前の部屋に運んでもらったよ」

「ごめん、ありがとう。何か拭くものある?コロコロ拭かなきゃ」

「コンシェルジュさんが拭いてくれたよ」

「そっか(…流石だ)」

「まぁ少し休憩しよ。コーヒーか紅茶しかないけど、ジュースとか飲みたいなら下のカフェに注文するけど」

「紅茶で大丈夫。ホテルみたいにルームサービスでもあんの?」

「いやUber。コンシェルジュさんが持ってきてくれる」

「他の店から頼んだ場合も?」

「そっ。宅配物も受付で受けとってもらって、各部屋の宅配ボックスに入れといてくれる」

「便利ー」

「お前は使わんかも知れんけど、クリーニングとか代行手配もしてくれるから、困ったら何でも頼ったらいいよ」

「へー、ってか部屋広っっ!!」

扉を開けるとモデルルームのようなモダンなリビングが広がっていた。

「ははっ!リビングだけだよ。まぁ物も少ないし広く見えるんじゃない?」

「ってかオシャレー。叔父さんセンス良かったんだ」

「おい!まぁ前の住人の方のをそのまま使わせてもらってるだけなんだけどな」

「なんだ。家具付物件ってやつ?」

「いや、仕事先の人に引っ越すから買わないかって言われてな。相場の8割くらいの値段だったから買っちゃった」

「買っちゃったって、それでも凄い値段てしょうに」

「家賃と月々のローンを比較したらそんなに変わらんかったしいいかなって。それに今の方が評価価格上がってるし、最悪金に困ったら売ればいいから、まぁ未来への投資よ」

 以外とちゃんとした大人だった。ってか外資の証券マンとして結構凄い営業成績だったが故に今回アメリカ本社に3年行くんだもんな。こんな叔父だが、マジのキャリア組だ。

「まだ2年しか住んでないんだから、綺麗に使ってくれよ~」

 そう言って叔父はこの一週間後アメリカに旅立った。


 4月下旬、ゴールデンウイークの予定も立たないまま山緑俊は絶望していた。

 小学生の時から高校生までサッカーを割と本気でやっていたせいか、大学のサッカーサークルのノリにあまり馴染めず入会は断念。入学式後のオリエンテーションなる親睦会はバイトの面接が重なっていたために参加せず、翌日の授業からはもう既にグループがほとんどできており、初手で友達作りに失敗していた。人生で始めて昼ぼっちを経験してからは割と一人でも平気だなと感じていたが、連絡先は違う学部のバイト先が一緒の先輩だけしか交換していないありさま。バイト先の定食屋では「初めての連休なんだからフルで入らなくていいよ、学生らしいことも大事にね」と先輩と半々で休みをとることになり、割とゴールデンウイークは暇になってしまった。

 4月最後の登校日の学食では皆連休の予定を話題に楽しそうに過ごしており、

(いいな~俺もBBQ行きて~)

聞き身を立てては項垂れていた。

 実家に帰る手を使おうとしたが、母さんは婆ちゃんと旅行とのこと。

(いいな〜俺も温泉入ってゴロゴロしたい)

 思い抱いていた大学生活とはこんなものだったか?と悲しくなってきたので、連休はゲーム三昧できるように、スーパーによって好きなものを好きなだけ買ってヤケ食いしようと心に決めた。


 マンションに帰り、冷食をチンしていると

_ピンポーン

とインターフォンのチャイムがなった。この部屋に越してきて初めてのことだったので少し驚く。液晶には作業員らしき男性が2名写っていた。

「(何の業者だ?)_はーい」

「CLEANの川崎と申します。山緑様より清掃依頼を受け参りました。俊様で間違いないでしょうか?」

「えっ、はい。清掃?叔父が頼んだでしょうか?」

「はい。俊様の暮らしぶりが気になるようでして、心配で依頼されたご様子でした」

(っ、叔父さん!あなただけは僕を見放さなかった!)

「そうなんですね、どうぞー」

 初めて開閉ボタンを押した。

(あっ、コンシェルジュさんに言っとかないと通してもらえないのかな?)

 心配する暇もなくカメラから2人の姿が消えており、慌てて連絡した。

「今CLEANの方が来てると思うんですけど」

「はい、先程エレベーターに乗られました」

「えっと、キーが必要なんじゃ」

「CLEANさんはうちと契約している業者さんなので、専用のキーをお持ちなんです。山緑様が開閉ボタンを押すとCLEANさんはエントランスでキーをかざします。すると一時的に山緑様の階まで行けるキーに変更されるんです。こちらの説明不足でお手間を取らせて申し訳ございません」

「いえ、なるほどそう言う事なんですね」

_ピンポーン

「ご到着のようですね」 

「あっ、すいません。ありがとうございました」

「いえ、また何かありましたらお申し付け下さい」


「_すいませんお待たせしました」

「いえ、改めて本日担当する川崎と申します。こちらは」

「円城と申します。本日はよろしくお願いします」

「よろしくお願いします。あっスリッパ出しますね」

「いえ、こちらに用意してますので。お気遣いありがとうございます」

 慣れない来客対応にあたふたする。

「本日は水回りとリビングに山緑様の寝室、と俊様の部屋は本人確認をとって臨機応変にとのことなんですがいかがされますか?」

「じゃーお願いします」

「畏まりました。では清掃前と後で写真での報告がありますので、先に撮影させていただきますね」

「_____はッッ?!!待って下さい、」

 リビングのドアを開けると、ゴミや洗濯済みか否か分からない服で溢れかえっており、先月のモデルルームが嘘のような光景が広がっていた。 


「_えっと、どうしましょう…撮影しても?」

「絶対にダメです!!」



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