表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暗闇の虚構  作者: 一宮 沙耶
第4章 テロリスト

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/28

3話 テロ

ここはどこかしら。明るい。

そういえば、昨晩、男性に蹴られ、気を失った。

そう、彼と娘さんは、その男性の指図で殺されたと聞いた。

いきなり、現実が目の前に迫ってくる。


気づくと、病室のベッドに寝かされていた。

眩しい窓が見え、朝になっていると気づく。


「大丈夫ですか? 旦那様がお亡くなり、あまりにショックだったんですね。倒れていたんですよ。」

「何を言っているのですか? 蹴られたんです。」

「あの病院の中でですか? あなたが倒れていたところは一般者は入れない所ですし、そんなことはあり得ません。」

「顔だって、傷だらけじゃないですか。気分が悪くなって倒れたというレベルじゃない。」

「それは勘違いです。まだ、混乱しているのですね。あなたは階段で倒れて、階段から何段も落ちたんです。その時に、ぶつけたんだと思います。旦那様とお子様がお亡くなりになって気が動転するのも分かりますが、しっかりしてください。頭を打っていたので、この病室に運びましたが、診察の結果、特に大きな問題もなさそうです。警察はお金を払えないので、ご自身で治療費を払って、お帰りください。」


私は、病院を出る。陽の光が私に差し込み、眩しい。

絶対に、あいつは許せない。せっかく、穏やかな生活を手に入れていたのに。

あいつは、政治家の裏で、日本を思うように操っている人なのだろう。


絶対に殺してやる。私の殺人魂に火が灯る。

最近は、心穏やかに過ごしていたけど、久しぶりに殺気が体に満ち溢れる。

もう、怒りで、昔の自分が抑えられない。


ただ、私には政治の世界で闘う力がない。どうしたらいいかしら。

そう、敵の敵は味方という言葉もある。

最近、ニュースによく出てくる政治家を攻撃しているテロリストに近づくのがいい。


私は、街中でいかにも暴力団と見える男性をホテルに誘い、体を差し出す。

その対価として、テロリストに繋いで欲しいとお願いする。

そんなんでいいのかと笑い、私をベッドに押し付け、自分のものを私に入れてきた。


こんなことで復讐ができるなら、簡単なこと。

私の体の上で上下運動する男性は目に入らず、ただ、彼と娘さんの映像が浮かんでいた。

特に、優しく私を包み込んでくれた彼の笑顔が。


私は、その後、数日は、彼と娘さんと一緒に過ごした家にいた。

でも、思い出が多すぎて、家を出ることにする。

そして、1人でアパートの部屋に閉じこもっていた。


彼は、どういうわけか遺言書を書いていて、私に投資で稼いだお金を全て贈与していた。

普通に暮らしている人が遺言書なんて書くはずがない。

あの男性は、私たちが夫婦ではないこと、だから私に相続されないことも知っていた。


私のお腹を蹴り上げた男性が、私を手なづけるために偽造したのかもしれない。

そんなお金なんていらないのに。彼と娘さんと一緒にいる方がずっといい。

私のせいで、あの2人は殺された。そんな奴と手を組むことなんて全体にない。


1人であの親子がいない寂しさに押しつぶされそう。

でも、最近は、なんとかベッドから起きれるようになった。

どんな悲しみも、時間が解決する。


夕日が部屋を真っ赤に照らすとき、スマホに連絡が入った。

探していたテロリストが見つかったとの暴力団組員からのメッセージがそこにはあった。

数日後、私は洗練されたオフィスビルの会議室にいる。


「あなたが、あの有名な宮崎 -香さんなのですか。裏の世界で争奪戦が起こっていると聞いて、私も、あなたみたいな方を味方につけたいと思っていた所でした。」


目の前の男性は、身なりは、35歳ぐらいの普通のサラリーマンという感じ。

ただ、目線は鋭い。爆破現場などの修羅場を潜り抜けてきた貫禄がある。

私を見て、偶然にも私の方から声をかけてきたと笑みがこぼれる。

まだ私が紗奈だということは気付いていない。それは好都合。


「私がー香。ところで、あなた達は、今の政治家を一掃しようとしていると聞いたけど、本当なの?」

「あなたも、今の政治に不満を持っているのですね。」

「政治そのものというより、その背後で政治家を操っているフィクサーが私に喧嘩を仕掛けてきたの。そいつを殺したいだけ。」

「それは、きっと坂本じゃないかと思います。こいつじゃないですか?」


目の前の男性は写真を私に差し出す。

100枚にも及ぶ写真の中から、彼を殺したやつの写真を指さす。


「こいつ。」

「じゃあ、手を組めますね。私達も、こいつを殺害しようと計画していたところなんです。」

「それは良かった。私一人の力では限界があるもの。」


同士になってくれさえすればいいという気持ちが滲み出ている。


「私は政治自体には興味はなくて、私の大切な人を殺したこいつを殺せればいい。それができるのであれば、あなたたちのテロ行為に協力してあげる。勝手に私の大切なものを奪っておいて、自分に従い、協力しろなんていう傲慢なやつは許せない。」

「そうなんですね。私たちとは思想は違うようですが、お互いの目的が合致したのであれば、良かったです。その後は、どうしたいとか考えはあるのですか?」


間違いなく組めるという自信が表情から漏れる。


「私は、あいつを殺せれば、あとは、どうでもいい。あなた達の好きにすればいいわ。」

「では、一緒にテロを仕掛けましょう。」

「どういう作戦なの?」


私にはテロの経験がない。

作戦はテロリストに任せるのがいい。

あとは、その実現の確からしさと、私が捕まるリスクを確認するだけ。


「サリンでターゲットを殺すという作戦です。サリンをあなたが殺そうとする人の家に私達がセットする。その対価として、あなたが、国会議事堂の議場でサリンをまくように仕掛けていただきます。」


サリンって、昔、宗教集団が使った初歩的な化学兵器。

でも、一定の知識があれば簡単に作れて、効果は絶大。

テロリストって、そういう着眼点なのね。


「サリンって懐かしい。でも、国会議事堂の議場でサリンを撒くなんて簡単にできないでしょう。警察の目が厳しそう。」

「ちょうど、この前、総理大臣が決まり、今週末に、就任演説を国会議事堂で行うことになっています。ここでは、与野党とも、ほとんどの議員が出席するはずです。そこで、その会場で、我々が用意したサリンを撒き、殺すという作戦を考えています。」


国会議事堂なんて、日本の中枢の政治家が集まるところなので警備が厳しいに違いない。

でも、これに協力すれば、あいつは、このテロリスト達が殺してくれる。

まずは、作戦の詳細を聞いてみよう。


「それが、いい方法を思いついたんです。あなたが、トイレ清掃員となって祝日に国会議事堂に入り込み、このカプセルをセットする。そして、就任演説している時に、リモコンで爆破すれば、サリンの液体が周辺に飛び散るという計画です。」

「トイレ清掃員か、誰かに会っても、誰の記憶にも残らない存在ね。しかも、私の顔は警察にわれているけど、マスクと帽子を被れば分からないし、トイレ清掃員なら不自然なこともない。」

「ええ、敵も、まさか、あなたがトイレ清掃員になって国会議事堂に潜り込むなんて想像もしていないはず。これは成功しますよ。」

「分かったわ。サリンのカプセルをセットする場所を教えて。」


目の前の男性は、国会議事堂内の図面を広げる。

構造とトイレがある所も確認して、動線もイメージできた。

お互いに合意し、私はオフィスビルを出る。


手元にはサリンの箱に入ったカプセルが50個、バッグに入っている。

カプセルは丈夫だから壊れることはないと言われたけど、これを落とせば大事件になる。

でも、そんなことを気にしていても仕方がない。平穏な心持ちでいるしかない。


見上げると、ビルの湾曲した美しい窓ガラスに陽の光が差し込み、眩しい。

あと少しで、日本は大混乱になることも知らずに、この街は平穏そのもの。

街では、お昼休みの時間だからか、スーツを着たビジネスマンが颯爽と歩く。


誰もが、明日も今日と変わらず続くと思っている。

私の平穏は一瞬にして崩れ去ったにもかかわらず。

今度は、この私の行為によって、この世の中はめちゃくちゃになってしまえばいい。


そして、あいつも息ができずに苦しみ死ぬ。

待っていなさい。私が、彼と娘さんの復讐を遂げてみせるから。


道を歩く私は、顔に憎しみが溢れていたに違いない。

横を通り過ぎるビジネスマンが、いずれも私を振り返って通り過ぎて行く。

私は、地下鉄に乗り、満員電車に紛れて帰宅の途についた。


後ろで尾行する男性がいることに気づかずに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ