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暗闇の虚構  作者: 一宮 沙耶
第3章 洗脳

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7話 支配

「佐々木さん、どういうことなんですか? 調べたら、今回出資した3つの会社はペーパーカンパニーで、活動実態は何もないという情報が入ってきました。そんなことないですよね。」

「それが、何が悪いのですか?」

「何が悪いって・・・。」


信じられないという気持ちと、騙されたという怒りが楠の顔に溢れる。

俺は、冷静にゆっくりと諭すように楠に話しかけた。


「何か誤解していませんか? 楠さんは、グループのトップとして、この椅子に座ってさえいればいいのです。経営は私がしますから。あなたは権威を手にし、私は利益を手にできる。Win Winじゃないですか。」

「何を言っているのか分からない。佐々木さんは、アドバイザーだと言っていたでしょう。」

「楠さんが、グループの資産を有効に使えるように見えないからですよ。私なら、何倍にも拡大できる。」

「もういい。信用できない人とは一緒に仕事はできない。あなたを解任する。」

「そんなこと言っていいんですか? 政治家への賄賂の証拠は私が持っているんですよ。しかも、莉音さんがドラッグ依存症って、週刊誌が喜んで飛びついてくるでしょうね。お父様には、彩葉さんも呆れてあなたを捨て、失踪したと伝えましょうか。」

「もしかして、彩葉の失踪も佐々木さんが仕組んだなんてことはないですよね。例えば、殺したとか。」

「どうでしょうね。私は知りませんが。」


俺は、笑顔で楠に目を向ける。分かっているでしょうとでも言うように。

どこまでも闇が広がる私の目を見つめ、楠は何も言えずに青ざめて立ちすくむ。

逆らえば、自分も、誰にも気づかれずに殺されると感じたのかもしれない。


「あなたは私の奴隷なのです。今頃、気づいたのですか? 黙って、私にお金を預けておけばいい。間違っても、お父様や、警察などに助けを求めないでくださいね。あなたも共犯ですし、賄賂なんてあなたが主犯なのですから。」


楠はうな垂れ、もう一言も話す力はなかった。全て俺の言いなりになる覚悟ができたよう。

しかも、今では、莉音はスキャンダルだけではなく、人質となっている。


でも、ある時、楠のお父様が、資金の怪しい流れに気づく。

お父様が、楠を問い詰め、しどろもどろの返事をしたらしい。

明日に再度来て、説明しろと言われたと俺に相談がくる。


「もう限界だ。父親が気づいた。もう、こんな不正は終わらせよう。不正は全て明らかにし、根を断つのがセオリーなんだろう。」

「何を今更言っているのですか。楠グループの権限はすべてあなたが掌握したのでしょう。そのセオリーは社会に対してであって、身内なら、楠さんが、お父様を押さえつけ、口止めをすればいいだけです。」

「私ではなく、佐々木さんが全て牛耳っているじゃないですか。ましてや、父親は未だに絶対権力をもって楠家を支配していて、父親の発言が楠家では絶対なんです。私なんて、いつ排除されてもおかしくない。父親は、楠グループの拡大に向けて冷酷に考え、不要な人は家族でも、容赦なく排除するのですから。」

「邪魔するお父様なんて、この世からいなくなればいいだけでしょう。そんなおいぼれから、そろそろ卒業してくださいよ。」

「どういう意味ですか?」


さすがに察したのか、楠の顔が青ざめる。


「きちんと説明すると言って、明日の午後に、お父様の所に行きなさい。そして、私が用意する和菓子を差し上げるのです。」

「和菓子? どういうことなんですか? そんなもので解決するはずないでしょう。」

「そんなことは考えなくていいのです。ただ、私の言うとおり動けばいいのです。」


まさかそんなことまではしないだろうと恐怖におののく表情で、楠はお父様の家に向かう。

そして、楠の前で、お父様は血を吐き倒れた。和菓子を食べた直後に。

この部屋には誰もいない。警察を呼ぶべきか楠は不安に駆られる。


俺は楠に指示をしている。どうすべきか分からなくなったら、その場に俺を呼ぶようにと。

俺が駆けつけると、楠が呆然と立ち尽くし、お父様の手を握って涙を流していた。


「私に、父親を殺させるなんて、お前はひどいやつだ。どうしてくれるんだ。」

「お父様を殺したんですか? 楠さんの方がひどい人じゃないです。」

「お前がしたんだろう。」

「まあまあ、そんなに動揺しないでください。これから、遺体の処理を私の部下にさせますから、犯罪の跡は何一つ残りませんよ。安心してください。でも、これで、また一つ、外に出せない楠さんの秘密が増えましたね。」


俺が呼んだスタッフは、お父様の口から出ていた血を拭き、タンカに載せる。

白衣を着た医師らしい男性は、餅を喉に詰まらせて死亡したと診断書を作る。

主人を失った家にいる家族、家政婦等は一時ざわめくものの、高齢だからと冷静に見守る。


これまで政財界を牛耳ってきた大物が、子犬のように、こんなに小さく貧弱に見える。

それとは逆に、俺の存在はますます大きくなっている。

これが時代の変わり目というもの。俺も、ここまでのし上がってきた。


昔、子供の頃は、クラスメートに虐められ、いつも泣いていた。

いつか、こいつらを懲らしめ、のし上がってやろうと思っていた。

それから30年を経て、やっと、ここまで来れたことに感慨無量な気分を味わう。

俺を虐めてきた奴らを、俺の前でひざまつかせてやる。


数日後、大々的にお葬式が行われ、楠グループの巨大さを象徴していた。

1,000人の政界、財界の有力者が弔問に来ていたと思う。

俺の力がここまできたかと笑いを堪えるのに苦労したが。


式が終わり、楠の家に戻る。

楠は、玄関で倒れこみ、大泣きをしている。

俺は大笑いをして、何もできない楠を見下していた。

その時、とんでもないことが起きていることを知らずに。

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