僕を取り巻く環境(文句あり)
「ですから!いりませんってば!」
「いつまで意地を張っておる!【支援兵】を付けろ!」
「【女性兵】なんかいなくてもやっていけます!」
僕、ユーリが今ケンカ…もとい議論をしている相手は【カテリーナ・リリエンタール中佐】で僕の直属の上司だ。
カテリーナ中佐はリリエンタール伯爵家の長女。生まれつきのお転婆娘で社交は絶望的とされ、成人とともに軍へ入隊した。家柄だけでなく本人の実力もありすぐに中佐へ昇進。特務兵を率いる役職に就いた。
でまあ、普通なら僕がけんか腰に議論していい相手ではない。伯爵家長女と孤児、中佐と少尉だからね。
そんな僕らが何を言い合っているかというと、支援兵を僕に付けると中佐が言ってきかないのだ。
同時に僕も支援兵は断固拒否している。
これには複雑な理由がある。
まず【特務兵】にはほぼ男性しかいないこと。特異能力の発現が、男性の方が戦闘向きなのだ。
次に【支援兵】だが、これは特務兵について回り名前通り支援する、そういう特異能力持ちの兵士なんだが…ここで問題がある。
【支援兵】は、全!員!若い女性なのだ!
女性に支援系の特異能力が発現しやすいのもあるのだが、それだけではない!【特務兵】どものシモの世話まで任務の内なのだ!
これが僕は嫌だった!
何故なら…恋をしているからだ…。
相手は…今言い合い真っ最中のカテリーナ中佐だ。
はっきり言って一目惚れだった。
夜空のように煌めく長い紺色の髪を後ろで束ね、切れ長の目と青空のような瞳。女性としては高い身長に、しっかりとついたしなやかな筋肉。そして豊満な胸と尻。
まさに美の女神。
そのうえ人格者で性格も良い。訓練の厳しさは生き残ってほしいという優しさからだと分かるし、上申しても頭ごなしに否定しない。案が出尽くすまで議論してくれる。部下を心配して増員まで考えてくれる。(今の僕には余計なお世話だが)
そんな女性に惚れるなというのが無理だ。
だから僕は単独で任務に向かう。支援兵なんて戦績を下げるだけだし、カテリーナ中佐に身も心も捧げたい。
そのために危険な任務に志願して、単独で任務を遂行する。戦果を上げれば昇進出来るし、佐官になれば【士爵】という爵位も貰える。
カテリーナ・リリエンタールとの将来を望むならば、最低でもそこまでしなければならないというのに…。
そのカテリーナ中佐が支援兵を付けろとうるさいのだ。
「と!に!か!く!僕はぜーったいに!女性兵なんて付けませんから!」
「……はぁ、わかったわかった。何がお前をそこまでさせるのか私にはわからん。わからんがひとまずこの議論はやめるとするよ」
わかってもらえたようでなによりだ。ただ…
「…今回の任務、そんなに危険なんですか?僕に支援兵を付けたくなるほどに?」
カテリーナ中佐が腕を組む。豊満なそれがむにゅりと潰れる。
「上層部はお前さんに『死んでこい』と言いたいらしい…」
「そこまでですか…」
はなから帰還を考えてない作戦てわけね。中佐の心労を増やすなよ、ぶっ殺すぞ上層部。
「で、細かい内容は?まさか正面から玉砕しろって訳では無いんでしょう?」
「まあ、な。実は【王国】と【帝国】がそれぞれ中隊規模で我が国に進軍中だ。そのうえ、【商業都市連合】がきな臭い。傭兵を集めてるという情報が入った」
で?僕の役目は?
「特務少尉単独で帝国の中隊を撃退、または足止めせよ、とのことだ」
「ついに気が狂ったのですか上層部は」
「私もそう思うよ…」
とりあえず歴史と地理と経済のお勉強の時間です。
まず我らが【公国】、元は【王国】の領土の一部でした。元公爵領ね。で、元公爵領はだだっ広くて、領地は山林に囲まれてて、真ん中には広大な平原があって、王国内では辺境だったのよ。うん、独立しやすい。
諸々あって独立したはいいものの、今度は北から【帝国】に狙われ始める。帝国は領土拡大政策を続けてるので、おおかた王国への橋頭堡にしたかったんだろうね。
お次は西の【商業都市連合】、こいつらは以前から公国を取り込もうと画策してた。けど公国は取り合わず、焦れて強行手段に出ようとしてるっぽい。
一応南には小国家群があるんだけど、大人しいし公国と交易してくれるので信用していい。
とまあそんなわけで東と北からは軍が、西には傭兵がいて囲まれてる状況。公国ははっきり言って強い。独立出来ちゃうくらいには強いのだ。でも今の状況はちょっとだけマズい。
なので特務兵の中でも突出した戦果の僕が、一番危険な任務を任された訳だ。
「任務了解致しました。ユーリ特務少尉、出撃します」
「ああ…必ず帰ってこいよ」
そんな切ない顔されたら、帰らんわけにもいかんでしょうに。




