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暗闇の虚構  作者: 一宮 沙耶
第3章 洗脳

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1話 逃亡

車体は3回転し、気づくとガラスが散乱して煙が充満している。

何が起こったのかしら。シートベルトが体に食い込んで痛い。

さっきまで車で拘置所に搬送されていた記憶が蘇る。


横を見ると、警官は血を流し、気を失っている。死んでいるのかもしれない。

体は打撲で痛みを感じるけど、まだ動ける。逃げるなら今しかない。

横でぐったりしている警官のポケットから手錠の鍵を取り出し、手錠を外す。


幸いなことに、私が座る横のドアは空を向き、ドアはすぐに開いた。

ガソリンの匂いがあたりに漂っている。早く外に出ないと危ない。

シートベルトを外し、車をよじ登り、外に出る。


外に出ると、トラックがパトカーに衝突してきたように見えた。

トラックは、電柱にぶつかり運転手は血だらけ。

その頭はクラクションの上でうなだれ、クラクションの大きな音が響き渡る。

交差点には、老婆だけが驚いたように立ちすくんでいた。


「お嬢さん、大丈夫?」


私は、この老婆のお腹を蹴り付ける。

いきなりのことで何が起きたか分からずに、老婆はコンクリートの壁に叩きつけられる。

頭を打ち付けたのか、ぐったりとする老婆をパトカーの中に入れた。

老婆は痩せ細っていて、それほど重くはない。


どうしてトラックが衝突したのかは分からないけど、今は、早く逃げないと。

それ以外のことを気にしている時間はない。今なら人に見られずに逃げることができる。

走り出した時に、ガソリンが漏れ出していたパトカーは大炎上した。


老婆が私だと勘違いされる可能性はゼロではない。

そうなったら、私は、もう犯罪者リストからは除外される。

老婆が亡くなったのは、あのメス豚のせい。私のせいじゃない。


それにしても、この格好で逃げると目立つ。

私服とはいえ、この服を着た女性の捜索が始まるはず。早く別の服に着替えないと。

しばらく走った時に、女子学生がアパートに入っていくのを見かける。


私は、ドアを開けた女子学生を後ろから蹴り付け、部屋に入る。

その女子大生は、何が起こったのか分からず、床にうつ伏せになって動けない。

女子大生の頭を横にあった花瓶で殴りつけた。


何回も殴ると、頭から血が流れ出し、生きているようには見えない。

さっきまで逃げることに必死だった私は、我に帰る。

お腹が空いている。冷蔵庫の中を見ると、アイスクリームがあった。


頭蓋骨がぐしゃぐしゃになった女性を見下ろし、アイスクリームを口に入れる。

そして、どんな洋服があるか、部屋を一通り、探してみた。

質素な生活をしている女子大生という感じ。


拘置所で着ていた服を脱ぎ、シャワーを浴びて血を洗い流す。

なんの取り柄もないショーツとブラを付け、ピンクのTシャツと青いパンツを履く。

こんな姿だと、女子大生に見えるかもしれない。逃げる時には役立つ。

引き出しには、家賃と書かれた封筒に8万円のお金もあり、拝借することにした。


アパートのドアを開いて確認すると、周りには誰もいない。今がいい。

壁に置かれたリュックに2日分の着替えを詰め、カーテンに油を撒いて火をつける。

5分ほど歩き、振り返ると、アパートのあたりで黒い煙が立ち上っていた。


私は、以前訪問した整形外科に駆け込む。

逮捕されることもあろうかと、整形外科には現金を渡してあるのが役立った。

医師は、やはりまた来たのかと驚いた様子はない。


おそらく一香の顔で犯罪を犯したことはニュースとかで知っているのだと思う。

それで顔を変えようとしているのだから犯罪に加担するという意識はあるに違いない。

顔を変える理由も聞かれなかったのは、そんな犯罪者を扱っている医師なのかもしれない。


この医師も、何か挫折を経て、今に至っているのだと思う。

前回の整形も、素晴らしい腕前だった。こんな小さな整形外科で終わる人材ではない。

だからこそ、お互いに、共感する所もあるし、お互いに秘密を守れる。


あえて何も聞かないし、聞きたくもないという方針が徹底されているように見える。

医師に紗奈の顔に戻して欲しいと言うと、完全に復元はできないと顔が曇る。

ただ、近い顔でいいと言うと、美人顔にすることは保証すると返事があった。


まあ、私も、この医師を詮索するつもりはない。お互いに利用すればいいだけのこと。

私は、手術台に横になり、まばゆいライトを浴びて麻酔を打たれる。

手術は無事に終わり、包帯のまま病室で4日ほど暮らすことになった。


今日は、病室のベッドで包帯を取る日。

顔が変わり、死亡した紗奈でも一香でもなくなった私は、もう戸籍も何もない女性になる。

一香は事故によってパトカーの中で死亡したことになっていることを祈る。


包帯をとった時の感激は大きかった。

紗奈の面影を残しつつ、あの頃の気になっていたホクロとかはなくなっている。

顔立ちもすっきりし、大人の女性という感じで、これなら満点。


医師からは、まだダウンタイムがあるから3日は入院するよう伝えられる。

1週間程のゆったりとした時間で、隆一との生活を振り返っていた。

あれだけ憧れた隆一だったけど、一緒に暮らしていく中で、何かが物足りなかった。


そう、最初は穏やかな優しさに憧れたけど、裁判ではうろたえ、みっともなかった。

裁判では、主犯が隆一で、私は共犯とされたけど、怯え、反論もろくにできなかった。

それだけでなく、自分のことばかりで、私のことはもう眼中にはなさそうに見えた。


私を守ってくれるには力不足。

そんな隆一を見る私は、白けていた。

どうして、こんな男性を好きになってしまったのだろうと。


隆一を奪うために、整形、殺人まで手を染めたけど、後悔の念にかられる。

どうして、あんな男性のために、逮捕までされることをしてしまったのだろう。

もっと、美しい女性として翔ける道はいっぱいあったはずなのに。


一香は、もういなくなったのだし、もう隆一から卒業しよう。

当面は、男性のことはいい。1人の女性として、ひっそりと暮らしていく。

でも、これからどう暮らしていこうかしら。


銀行口座は警察に押さえられていて、手を出せない。

手を出せても、隆一の稼ぎだけだったから、それほど残金もない。


医師に預けた現金も残りは返してもらったけど10万円しかない。

また、戸籍がないから、普通の会社の面談も受けられない。


病院から出て、夜の街を歩いていると、ガラの悪い男性から声をかけられる。

これから一緒に飲みに行かないかと。空腹だったこともあり、居酒屋に一緒に行く。

この世の中は、美人ということだけで、どの男性も手に入れようとする。


私のことは何も知らないから、楽しく振る舞えるのだろう。

何人も殺害してきたことを知ったら、心から震え上がるに違いない。

もちろん、こんなくだらない男性は、そんなことを伝える価値もない。

ただ、金を奪うための餌食。


何を頼んでもいいし、お金は全て払うと言うのを聞きながら、微笑み、付き合ってあげた。

こんないい女性が惚れるぐらいのいい男性だと、周りに自慢げな視線を送る。

ただ、何でも食えと大声で何回も言うのを聞くたびに、品のないと吐き気がしていた。

こんな一皿 350円ぐらいのお店で、何皿頼んでも自慢することではない。


周りを見渡すと、愚痴しか言わないおじさんばかり。

唯一、許せたのは、この居酒屋の料理はそこそこ美味しい。

特に、この刺身盛り合わせは新鮮で海べのお店みたい。あとは、モツの煮込み。

下層市民が心を許せる短いひと時ということなのかしら。


1時間程して、ホテルに誘われる。

女子大生から拝借した安物の洋服を着ていたから、軽い女性だと思われたのかもしれない。

いくら出すのかと聞くと、3万円だというので同意した。


男性は、私の手を握り、潰れそうなホテルに入っていく。

しかも、居酒屋から遠いのに、タクシーを使わず歩いていく。

別に健康のためとかじゃなくて、お金を使いたくないのだろう。


しかも、女性とやれれば、雰囲気にお金を使うつもりはないというつまらない男性。

そんなんだから、女性には相手にされないということに気づいていない。

手も汗でベタベタし、気持ちが悪い。


まあ、寂しい人生だろうから、バストの谷間ぐらいは見せてあげよう。

いきなり男性の前に止まり、下から男性を見上げ、微笑んであげた。

視線が私のバストに集まる。男性は、誰もが本当に単純な生き物。


ホテルに到着し、いきなり抱きつかれたので、お風呂に入ってからと伝える。

男性は、お風呂なんて終わってから入ればいいと再び口付けをしてきた。

その手を振り払い、私は、清潔じゃなければ嫌なのと叫ぶ。

そんな私の前で、仕方がないと男性はお風呂に向かう。


男性がシャワーを浴びている間に、現金とキャッシュカードを盗み、ホテルを出る。

3万円だと言っていたのだから3万円以上の現金は確実に持っている。

バカな男性だこと。風俗の女性なんて、自分を騙すはずがないと考えている。


まあ、こんなにつまらない男性と付き合ってあげたのだから、このぐらいの対価は当然。

素敵な私と一緒の時間を過ごせたことに感謝しなさい。

シャワールームからは鼻歌が漏れてくる。


私は、鍵も閉めずにパンプスを履き、部屋から出る。

女性を買おうと誘っていながら騙されたなんて、警察に恥ずかしくて言えないに違いない。

まあ、抑えられない欲求は一人エッチで賄いなさい。


こんなことを繰り返し、安いPCとカードリーダーを手に入れる。

アプリでキャッシュカードの暗証番号を探し当て、銀行口座からお金を抜き取る。

そんなことは ITを少しでも学べば誰でもできること。


一部は、利用停止になっている。

でも、大半は暗証番号が分かるはずがないと思ったのか、放置されたままだった。

この世の中の人達は、本当にバカばかり。


500万円ぐらい手に入り、20人目のターゲットだったと思う。

紳士風で、威厳もあり、こんな私に声をかけるよりはビジネス界で成功している感じの人。

まあ、たまにはB級グルメもいいかなという感じかしら。

それとも、見た目と違い心は下品なのかもしれない。


ホテルは赤坂プリンスホテルのスイートに入る。

やはり、相当のお金を持っているのだと思う。

銀行口座からたんまり抜き取ってやろう。


紳士な男性は、焦ることなく、私の要望を受けてゆっくりとお風呂に向かう。

背広のポケットから財布を抜き出した時だった。

背後に急に威圧感を感じ、ドスの効いた声をかけられる。

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