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暗闇の虚構  作者: 一宮 沙耶
第1章 犯罪カウンセリング

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2話 DNA鑑定

「DNA鑑定の結果が出ました。あなたは、紗奈さんだったんですね。驚きました。」

「だから、そう言っているじゃない。」


やっと分かったのかと、見下すように私を見る。

前回は、指をずっと机に打ちつけ、落ち着きがなかった。

今日は、強い目線は変わらないが、心は、少し落ち着いているように見える。

いや、理解者ができたと微笑んだようにも見えた。


でも、好きな男性を奪い取るために、整形と殺人を犯すのは普通の精神じゃできない。

そこまでするとは思っていなかったが、DNA検査がそれを証明している。

今まで以上に、患者の精神が闇に包まれていることを実感した。


何の躊躇もせずに、整形して本人を殺人することができるとは、どこかネジが外れている。

それが普通ではないということを理解させることから始めるのがいい。

患者の理解者で、味方だという笑顔で、質問を重ねる。


「そこで、お聞きしたいのですが、先日の話しだと、紗奈さんが、整形して、一香さんになり変わったのは、手っ取り早いということでしたが、彼を奪うためだったら、一香さんを殺すより、彼に告白して、一香さんから彼を奪い取る方が簡単じゃないですか? 奪い愛とか言いますし。紗奈さんが大学生だった頃の写真を拝見したら、今のお顔と同じで美人だったから、男性からすごい人気だったでしょう。」


美人だと褒めれば、女性なら誰でも悪い気はしないはず。

そんなところから、敵ではないと印象づけて始めるのもいいかと思った。

でも、逆効果だったようで、顔に憎しみが溢れ、心を閉ざしてしまったように見えた。

小細工は通用しないと反省する。


しかし、美人なのは本当だし、別に、そんなに怒る理由は分からない。

もしかしたら、大学生の時に、嫌な思い出があるのかもしれない。

ただ、あまり性急に尋ねるのもよくない。

そんなことを考える私をよそに、患者は話し始めた。


「そんなこと言っているから凡人なのよ。一香はメス豚なのに、隆一をたぶらかして付き合っていたから成敗してあげたの。この世の害は取り除かないとダメでしょ。私は、この世界での正義の味方なのよ。」

「どういうところがメス豚なんですか?」


この言葉で、患者の目は吊り上がり、私を睨みつける。

光の加減で、口が裂けたようにも見え、恐怖感で私の体はすくみ、時間は止まった。

やはり、一香さんに、強い蔑視、敵対心がある。


私は、その突き刺す視線に気づかないふりをして話しを続けた。

でも、患者は複雑に絡み合った過去を整理しているのだろうか、沈黙を続けている。

一旦心を閉ざした患者の前に、私の体には、ねっとりとした湿気がまとわりつく。


こんな時は、患者が頭の整理ができるまで待っておくのがいい。

私は、優しい顔をして笑顔で患者をみつめ、話し始めるまで待つ。

5分ぐらい沈黙が続いただろうか、患者は話し始めた。


「それは、女の体を使って男をたぶらかして付き合っているところ。穢らわしいわよね。ああ、気持ち悪い。隆一も穢れちゃって、かわいそう。」

「そういう現場を見て、そう判断されたんですか?」

「そりゃ、一香は、そんなことでもしないと隆一の気をひけない女だもの。そういえば、ラブホに2人で入って行ったこともあったわね。」


言い方は冷たく、言い放つ喋り方だ。また、思い込みが強い。

ラブホに入っていく姿なんて、実際には見ていないに違いない。

そんなプライベートな行動を見るなんて偶然はそうそうないから。


しかも、付き合っている男女がラブホに入ることがあっても不思議ではない。

それを一香さんの企みで、汚らしいと考えることが常識を逸脱している。

そうかもと思っていると、いつの間にかそれが事実だと思い込んでしまう。

こういう患者は多い。


一香さんへの敵対心は、尋常じゃない。

一香という言葉を言うたびに、下を向き、顔を背ける。

そして、唾を吐きつけるような仕草でしゃべる。


そもそも、男女の関係なんて、外からは分からない。

横から見て女性が男性を騙しているようでも、男性がそんな姿を好きなだけかもしれない。

男性の前で甘えている女性がいても、2人だけの空間では全く違う人間関係かもしれない。

人が外に見せる姿と、本心とが違うことは、この仕事をしていると嫌になる程見てきた。


隆一さんは、一香さんが殺害された後も、患者を一香さんだと思って、結婚までした。

患者も、一香さんをメス豚という以上、体でたぶらかすようなことはなかったはず。

それなら、隆一さんが一香さんを愛していた結果なのだと思う。


隆一さんが鈍感で、一香さんの嫌らしさに気づいていなかったのかもしれない。

それでも、一香さんを愛し、幸せだったのなら、他人から文句を言われる筋合いはない。

患者がなりかわったにせよ、一香さんと結婚して、子供まで作っているのだから。

結婚生活は幸せそうだったと周りは証言している。


患者は、一香さんのプライベートを知らずに、質問に答えを窮したに違いない。

単なる思い込みだと本当は気づきながら、自分を正当化するためにメス豚と言った。

ここは、患者の発言を否定せずに、まずは受け止め、次の話題に入った方が得策。


「そうなんですか。ところで、お父様に娘は生きているって言わなくていいですか?」

「今更、そんなことはしないわ。だって、娘が殺人犯となるんだったら、死んでいる方が、ましだと思うし。」


たとえ自分は悪くなくても、人を殺せば殺人犯だとは理解しているらしい。

常識と自分の気持ちがうまく整理できないだけかもしれない。

ただ、どうして裁判では言わずに、今頃になってー香さんを殺したと言い出したのだろうか。

攻撃的な鎧を纏いながら、実は、良心の呵責に苛まれているのかもしれない。


「じゃあ、私からはお父様には言いません。でも、ライバルの顔に整形するなんて、気分は良くなったでしょう。彼が一香さんを見ているとか、嫉妬しないですか。」

「体なんて箱に過ぎないのよ。私は、どんな顔になっても、体になっても、隆一から愛されていて、幸せだったわ。イヤリングとかで飾るのと同じで、イヤリングに嫉妬なんてしないでしょ。」


最近、ネットで生活している時間の方が多いという人が増えている。

そんな人は、リアルの肉体はどうでもいいと思っていることが多い。

そういったケースでは、現実の罪悪感が失われる。


この患者も、そうなのかもしれない。

ただ、それだけじゃなくて、心の中に強い攻撃性を感じる。


「そうかもしれませんね。ところで、一香さんを殺害した時、その顔をみて何か感じましたか。」

「そりゃ、一香は私のこと知らないんだから、何が起こったのという顔してて、笑っちゃったわ。」


大きく笑っている姿からは、罪悪感なんて一欠片も感じられない。

もしかしたら、笑いながら一香さんを死に追いやったのかもしれない。

普通の人なら、自分が殺した人の顔をみれば、恐ろしさに体がすくむはず。


2人が知り合いでなければ、患者は、隆一さん、一香さんの関係も深く知らないはず。

やはり、メス豚というのは思い込みに違いない。隆一さんと一香さんは仲が良かった。

それに嫉妬した患者が一香さんを殺した。その点は念を押しておいた方がいい。


「結局、一香さんが邪魔で殺害したということですよね。」

「そうかもね。私は隆一が欲しくて、ずっと、一香が邪魔だった。殺して、よかったと思ってるわ。まあ、今は、隆一のことに興味もなくなったから、一香のこと忘れていたのに、先生が思い出させてしまったから、本当に気分が悪くなっちゃう。まあ、世の中のために貢献したんだからいいか。」


淡々と話す様子からは、やはり罪悪感は全くないようだ。

人を殺害して、何が悪いのかを理解していない。

というよりも、一香さんや刑務官は、自分と同じ人間とは思っていないのだろう。


目の前で昆虫が車のタイヤで潰されたぐらいにしか感じていないように見える。

人の命がどれだけ尊いものなのかを理解させるまでにはかなり大変だと思う。

まず、自分の気持ちから考えてもらう方が早道かもしれない。


「彼のどこが、そんなに好きだったんですか?」

「今から思うと、どうしてあんなつまらない男性が好きだったのかと不思議になる。でも、会った時は、見ただけで、この人だと直感で思ったの。彼は、イケメンで、自己主張なんてせずに、女性には、いつも紳士で優しく何でもしてくれるし、いつも相手のことばかり考えていた。」


一目惚れということだろうか。

好きになった理由は女性らしい感情も垣間見られる。

でも、何かをきっかけに隆一さんへの関心はなくなったようだ。


「それでも、仕事で多くの成果を出していて、本当に満点の人だと思ったの。今思えば、遅かったけど、私が初めて付き合った人だったのよね。ただ、逮捕されてからの隆一をみていたら、なんとなく憧れはなくなってしまったけど。」

「心から憧れていたんですね。でも、それまでに付き合ったことはなかったんですか。」

「私は、つい最近まで男性だったから、男性とは付き合えなかったし。」


また、想像を超える話しを始める。

私は、この患者と会うたびに、翻弄され続けていた。

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