3話 女性差別
今日は、女子大を卒業して、期待のIT会社での入社式。
会社に馴染めるか不安はあったけど、ITの知識は誰にも負けないという自負はある。
私は、この会社で誰もが憧れる女性SEとなることを夢見て、期待に溢れていた。
でも、それから半年が経ち、こんな会社だとは思わなかったと落胆している。
この会社は、女性というだけで人間には扱われない。
どんなに優秀でも、女性は男性を下からサポートするだけの存在だと見られている。
私の横で、先輩の女性が、10歳も下の男性の後ろから話しかけている。
おどおどした態度で頭を下げ、男性社員にすがるような目線を送る。
その女性は、給料が少なく、安そうな白のブラウスと紺のパンツ姿だけど、清潔感はある。
「この提案書、見ていただけないでしょうか。」
男性社員は、座ったまま足を組み、立った女性社員をバカにするように見上げる。
「また、くだらない提案書か。まあ、部下の教育も俺の仕事だし、優しい俺は、読んでおくよ。」
「ありがとうございます。」
女性は笑顔で男性社員の元から去る。
でも、男性社員に背を向けると顔から笑顔は消えた。
手が震えていて、ボールペンを折ってしまいそうなくらい力が入る。
この男性社員は、いつも、その女性の提案書を自分のものとして上司に提出している。
それで同期で一番の出世をし、こんなに性格が悪いのに、将来の幹部候補と言われている。
私は、その女性の先輩に声をかけた。
「先輩、この前も、彼に提案を盗まれたでしょう。なんで文句言わないんですか。提案書を見ましたけど、発想が素晴らしかったです。しかも、彼は何も付け加えていないんでしょう。おかしいじゃないですか。」
「伊東さんはまだ若いから分からないかもしれないけど、この会社で、女性が自己主張すれば、うるさい女性だと言われ、クビになるか、地下のかび臭い資料室とかに飛ばされるのよ。でも、私が提案書を出して、彼が評価されれば、彼にとって私は有益な存在になれる。そうすれば、給料が低くても、この快適なオフィスにいられるの。そっちの方がいいから、文句は言わない。」
最近、周りを見ていると、優秀な女性はたくさんいる。
しかも、この会社では女性が円滑油として重要な役割も果たしている。
男性達が問題を起こすと、その後始末を女性がしているのをよく見かける。
男性達は、そんな貢献には目を向けず、常に自分の成果だと自慢する。
この会社では、女性ということだけで昇格も昇給もできない。
給料も、10年も働いている優秀な女性でも、新入社員の男性とあまり変わらない。
こんなに女性を差別する会社だとは思わなかった。
お昼になり、横に座っている同僚の女性をランチに誘った。
「美羽がさぁ、社内恋愛しているって知ってた?」
「そうなんだ。知らなかった。どんな人と付き合っているの?」
「同期の営業にいる坂本くんだって。優秀だと聞いているし、美羽もやり手よね。」
「そうね。私達もがんばんないと。」
ランチの時間、同僚の女性からは、ずっと、恋バナの話しが続く。
この会社で、真剣に仕事をするなんてバカなことと考えているに違いない。
男性から嫌われることはせずに、自分を好きになってくれる男性を探している方がいい。
そんな気持ちは分からないではない。しかも、この会社だと、そんな選択肢しかない。
私は、もっと真剣に仕事に取り組みたいけど、この女性の生き方はごく自然だとも思う。
私だって彼が欲しいし、彼の一番になって愛されるのなら、どれだけ楽しいことか。
だけど、少なくとも、女性をバカにするこの会社の男性を生涯の伴侶にはしたくない。
今は、女性と笑いながら、こんなくだらない話をしている方が楽しい。
この前、同僚の男性から、私の話しにはオチがないとか、つまらないとか言われた。
話しオチなんてなくてもいいじゃない。
最近、この会社の男性と話すと、楽しめない自分がいた。
女性って、内容というよりは、一緒に話してるという時間を楽しんでいるのに。
相手の笑顔を見てるだけで落ち着くし、こちらも自然に笑顔になる。
男性とは価値基準が異なるだけ。
午後の仕事が始まり、上司に、仕事の進め方を効率的に進めるための方策を提案する。
この提案書を作るために、会社から帰って、毎晩3時まで寝ずに努力した。
でも、上司は、提案書という文字を見た途端、顔は険しくなる。
表紙だけをみて、ページをめくらずに、いきなり怒鳴りつけられた。
「うるさい女だな。女は、黙って、言われたとおり仕事していればいいんだよ。大体、お前は、いつも、仕事が遅いじゃないか。まず、自分のことをしっかりしてくれよ。」
その後、ふてくされてデスクに戻り、仕事を続けていたら、横の同僚が話しかけてきた。
「紗奈、いつも言っているけど、この会社、女性が何を言っても聞いてくれないんだから、そろそろ学びなよ。それよりも、いい結婚相手見つけて、寿退社をすればいいんだって。」
「男性も女性も関係なく、会社をよくする方向を一緒に考えるべきなのに。」
「そんなこと言っているから、上司から嫌われるのよ。そろそろ大人になって、笑顔でハイハイって言っていればいいの。それが無理なら、意見が違っても、その場では、笑顔で分かりましたって言うの。それだけで、男性は自尊心が満足するのだから。そのうえで、別の日に、言われたとおりやってたら、こんな方法もあるかななんて思ったんですけど、やっぱり、言われたとおりにしていた方がいいですかねとか、笑顔で聞けばいい。男性って、面倒な生き物なんだから、少しは慣れないと。」
私にはそんな回りくどいことはできない。
そもそも、男性が女性をバカにしているのが気に食わない。
「私には、そんな器用なことなんてできないわ。私の言ってること間違ってると思わないし、そんな下手に出るなんておかしいもの。」
「本当に紗奈は不器用なんだから。苦労するよ。理屈じゃなくてさ、男性って、女性の上に立たないとプライドが許さない動物なんだから、適当によいしょしておけばいいの。そしたら、かわいいやつだと勝手に思って、こちらのお願いも聞いてくれるから。今のままだと、地下の資料室行きになるよ。一応、アドバイスしたからね。」
そんなの間違っている。そんなことを言ってるから、日本は変われない。
1人当たりのGDPは、日本はシンガポールよりも低いって知ってる?
アメリカの一風堂のラーメンは1杯2,500円もする。
日本人は、そんな高いラーメンは食べられない。
気づかないうちに、日本は貧しい国になってるんだから、変わらなくちゃいけない。
変わるには、目の前のことから一歩一歩変える必要があるのに。
そこに男性とか女性とか関係ない。いえ、人口の半分は女性なんだから女性の目線は必要。
だから提案しているのに、なんで、分からないのかしら。
人事部に行って、上司が提案を聞いてくれないと相談してみた。
それがすぐに上司に伝わり、個室に呼び出される。
部屋に入った途端、それから1時間以上、大声で叱られてしまう。
「何か、俺がお前にしたのか。お前のせいで、人事部から嫌味を言われたじゃないか。お前は本当に疫病神だ。会社やめてくれないか。顔だけ良くて、仕事の邪魔をする女は嫌いなんだよ。そもそも、女っていうのは、男のサポートをするためだけに生まれた生き物なんだから、まず、その辺から学んで出直してこい。」
この会社では、女性は、長時間労働で女性と知り合えない男性のための福利厚生。
男性は女性に尽くすべきとまでは言わないけど、女性だって1人の人間。
たまたま女性とか男性に生まれてきてしまっただけ。
女性というだけで見下されるのには憤る。
怒りが抑えられない。
私は机に提案資料を叩きつけ、周りは大きな音に静まり返る。
夕方になり、職場の懇親会が始まった。
私たち女性は、上司だけじゃなく後輩社員にもビールを注いで回るよう強要される。
男性は新入社員でも、ただ座って笑って、私達にビールを追加するように指示をする。
トイレで、ランチを一緒に食べた同僚に愚痴った。
「この会社、女性に対する対応、酷くない。私たち、ホステスじゃないし。」
「また、そんなこと言っている。本当にクビになっちゃうよ。別に、触られることはないし、愛想よく笑っていれば、楽に過ごせるんだから。紗奈は可愛いんだから、上手くやれるのに。不器用なんだよね。あ、上司が呼んでるよ。早く行って、お料理を取り分けてあげなさいよ。」
不満いっぱいの飲み会で、怒りが顔に出てたと思う。
上司は、私は、顔はいいけど、心は醜いと言い放ち、出ていけと叫ぶ。
代金は割り勘なのに、どうしてそこまで言われなければいけないの。
もう少しで、ビールを上司の頭からかけようと思い、ビール瓶を手に握っていた。
上司が、私の腕を掴むから、周りの部下たちが、まあまあと抑える。
結局、大ごとになることはなかった。
どうして、女性というだけで、こんな扱いを受けるんだろう。
この上司、いやこの会社は、本当に間違ってる。
女性は男性のためにいるんじゃない。
心が疲れ果て、都内では広めの公園のベンチで一休みすることにした。
中央にある池の横のベンチで、空を見上げると、東京でも星が輝いている。
月はなく真っ暗だったので、星がとても綺麗に見えた。
都内でも、こんなに星が綺麗なんだって改めて思い、心を静めていた。
その時、誰もいないと思っていた公園で、後ろから2人の男性が私の体を押さえる。
そして、ベンチに座ったまま足を上げられてしまった。
ナイフでパンツ、ブラウス、ブラは切り裂かれる。
そして、いきなり下半身に自分の固いものを入れてきた。
ナイフで脅され、あまりの強い力で押さえつけられて怖くなって、悲鳴をあげられない。
「痛い。やめて。」
「こいつ、処女じゃねぇ。燃えるな。」
「痛い。」
屈辱的な状況なのに、入るたびに声が出てしまい、自分が汚い存在だと感じていた。
恐怖と、痛さで涙が流れていたけど、1人が終わると、次の男性がまた入れてくる。
ブラもパンツも引き裂かれ、下半身からは、いきなりだったので血が滲む。
私の体は、あなたたち男性の欲望を満たすためにあるんじゃない。
ずっと、そんなこと考えていたけど、抵抗することはできなかった。
おしりをベンチに落とすと、ベンチが白い液体で汚れる。
割れ目から流れ出た感触が残る。
「今日のことは黙っておけ。喋ったら、殺すからな。」
そう言い放って2人は去っていく。
こんな誰もいない、真っ暗な公園に1人でいるのは不用心だった。
しかも、男性から中出しをされて、子供とかできるかもしれない。本当に失敗だった。
涙が止まらず、ボロボロの格好で、誰かに見られないように走って家に戻る。
走ってる時にも、下半身はひりひりする。でも、こんな姿、他の人に見せたくない。
足のかかとが痛くなり、パンプスを手に持ち、走る。
部屋に戻った私は、汚れてしまった体をシャワーで流す。
でも、いくら流しても、自分の体が汚れてしまったという気持ちを流すことはできない。
ただ性欲のはけ口とされてしまったことへの悔しさに、その晩は一睡もできなかった。
数ヶ月後、妊娠していることが判明する。
強姦されたと病院に伝えることで私だけでの手続きで中絶手術を受けた。
自分の体の一部が失われたことに自分を責めてしまい、会社には今日も休みを申請する。
もう、女性でいるのもやめて男性になりたい。




