表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暗闇の虚構  作者: 一宮 沙耶
第1章 犯罪カウンセリング

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/28

5話 回復

前回の面接から1ヶ月後、最後のカウンセリングがあると聞いて、面会室に来ている。

この先生と会ってから、どのぐらいの時間が経ったのかしら。

私も、今は紗奈の顔で心穏やかに過ごしている。


一緒に暮していた親子の殺害への復讐に心を病んだ時もあったけど、今では遠い過去のことのよう。

最近は、何が本当のことなのか、よく分からない。

全て、夢で私の妄想なのかもしれない。


ただ、隆ーの記憶は確かなことだと思っている。

いずれの記憶も鮮明だから。


この前は、紗奈のお父様が面会に来た。

この顔を見て、生きていて本当に良かったと言ってくれた。

たとえ殺人者だとしても、ずっと、お前の父親だとも言ってくれた。


少し、痴呆症が発症しているように見受けられる。

歩くのも精一杯という感じで、体もだいぶ衰えている。

一緒に暮らしていた頃からは想像もつかないぐらいやつれた姿だった。


お父様は、脳移植で実の子は男性として生きていることは知らないみたい。

もう老い先短い老人に、今更、そんなことを言っても仕方がない。

正直に話しても、痴呆症で、明日には忘れてしまうと思う。


大分から、男性だった頃の両親もやってきた。

その2人はとても健在で、変わり果てた私の姿を見て、言葉を失う。

信じられない様子だったけど、最後にはまた会おうと言ってくれた。


その場では、元の私の体に乗り移った女性がどう暮らしているのかまでは聞けなかった。

両親は何も言わなかったから、幸せに暮らしているのだと思う。

もう私のことは忘れて、その人と幸せに生きていって欲しい。


今日は、先生が、私と2人で話そうと言っていると聞いている。

廊下で、刑務官と先生が話しているのが聞こえた。


「先生、本当にいいですか?」

「最近は、だいぶ落ち着いてきたし、監視がない方が自然に話せるから、私と2人だけで大丈夫。お外しください。」

「わかりました。では、外でお待ちしています。何かあったら、すぐに呼んでください。」


先生は、廊下から1人で面会室に入り、私の前で笑顔で話し始めた。


「さて、今日がカウンセリングの最後になります。まずは、最近、思っていることをお話しください。」


私は、先生のカウンセリングを受けて、最近は、だいぶ落ち着いてきた。

隆一には、もう愛情とかもないけど、一緒にいた頃はとても幸せだったと思い出した。

隆一は、私のことをとても大切にしてくれていた。


京都の北野天満宮の紅葉を見にいった時のことを思い出す。

夜のライトアップに照らされて、綺麗なオレンジ色の葉が一面に広がっていた。

そこには素敵で優しい隆一と、笑顔に溢れ隆一を見上げる私がいた。


少し歩くと、何かの企画なのか、道端に小さな舞台ができていて、舞妓さんが踊っている。

後で、知ったんだけど、隆一は、この情報を知って、私をここに連れてきてくれたみたい。

園内の入園料はもちろんかかるけど、舞妓さんの踊りを無料で見れるなんて素敵よね。


結構、人はいたけど、隆一が早めに並んで席を取ってくれていた。

2列目で、正面から踊りを見ることができた。

しかも、並んでる間に、明るいうちに紅葉の写真を撮っておいでって言ってくれる。

本当に私のために、何でもしてくれる、素敵な彼氏だったと記憶が蘇る。


舞妓さんの踊りを見てる時は寒さにこごえ、体が震える。

だから、隆一は、私の手を握って、自分のコートのポケットに入れてくれる。

そして、左手で私の背中から手を回し、私の体をぎゅっと自分に寄せてくれた。


そんな幸せの中、舞妓さんたちの踊りを隆一と一緒に見ていた。

ただ、なんか隆一のことばかり考えて、真剣には見れない自分もいた。

それでも、丁寧な手や足の動きはさすがで、やっぱり日本の文化はすごいなと感じる。


舞妓さんたちの踊りは終わり、周りも暗くなっていく。

紅葉がライトアップされたのは幻想的だった。

ただ、ほとんどの時間は、隆一の顔を見つめて、その遠くに紅葉が見えている。


そんな隆一と嵐山の温泉宿に戻り、浴衣を着て温泉に入り、その後、夕食を一緒にとった。

宿では、小鉢が6個ぐらいあって、そのうちから3個選ぶ。

でも、隆一と違うもの頼んでシェアすることで6種類のすべての味を楽しんだ。


隆一と一緒の時間を過ごすのは本当に楽しかった。

男性だった頃から隆一に憧れ、隆一から愛される夢ばかりを見ていた。

女性の体になったのも、隆一から愛されたかったからかもしれない。


でも、隆一からみると、ずっと一香と一緒にいたのだと思う。

よく考えてみると、一香は、私には邪魔だったけど、私に何かしたわけじゃなかった。

と言うより、私のことは知らなかった。


ごめんなさい。一香の幸せな時間を奪ってしまって。

一香も、隆一とこんな幸せな時間を、もっと過ごしたかったわよね。

私も、正面から隆一に接して、告白すれば、もしかしたら、選んでくれたかもしれない。


私は、自分を捨てて、一香の全てを奪い、誰なのか分からない人になってしまった。

隆一も、何もしていないのに刑務所で過ごさせてしまい、自殺にも追い込んでしまった。

ごめんなさい。あの世で、ゆっくりおやすみなさい。


今は、隆一のことは憧れていないけど、お礼とお詫びはしなければと思っている。

土の中にずっと閉じ込めてしまった一香にも謝らなければと思っている。


ただ、あの頃は、ただただ隆一が欲しかった。許して欲しい。

そして、隆一を手に入れた後は、怖かった。私が一香じゃないって隆一にバレるのが。

そして、あなたが好きだった一香を殺害したのが私だったって。本当にごめんなさい。


許してくれるとは思わないけど、私は、刑務所で償っていく。

私が言うのもなんだけど、隆一、あの世で幸せに生きてね。


そして、私の復讐は終わった。


ところで、この先生は、これまで私に本当に失礼なことをいっぱい話してきた。

こんな人、この世から消えればいい。

しかも、私が殺した人達のほんの一部しか突き止められなかった無能なコンサルタント。

まあ、私が優秀すぎるからなんだけど。


私は、気づくと、先生の首を絞めていた。苦しんでるけど、当然の報い。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ