1話 僕の性
「できなくてごめん。」
道玄坂にあるラブホの一室。
清潔に清掃されているはずの真っ白な壁は、ねっとりと緑色に薄汚れているように見える。
窓はなく、ベットの横にはガラス張りのシャワールームが光を浴び、煌々と光っている。
目の前には、つぶらな目から田舎さが滲み出る女性がベッドに横たわっていた。
道を歩いていれば、どこにでもいそうな女性が、体には何も纏わず、笑顔を僕に向ける。
お金で呼んだのは僕なのに、ベッドで彼女と肌を重ねている自分に嫌悪感を感じている。
「そんな日もあるよ。男性の大事な所ってナイーブなんでしょう。私はお金だけもらえれば、しない方が楽だし。せっかくだから、口でやってあげようか?」
「今日は、いいや。ありがとう。」
「おにいさんみたいに、かっこいい人なら大歓迎。脂ぎった、いやらしいおじさんとか多いんだから。」
3万円を渡すと、彼女は頭を下げ、嬉しそうに顔から笑みがこぼれる。
何も身に纏わず、はち切れそうなバストを丸出しにしたまま、お金をバックにしまう。
生まれたままの姿を男性に見せることに恥じらいがなくなるほど男性と寝ているのだろう。
「おにいさん、シャワー浴びてきなよ。」
「ああ。」
僕には、親にも、友達にも、誰にも言えないことがある。
僕は男性なのに、自分の体に違和感があり、好きと思うのは男性だけ。
1人暮らしをしている部屋のクローゼットにはレディースの服が並ぶ。
部屋に帰ると、毎晩、ブラをつけ、シリコンのパットを入れる。
学生の頃から、バストがないこと、下半身に余計なものがあることに違和感を感じていた。
しかも、夢の中では、男性に抱かれ、声を出している自分が毎晩いる。
でも、そのことは誰にも言えない。
「終わったよ。君も入れば。」
「じゃあ、入るね。」
彼女は、ベッドから飛び跳ねるようにガラス張りのシャワールームに向かう。
おそらく、早く切り上げないと時間延長になって僕に迷惑がかかると思っているのだろう。
性格はとても良いのだと思う。
シャワーヘッドから流れる水が、豊かなバストにあたり、曲線を描いて流れ落ちる。
くびれたウェストから膨らむヒップも女性らしさをかもしだす。
きめ細やかな肌が光って美しい。
僕に、どうして、あんなふくよかなバストやヒップがないのだろうか。
ゴツゴツし、ガサついた肌に目が向く。
ただ女性に生まれただけで、彼女は、僕が欲しいものを手にしている。
逆に、どうして、こんなものが下半身についているのだろうか。
こんな不要なものは切り落としてしまいたい。
ただ、痛さに耐えられないと思うから、切らないだけ。
バストを大きくしたいのなら整形するという方法はある。
手術で下半身の物も切り落とすこともできる。
でも、そうなれば、もう普通には生きていけない。
女性として暮らし始めれば、周りは、気持ち悪いやつだと僕に指を指すに違いない。
しかも、この声を女性のものにできるわけではない。
結局、バケモノになるだけ。
補正下着でバストをつぶしてごまかし、男性として暮らすことも考えた。
でも、トイレでいつも個室に入るのは不自然。
温泉や海にはいけないし、行動範囲は極端に狭まる。
今の職場で働き続けるのは、諦めるしかない。
ただ、それでも、自分の体に対する違和感は拭えない。
だから、せめて家に帰るとレディースの服、アンダーウェア、ウィッグを身に纏う。
部屋に鏡を置かなければ、自分の醜い姿を見なくて済む。
その格好で、朝を迎えることで心の平穏をなんとか保って過ごしてきた。
一方、彼女は、こんなことしているけど、普通に恋をし、彼もいるのだろう。
ただ女性だということだけで、彼から抱きしめられ、愛されているに違いない。
男性に生まれてしまった僕は、そんな幸せを願っても掴み取ることはできないのに。
異常者として指を刺されるのは怖い。
朝起きると、スーツを着て男性の姿で会社に向かう。
周りの人は、僕の性癖には誰も気づいていない。
会社からの帰り道では、暖かくなるなか、多くの生命が溢れだしている。
道沿いに植えられた木々は新緑で賑わい、街灯に照らされて楽しそう。
それなのに、僕の心に手を差し伸べてくれる人は誰もいない。
こんな楽しそうな情景だからこそ、僕は孤独を深める。
誰にも言えない僕は、いつも一人だった。
どうして普通になれないんだろう。
周りの男性は、あの女性は可愛いとか楽しそうに話している。
でも、女性が僕の心をときめかせることはない。
なんとなくぴーんとくる女性がいないってごまかしている。
中学1年の時、初めて僕の好きを知った。
テニス部の部室から出てきた男性先輩の顔を見れずに下を向いてしまった。
でも、こんな体の僕じゃ恋愛の対象には見てくれるはずがない。
言い出せなくて本当に苦しかった。
女性とも付き合ってみようと思ったこともある。
僕は自分で言うのもなんだけどイケメンだから、喜んで付き合ってくれる女性はいた。
でも、別に女性に惹かれる気持ちは起こらず、話しは弾まなかった。
そんな中で、自分のことに関心がないと思って、女性達は僕から去っていく。
僕も、なんかその気になれなくて、追いかけることもなく自然に関係は終わっていった。
男性の友達はいた。
でも、友達はいつのまにか女性との関係を深めていき、僕との関係は薄れていく。
僕と話している時でも、女性から電話があれば、ごめんと去っていく。
結局、男性にとって女性が一番なんだと思う。
愛情という空間の中では、隅でさえも、僕なんか存在することは許されていない。
1回だけ、告白したことがあった。
彼とはなんでも話し合えて、僕のことを好きだと感じていたから。
でも、告白した途端、気持ち悪いって去っていった。
勇気を持って告白したんだ。
気持ち悪いと言われ、本当に死のうかと思った。
目の前の女性は人生を楽しんでいるのに、不公平だ。
性転換が多いタイの人では、4人に1人は自分の性に違和感を感じてるらしい。
これって世界共通で、違う国があれば、言い出せてないだけと言っていた。
それって違うと思う。僕の友達は、みんな女性と楽しそうに過ごしている。
僕だけが異常なんだ。
人としてクズ。そして、ずるいことに、そのことに気づかれたくない。
どこか、自分の気持ちに正直に暮らせる所がないだろうか。
その女性はシャワールームから出て、パンツをはく。
そこには、羨ましい豊満な女性の姿があった。
かがみ込んでブラをつけながら、僕に話しかける。
「やっぱり、私の体に興味があるんじゃない。さっきから、ずっと見ているし。私のバストって、大きいでしょう。」
「そうだね。魅力的だ。」
「そうそう、もっと褒めて。中学校の頃は、お牛さんとかバカにされたけど、今では私の自慢。見て見て。どう、興奮してこない。おにいさん、まだ裸のままだし、延長してやろうか。私はいいわよ。」
「いや、今日はやめておく。」
「じゃあ、私の携帯番号教えておくから、また呼んでよ。」
「分かった。」
彼女は、ベッドに座る僕の横に来て、肩に頭を載せた。
僕の下半身に手を置き、さすって大きくしようとしている。
最後のサービスということなのだろう。
笑顔に溢れた彼女は、僕の気持ちには何も気づいていないのだと思う。
僕が、自分を隠すことに慣れきっているから。
「アワワ・・・」
彼女は、鈍い音をたてて床に倒れた。
僕が、警戒心を持たない彼女にスタンガンを当てたから。
気を失っている。
カバンからハンマーを取り出し、彼女の頭に打ち付ける。
割れた頭蓋骨からは脳みそがはみ出し、血が壁や天井に飛び散る。
もう生きているはずはない。
目は白目になり、口からは泡が吹き出している。
右目からは、ハンマーのあまりの衝撃に、目玉が転げ落ちていた。
顔はあまり汚すつもりはなかったのに、失敗したかもしれない。
それにしても、脳みそを見ると、いつも思う。
血に塗れた脳みそって、醤油をかけた白子のよう。
食べたら美味しいかもしれない。
そういえば、子羊の脳みそは立派なメニューだし。
でも、頭蓋骨の破片が入り込み、食べにくいと思う。
病院から盗み出したメスで彼女の豊満なバストとヒップの肉を切り取った。
このメスは、本当によく切れる。
豊満な体だから、少しぐらいしくじっても十分な肉を切り取れる。
最近は慣れたから、ビニールシートを敷かずに、そのまま切っている。
少しぐらいの時間なら、フローリングでも、下の階に血が漏れ出すことはない。
心臓にメスが触ってしまったのか、血飛沫が勢いよく僕の顔を直撃する。
床は一面、血の池になっていた。
体についた血は、後でシャワーを浴びればいい。
そのために、まだ裸でいたのだから。
洋服は、彼女がシャワーを浴びている時にカバンに入れ、ベッドの奥に退避させておいた。
血に塗れた彼女の体は床に放置し、切り取った肉をシャワールームで洗う。
「まだ血が出るな。もう少し洗わないと。」
血が残っていると、すぐに腐ってしまうから、入念に血抜きをする。
このホテルは延長しておいたから、まだ時間の余裕はある。落ち着いてやろう。
さっきまで笑っていた女性の体が、ただの肉片となり、寂しそうに床に転がる。
バストとヒップの肉をきりとったから、なにかスティックのような形に見える。
僕を見つめているようで罪悪感を感じたから、首も切り落とし、顔を壁に向ける。
首の骨が切りにくかったので、足で踏んづけて折った。
切り取った肉の血が出なくなると、切った面に、ラップを両面テープで貼り付ける。
そして、ブラ、ショーツ、ウィッグを身につける。
ブラには切り取ったバストの肉を、お尻にはヒップの肉を入れる。
そして、ラブホの部屋にある鏡に自分を映した。
「私って、綺麗になれたかしら?」




