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暗闇の虚構  作者: 一宮 沙耶
第2章 性転換

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10話 逮捕

一香は、なんとなく昔とは違うような気もする。

目の裏側に、何か殺伐とした、昔と違う鋭い気配があるような。

いや、人は時間とともに年をとり、変わるもの。勘違いに違いない。


これまでも、これからも、ずっと僕を愛してくれる一香を大切にしなければ。

僕からこの幸せを壊してしまってはいけない。

今日、ずっと計画していたプロポーズをすることにした。

もしかしたら、別人かもという疑念を消し去るためだったのかもしれない。


今夜、銀座7丁目にある高級フレンチに一香を誘っていた。

入口に入ろうとすると、お店のスタッフが重いドアを厳かに開け、中に通してくれる。

一香は僕に笑顔を向けて、腕に手を回し、ゆっくりと入った。


目の前で円を描くような階段を降りていき、吹き抜けで開放感があるテーブルに座る。

今夜は大切な日。僕には似合わないような一番高いコースをお願いしてある。

高級なシャンパンがグラスにつがれ、一香と僕は、2人の明るい未来に乾杯をした。


「一香、今日は、再会してから1年目だね。プレゼントがあるんだ。」

「なに、なに。ワクワクする。」


僕は立ち上がり、膝を床につけて赤い小さな箱を一香に差し出した。


「この婚約指輪を受け取ってください。」


一香の目には涙が溢れている。

そう、これがずっと僕が愛してきた一香の表情。

周りのお客も、僕らの様子をみて拍手をし、祝福をしてくれていた。


「ありがとう。本当に今日は最高の日。嬉しいわ。こんな私だけど、よろしく。」

「一香がいてくれて楽しく過ごせた。これからも、ずっと一緒にいて欲しい。」


僕らは結婚し、平穏で笑顔で溢れた日々が続く。

ある日、ベットの中で、一香は僕に将来について尋ねる。


「ねえ、子供って何人欲しい?」

「そうだね。女の子、男の子の2人かな。」

「なんか、幸せそう。そろそろ、作らない。」

「いい時期かもしれないね。」


僕らは妊活を始めた。

子供ができやすい日を調べて、その日は早く帰り、一香が作る精力がつく料理を食べる。

夜は、これまでのようにコンドームをつけずに体を一つにする。


一香は本当に子供が欲しそうで、子供の肌着とかすでに買い始めていた。

僕には、子作りの日の数日前から、飲み会とか断って体力を温存してと頼む。

一香の願いには応えてあげたいし、僕も子供は欲しい。


半年ぐらい経った頃、生理が来ないので病院に行ったら妊娠したと一香から伝えられた。やっと、一香との子供ができるんだね。

エコーで調べたら、女の子だろうって。可愛い女の子に違いない。

一香と僕の子供なんだから。名前は何にしよう。


一香は、最初、つわりはしんどそうだったけど、落ち着くとお腹が大きくなっていく。

中からぽんぽんと叩くことも増え、喜んでいた。

私の子、本当に可愛い、愛してるわと口癖のように話していた。


そして、しばらく経った頃、夕方に陣痛が激しくなって、病院まで車で連れて行く。

次の朝には、元気な女の子が生まれた。

これが一香と僕の子なんだと感激する。とっても、可愛い。


一香が抱きしめたときだった。女の子が喋った。


「私の隆一を返して。」


生まれたばかりなのに話すはずがない。

看護師さんには聞こえていないのだろうか。さっきと変わらず笑顔を一香に向ける。

一香にも、その言葉は聞こえたように見えた。


一香は、赤ちゃんをずっと睨み続けている。

でも、次の瞬間、聞き間違いだとでも言うように、笑顔で赤ちゃんに話しかけた。


「ずっと、私と一緒に暮らそうね。」

「隆一は私のものだから、早く別れて。」


この声は、さっきよりはっきりと聞こえた。

一香は、蒼白となり、赤ちゃんを投げ出していた。

生まれたばかりの赤ちゃんは床にぶつかり、首が曲がっている。


さっきまで泣いていた赤ちゃんは静まり、息をしているようには見えない。

そもそも、さっきの返せとか、僕が自分のものだとか、どういう意味なのだろうか。

一香は目の前にいる。ただ、一香はその意味を理解しているようにも見える。


いや、理解できないことが起こり、それを否定するために赤ちゃんを投げたのだろう。

分からないことだらけだ。

一香も正常な精神状態には見えない。涙を流した顔で、口元はさっきの笑顔のまま震えている。


一香は、目の前で、自分の行為によって子供が亡くなったことで呆然と佇み続けている。

産婦人科の医師達だけが慌ただしく動き回る。

もう、息をしていない赤ちゃんを抱き抱えながら、心拍数を確認している。


それから1時間後、産婦人科に警察が来て、一香を連行していった。

一香はうなだれ、パトカーに乗せられる。

一瞬、顔を上げ、パトカーの窓から僕を見つめた。


僕に向かって、口が動き、何かを言おうとしているように見える。

でも、すぐに下を向き、パトカーはその場を去っていく。

何を言いたかったのか分からない。


僕らは、口裏を合わせないようにということなのか、拘置所で会うことができない。

だから、結局、それからも、何を言ったのか聞くことはできなかった。


週刊誌が、一香が生まれたばかりの子供を殺したという事件を騒ぎ立てる。

これが沙奈の父親の目に止まり、子殺しの妻の夫である僕の顔を見てしまう。

娘の部屋にある写真に僕が写っていると警察に訴える。


それを契機に、警察がまた動き始めた。

僕が一香と紗奈の2人と付き合い、邪魔になった紗奈を殺したという線で捜査が進む。

警察は、僕らが、殺人があった直後から1年間、付き合っていなかったことにも注目する。

ほとぼりを冷ますためだと考えたらしい。


僕は、その1年間は一香と連絡が取れなくなっていたと説明する。

でも、どうして、そんな都合のいい時期に別れるんだと信用してくれない。

男女の関係は理屈じゃないでしょうと言っても、刑事は、取り合ってくれなかった。


僕が沙奈を知らないと証言したのに対し、写真が残っていたことが決定打になった。

嘘を言っていると検察側が強く主張し、裁判は僕に不利に進んでいく。

そして、その裁判で、紗奈の父親が、証人として証言した後、僕に急に叫んだ。


「我が子を殺したのはお前だ。我が子を返してくれ。」


一香は、何か感じるところがあったのか、下を向き続ける。

一香は、紗奈という女性に何もしていないし、そもそも、そんな女性を知らないんだろう。

僕らは、この父親なんて見たこともないし、関係もない。


自分は犯人じゃないって、自信を持って言えばいいのに。

僕は、最後まで、全く記憶になく、殺した事実はないと主張し続けた。

一香も、妻として、僕と同じ主張を続ける。


でも、時間が経つに従って、一香から表情は消えていった。

投げやりで、どんな刑になっても良いという感じ。

当然のことなのかもしれない。我が子を自ら殺してしまったのだから。


僕を好きだと言っていた一香は心を失い、もう僕に興味もなくなったのかもしれない。

会っても、目線が合うことがない。僕は、一香のことをずっと愛しているのに。

そんな一香の姿を見て、警察では、僕だけで紗奈を殺したという主張が強まる。


一香は我が子を殺したものの、紗奈の殺害には関与していないと。

我が子殺しは精神異常となった結果で、刑が減刑されるかもと検事から囁かれる。

紗奈を殺したのは僕だけで、一香の犯罪じゃないと。


夫の罪を一緒に背負うのが妻の役割と勘違いしていないかと。

自暴自棄にならずに、自分の罪を背負うのが犯罪を犯した人の責任だと気づいて欲しいと。

他人の罪まで背負うのは、僕のためにも良くないと。


僕も無罪なんだ。どうして分かってもらえないのだろうか。


「次回は判決となります。」


裁判官は冷徹に今日の公判の閉会を宣言する。

一香は、僕と別々に車に乗せられ、拘置所に向かった。

5分程経った頃だった。一香を乗せた車は、いきなり大きな衝撃を受けて横転する。

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